以前、この連載でも少し書いたことがあって、湯浅学さんが『ビッグコミックスペリオール』で連載している、「ライク・ア・ローリング・カセット」に出させてもらったときも、話したことがあるのですが、今回紹介したいのは、キース・ジャレットのケルンコンサートのアルバムです。外国語表記だと『The KÖln Concert』。
最初、カセットテープで買いました。世の中に、まだCDがなかったころの、お話です。
そのころ、わたしは、中学生でした。まだロックというものがよくわかってなくて、でもロックを好きな人間になりたいと思っていた時期です。
そんなわたしでも、ローリング・ストーンズは知っていました。そして、いろいろな、音楽雑誌などを読んでいると、どうも、本当のロックンローラーというのは、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズらしいということがわかりました。つまり、セックス&ドラッグ&ロックンロールというやつですね。また、当時は、キース・リチャーズだったり、キース・リチャードだったり、なんだか、よくわからなかったのだけれど、とにかく、キースという名前だけは、しっかり覚えておいたのです。
それで、あるとき、貯めた小遣いでレコードを買おうと思って、近所のレコード屋に行ったら、白いジャケットで、パーマ頭の男の横顔の写真のカセットが、ズラーっと並んでいたのです。
なんだか、お店の人の、おすすめ的な感じだったのか、棚にたくさん置いてあったのを覚えています。
それで、わたしは、キースってのは、あの、ロックのキースだなと思って、そのカセットを手に取ったのです。どうしてレコードではなかったのか、よく覚えてないのですが、とにかくカセットだったのです。
値段も4000円で、中学生のわたしにとっては、とんでもない高額でした。正月に爺さんの八百屋を手伝ったり、お小遣いを貯めた貴重なお金です。
けれども、ロックを知るには、この人キースからだと思い、4000円払って、思い切って買ったのです。
そして、家に帰り、カセットをステレオにセットして、聴いたときに愕然としました。キースはギター弾きのはずなのに、スピーカーから流れてくるのは、ずっとピアノの音でした。たまに、弾きながらの唸り声も聴こえてきます。なんだかわけがわからなくなりました。
インターネットもないから検索もできず、これが、キース・ジャレットというピアニストだと知ったのは、だいぶ後のことでした。
カセットは、4000円も払ったので、もったいなくて、なんだかわからないけど、毎晩のように聴きました。
寝る前には、ケルンコンサートといった感じで聴いてたら、キースが唸る場所や、ピアノの音がどんな感じで展開するかまで、覚えてしまいました。
そしていつの間にやら愛聴していて、いまでも、大好きな、アルバムです。その後、キース・リチャーズの、ソロ・アルバムも手に入れ、これも大好きな一枚でございます。