前回は、野坂昭如さんのことを書いたけれど、今回は、中年御三家のもう一人、小沢昭一さんの『ドキュメント「日本の放浪芸」』を紹介します。
ちなみに中年御三家とは、野坂昭如さん、小沢昭一さん、永六輔さんで組んでいたもので、自分も、中年御三家のことは、リアルタイムではよく知らないのですが、かつて、三人、自ら名乗って、コンサートをしたり、テレビに出たり、いろいろ活動をしていたそうです。多分当時は、なになに御三家というのが流行っていたのでしょう。
でもって、『ドキュメント「日本の放浪芸」』、これは、小沢昭一さんが、日本各地を歩きまわって、お寺の坊さんの説教、門付け芸、絵解き、見世物小屋、流しの人、祭りのテキ屋さん、バナナの叩き売り、競輪の予想屋、猿まわし、などを訪ねてフィールドワーク録音をしているものです。
資料としても大変貴重なのですが、小沢さんが、映画に出てる人だとバレそうになると、「違う、似てる人だよ」と酔っ払った演技をしながら誤魔化すところなども、最高に面白いのであります。
とにかく、1960年代あたりの日本の雰囲気が、音になって詰め込まれた、タイムカプセルのようなCDであります。
しかしながら映像で、日本の昔を振り返るというのは、よくありますけれど、これは、音だけであり、それも、ものすごく濃密に録音されているのです。
でもって、録音された音を聴いてると、なんなのだろう、この猥雑な感じは、と思えてきます。そして、今の日本という国を考えると、一昔前の日本は、全く違う国であったのではないかと思えてくるのです。
だから郷愁というものよりも、ものすごい異質感があります。そして、その異質さを感じるほどに、ぞくぞくするのであります。このぞくぞくが、ものすごく音楽的であるのです。それは、魂に、突き刺さってくるような、人間の根源的な姿が溢れ出ているからなのでしょうか。とにかくCDを聴いてみてください。タイムマシンに乗って、よくわからない時代へ、タイムトラベルさせてくれることでしょう。
また、続編の『ドキュメント又「日本の放浪芸」』というのも素晴らしく、その続編、『ドキュメントまた又「日本の放浪芸」』というのもあります。そして、まだまだ、『ドキュメント「まいど・・・・日本の放浪芸 一条さゆり 桐かおるの世界」〜小沢昭一が訪ねた「オールA級得出(トクダシ)特別大興行」』というのがありまして、これも、とんでもなく、面白いのです。
時代が変われば、世も変わるわけで、すべては、いつか忘れられていくのです。そんな気持ちになりながら、タイムマシンに乗るのも一興であります。
とにかく、このドキュメント・シリーズ、ちょっとお高いですが、図書館とかには絶対置いて欲しいものであります。