フェミ・クティの『ライブ・アット・ザ・シュライン』というドキュメント映画を見た。その会場、客のテンション、雰囲気、すべてが、想像を超えていた。見ているだけでも、こりゃ、ちょっと危険なのではないかと思えてきて、怖くなったりもした。
映画では、フェミ・クティのインタビュー最中に、どこからやってきたのか、後方で、突然叫び出す、狂った人が出てくるのだが、フェミ・クティは、その人が、叫び終わって、居なくなるまで、和かに黙って待っているのだった。とても印象的だった。フェミ・クティの心の広さと、優しさを垣間見れた。
フェミ・クティの、お父さんは、あのフェラ・クティである。そして現在、フェミ・クティが活動している、ニュー・アフリカン・シュラインは、父、フェラ・クティの意志を継いで、できた場所である。
父のフェラ・クティも、シュラインという場所を持っていた。そこで彼は、ナイジェリア政府の不正を訴え、戦いつづけた。そのことが書いてあるものに『フェラ・クティ自伝』(KEN BOOKS発行)という、素晴らしい本がある。
フェラのたくさんいた妻の証言や、生い立ちなどが、たっぷり記されている。そして、最後は泣かずにいられないくらい悲しい、そんなフェラ・クティの生涯、是非読んでみてください。
でも、このページは、映画の紹介場ではなく、本の紹介場でもなく、音楽の紹介場なので、お勧めの音楽アルバムを紹介します。
そこで、今回、ご紹介したいのが、フェミ・クティの『No Place For My Dream』というアルバムです。まず、ジャケットの写真がとても印象的です。ゴミ山のスラムの中を、頭に紫のプラスチックタライを乗せた女性が歩いています。この写真の、荒んだ場所を指して、『No Place For My Dream』と言っているのだろう。そして、社会的メッセージの強い作品でもある。
フェミ・クティの声は、お父さんの、フェラ・クティと比べると、優しい声をしている、なんだかフィルターがかかったような声なのだ。でも、そこが良い。
そして、不思議な感じのコブシまわしで、歌う。それは、どこか悲しげである。憂いでいる、そして怒っている。
とにかく聴いていて、そのリズムが徐々に、うねり出してくると、「よっし、自分もやらなくちゃならねぇぞ!」と思えるのです。
2曲目の「The World Is Changing」には、歌詞で、いろいろな国名を唄うところがあって、「JAPAN」という言葉が出てきます。
その部分が聴こえると、わくわくします。そして、フェミもアフリカの地から唄ってくれているのだから、頑張らなくてはと思うのでした。
profile
戌井昭人(いぬいあきと)/1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。他に『俳優・亀岡拓次』などの作品がある。