ステレオで、音楽やラジオをかけっぱなしで眠ると、たまに、とんでもない夢を見ることがあります。だいたいが悪夢です。けれども、むかしから寝る前に音楽をかけていたいという欲望があったりもします。
ラジオをかけっぱなしにして寝ていたら、国会議事堂にいて、政治家になっていた夢を見たことがあります。目を覚ましたら、国会放送をやっていたのですが、なんだか、とても嫌な気分になりました。そして絶対、政治家なんかになるものかと思いました。
とにかく、自分は、音楽をかけながら、ゆったりと眠りに落ちていくのに憧れていて、ジャズ、フォーク、クラシック、アンビエント、カリプソ、レゲエ、いろいろ試してみたのだけれど、結局、眠りながら聴ける音楽というのは、あまりなくて、良い音楽や好きな音楽だと、聴き込んで、興奮して、余計、眠れなくなったりします。落語や浪曲だと思って、寝る前に聴いたこともありましたが、やはり、たいがい興奮してしまい、眠れなくなります。それならば、うるさい居酒屋の便所でかかっているような、普段聴かないものがいいのかと思ったけれど、そうすると、音を消したほうが良いということになります。
このように、いろいろと試してみて、寝る前に聴く音楽で好ましいのはなにかと考えると、いまのところ、The KLFの『Chill Out』でした。しかし、このアルバム、なんなのだろう? 紹介しておいて、わたし、The KLFのことよくわかってないのですが、聴いていると、身体が、どんどん弛緩していくような感じになります、でも途中で、ドキッとさせられたりします。爆音で聴くのを勧めます。だから、結局眠れないのだけれど。
それにしても、このアルバム、どのように説明したらいいかわからないので、聴き拾った音を文字にしてみます。
『虫の音、電車が走ってきます、その後、「ピュインピュイン、ウォーン」と、シンセの音で半分宇宙へ、いきなり貨物列車、虫の音、踏切、「チンチンチン」「パウォーン」とクラクション、牛「モー」、カウベル、おっさんの掛け声、羊「メーメー」、犬「ワン、ワン」「ウォーン」とシンセの音で半分宇宙へ、そこにホーミーみたいなの、おっさんの唸り(ここちょっと怖くなるから気をつけて)、ホーミー絶頂気味(怖くなってきて、早く終わらないかなと思う)、バイク、車のエンジン音が通り過ぎ、ホーミーおっさんいなくなる(安心)、シンセ、宇宙の方へ「プイ〜ン」、落ち着きを取り戻し、せせらぎ、虫、遠くで歌声、叫んでるおっさん、車、電車、ガタンゴトン、エルヴィス・プレスリーの歌声がどこからか聞こえてくる(ここが一番好きです)、電車の音、ガタンゴトン』
ここまでで、まだ半分、もうきりがないから止めます。あとは、実際に聴いてみてください。素敵に、わけわからない気分になれます。そして、The KLFの『Chill Out』のアンサーアルバムで、DJ YOGURTさんの『Chill Out』というのも出ています。これも大変良いのです。というか、DJヨーグルトさんて、名前素晴らしいですよね。わたしヨーグルト好きなので、たまりません。あと、DJ YOGURTさんのアルバムに、その名も、『Sound Of Sleep By Yogurt From Upsets』というのがあって、これも最高で、布団の中で聴きながら、宇宙みたいなところへいざなってくれます。
profile
戌井昭人(いぬいあきと)/1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。他に『俳優・亀岡拓次』などの作品がある。