今回から、ルーフトップにて、連載をさせていただきます。戌井昭人ともうします。普段は、小説などを書いていて、『鉄割アルバトロスケット』という、なんだか、わからない、ヘンテコな集団で脚本を書いたりして、わいわいやっております。どうぞよろしくおねがいします。ここでは、普通に、自分の好きな音楽のことなどを考えて書いて、アルバム紹介などを勝手させていただきたく思います。
そんでもって、これまでの人生で、一番聴いた音楽アルバムは何であろうかと考えた。現在は、iTunesの再生回数を見ればわかるけれども、40年以上生きているので、レコード、CD、MDやカセットテープに録音して聴いていたものもふくまれる。ちなみに、iTunes再生回数は、森進一の『港街ブルース』が一位だった。その後に、Roland Kirkの『Hot Cha』が抜かした。どちらも好きな曲であるが、これは小説を書くとき、題材に使うため一日中流しっぱなしにしてたので、そのようになってしまったのだった。
そして、思い出し、考えた結果、一番聴いた音楽アルバムは、CANの、『CANNIBALISM2』でした。このアルバム、20歳のころから、20年以上、聴いている。現在はたまにしか聴かないけれど、あのころは、毎日のように、部屋の中、車の中、ウォークマンで聴いていて、それが何年も続いたのだった。
最初に、CANを知ったときは、本当に驚いた。学生時代の後輩に、「カンが良い」と教えてもらった。そして当たり前のように、「しーんぱい、ないからね、の?」と、『愛は勝つ』のKANと勘違いした。その後、自分がCANを聴くようになって、「どんな音楽好きなの?」と訊かれたとき、「カン」と答えると、「えっ?」と言われるようになった。CANを知らない人からしたら、カンはKANなのである。だから、知らなそうな人に訊かれたときは、「カン」と答えないようにした。そして、もう「カン」とすら答えないようになった。でも、いまでも、カンは本当に好きなバンドです。
CANの『CANNIBALISM2』は、ベストアルバムなのだけれど、最初に聴いたとき、しょっぱなの『UP HILL』に、小便ちびりそうになった。ど肝を抜かれた。尿道から油が流れた。語るようにリズムを刻みながら、しびれる声で唄う、マルコム・ムーニー節炸裂、ザクザクしたギターの音、ズビズビのドラム、「なんなんだよこれ格好良すぎるよ!」と泣きそうになった。しかし、当時は、たいした情報もなく、CANが、どのようなバンドなのか、よくわからなかった。ドイツのバンドであるとわかったけれど、歌詞は英語だった。そして、ボーカルが変わると、突然、日本語が聴こえてきた。あのときの驚きはいまでも忘れない。混乱した。『DoKo-E』という曲だった。「公害の島へ」という言葉が聴こえた。これが、ダモ鈴木との出会いです。また、本アルバムに収められている『Turtles Have Short Legs』は、永遠の名曲であります。
近年、YAMASUKI SINGERS『YAMASUKI』を聴いたとき、あのときの、ダモ鈴木の、突然聴こえてきた日本語を思い出しました。YAMASUKI SINGERSも最高ですから、未聴の方は、なんの予備知識もなしに聴いてみてください。ちょっとだけ、豆知識として、ダフトパンクの片方のお父さんが、昔、録音したものらしいです。
『美しい日本語』などと言いますが、『トチ狂った日本語』というものも最高で、素晴らしいと思えます。
profile
戌井昭人(いぬいあきと)/1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。他に『俳優・亀岡拓次』などの作品がある。