ドラムの演奏を、足と手、いわゆる四肢を使って刻々と変わる状況に対応し続ける作業。と捉えると、よく似た作業がある。車の運転である。バイクでもよろしい。
免許を取って独りで車を最初に運転する時は、もう大変。ペダルの操作、交通標識、歩行者、対向車の有無や状況がいちいち気になり、近所を少し走っただけでクタクタになってしまう。ところがひと月も経つと、同乗者と話などをしながらでも、いつの間にか目的地に到着できるようになる。最初のうちは信号などについて、「赤! ブレーキ!」などと“意識”していたものが、慣れると特に意識しなくても、ある程度自動的にできるようになる。
脳は物事に慣れると、物事を意識する回路をパスして、かなりの行動、状況分析を半自動で行なえるようになるのである。実際、人と話しながら運転していても、人が飛び出してきたりすると、ちゃんと回避行動も取れる。慣れる。習熟する。とはこういうことなのである。
もちろん演奏がすべて自動的になってしまったらアドリブも何もなくなって「何がクリエイティブやねん」ということになってしまうが、ドラムの各楽器の基本的な動作と多用しそうなバリエーションなどに関しては日頃から習熟していないと、逆に周囲の状況の変化や思いつきに対応できまい。実際の演奏中に「えっと、パラディドルは?」などと考えている時間はない。フレーズを思いついた瞬間に無意識のうちに手が動かないと、すぐ手遅れである。定番フレーズくらいは手が勝手に動くように習熟しておきたい。
大変そうだが、人間はこれができるようにできている。ちなみに脳のこの機能を上手く使うには、適度にリラックスしていることが重要である。演奏中「あれっ?」と不安になった瞬間、普通にできていた演奏がメタメタになった経験は誰にでもあるはずである。ヘタに意識が参加して、脳の処理速度が落ちるのである。
つのだ☆ひろさんが昔、「練習の時は『俺は世界で一番ヘタだ』と思って、本番では『俺が世界で一番上手い!』と思ってやりなさい」と言っていた。脳の機能から見ても、この言葉は正しい。
▲うーん、この車は運転が難しそうだ…。
テリー・ボジオのドラムセットだけどね…。
三原重夫
1976年、セットドラミングを始める / 1986年、ローザ・ルクセンブルグ『ぷりぷり』でデビュー。ローザ解散後、メトロファルス・ルースターズ・スターリンに参加。その後フリードラマーとし て、様々なレコーディングやツアーに参加 /1997年、ドラムチューナーとしても活動開始。ドラマー、ドラムチューナー、エンジニアなど、25年ものキャリアを誇る。
http://i.gmobb.jp/mihara/
https://twitter.com/mihasige
1976年、セットドラミングを始める / 1986年、ローザ・ルクセンブルグ『ぷりぷり』でデビュー。ローザ解散後、メトロファルス・ルースターズ・スターリンに参加。その後フリードラマーとし て、様々なレコーディングやツアーに参加 /1997年、ドラムチューナーとしても活動開始。ドラマー、ドラムチューナー、エンジニアなど、25年ものキャリアを誇る。
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