Rooftop ルーフトップ

COLUMN

トップコラムISHIYA 異次元の常識第78回「ただ、それだけのことさ」

8回「ただ、それだけのことさ」

第78回「ただ、それだけのことさ」

2026.04.10

doom.jpg

Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

「真実を見ない、感じない」構造は、俺たちの日常そのものに現れている

 2026年4月1日より、自転車にも交通反則通告制度、いわゆる青切符が適用され、あわせて車が自転車を追い越すときの新ルールも施行された。今さらここで詳細は語らないが、この法改正は自転車ユーザーにも自動車の運転者にも、ただの迷惑でしかない法整備だという声が多数上がっている。
 例外的に歩道を走れる場合はあるものの、実質、自転車はこの法整備では車道を走らざるを得ない。自動車が自転車を追い越す場合にも、充分な間隔を保ち、間隔が取れないときは安全な速度まで落として進行しなければならない。
 警察庁資料の目安では、自転車等と1メートル程度の間隔を確保できない場合、時速20〜30km程度とされている。追い越し禁止のセンターラインがある道路では追い越しもできず、自転車の後ろを走るしかなくなる。
 そもそも路上駐車も多く、交通量の多い都会では、小さな子どもを乗せた親などに車道走行は危険しかない。
 
 他にも様々な現実的ではないルールがあるのだが、そもそも日本の道路事情では、自転車専用レーン自体が少ない上に、あったとしてもおざなり的な、どう見ても「専用」とは思えないものばかりだ。
 インフラ整備すらされていないのに法改正をし、違反すれば反則金等の対象だ。この国で生活している人間なら、誰もが明らかにおかしいと感じるルールだと思う。
 無理やりひいき目に見れば、この法整備により自転車の危険運転を減少させるための抑止効果としてなら理解できなくもない。しかし実際切符を切られたら、これほど矛盾した制度に腹を立てるのは当然だろう。
 
 自動車にとっても死活問題だ。物流などを担う大型トラックは一体どうすれば良いのか。時間通りに届けないと命の危険に関わるものなどもある。それでもルールを破れば反則金だ。
 それならば、物流の遅延や自転車の車道走行による危険への措置や補償があるかといえば、ない。穴だらけの身勝手な上辺だけを取り繕った機能不全の法整備だ。
 歩行者のお年寄りや体の不自由な方には安心できる法改正だとは思う。その部分は非常に重要だ。しかしインフラ整備なき今回の法改正の運用は混乱でしかなく、あまりにも現実の認識が欠如している。
 こうした「安全圏から勝手に決定し、現実に負担がかかる」という構造は、法律だけの話ではない。
 
 今年W杯が行なわれるサッカー日本代表だが、女性への性的暴行によって不同意性交で逮捕され、不起訴になった佐野海舟が代表の選手に選ばれている。ここまでは「そう決まった」という話だ。だが、その決定を「仕方ない」「もう終わった話」として飲み込んでしまうサッカーファンがあまりにも多い。その心理が俺には信じ難い。
 俺はほぼ毎週スタジアム観戦に行くほどサッカーが好きだ。だから余計に腹が立つ。報道では逮捕に至り、本人も関与を認め謝罪したとされている。不起訴は無罪判決ではない。不起訴には理由がいくつかある。被害者との示談が成立すると、不起訴(起訴猶予など)になることが多い。
 冤罪であれば示談などする必要はない。徹底的に戦えばいいだけだ。
 その上で日本サッカー協会や代表監督が、佐野海舟を選んでいいと判断し、サッカーファンまでもがそれでいいと考え、正義としてまかり通ってしまう。そんな人間の活躍で勝って嬉しいのだろうか。他にも同じポジションができるいい選手が山のようにいるにもかかわらずだ。
 
 この被害者とは話し合いが持たれたという報道も見られた。しかし被疑者と被害者が、嫌疑中に直接話すなど、俺の経験では聞いたことがない。おそらく弁護士同士の話し合いだろう。そして、代表復帰に関して話したかどうかは定かではない。いくら話しても恐怖感しか蘇らず、早く忘れたいがために事件自体を終わりにするのもひとつの方法だ。
 謝罪内容も話し合った内容も定かではないが、現実に逮捕され謝罪している。冤罪ならば謝罪はしないだろう。
 女性への性的暴行で逮捕され、冤罪ではない選手を国の代表に選ぶスポーツのファンだと言ったら、あなたならどう感じるか。
 そのスポーツが好きだというだけで、まとめて性的暴行容認者として見られかねない。実際、サッカーが好きではない人たちにはそう思われても仕方がないだろう。
 一生懸命サッカーに打ち込んでいる選手たちや、ファンをも蔑ろにする決定だとも気づいていない、驚異的な認識不足だ。
 
 俺のバンドで2026年3月の終わりに、アメリカ・ロサンゼルスで行なわれるPUNKフェスに出演予定だった。しかし、主催者の未成年者への性的暴行の告発により、ヘッドライナーのバンドの他にもキャンセルが相次ぎ、収拾がつかない事態になってしまい、フェスが中止になった。同じ「性的暴行」事件でも、これは性質が違う。主催者への告発で火がついたが、本人は否定していて、これから裁判でどうなるかという段階だった。
 冤罪なら最悪だ。だが、もし冤罪ではなかった場合、出演したら取り返しがつかない。だから俺たちはキャンセルした。主催者は知り合いであり、本人も否定しているのだが、被害が真実だった場合を最優先に考えた。
 しかし、真偽が判断される前に、世の中が動いてしまった。ネットの騒ぎが大きくなり、キャンセルが連鎖して、結果としてフェスが潰れた。
 
 佐野の件は、性的暴行で逮捕され本人が認めたという実態があるのに「終わったこと」にされ、フェスは、真偽が確定する前に炎上とキャンセルが連鎖して中止になった。性質は違う。だが、どちらも真実とは別のところで判断基準ができてしまっている。
 自転車の法改正もそれと同じ構造とは言えないだろうか。自転車専用レーンは少ない。路上駐車も多い。危険は増える。その現実を放置したまま、守れというルールと反則金だけが上乗せされる。守れば命の危険さえある。しかし破れば反則金。確かに歩行者の優先度は上がる。しかしインフラ整備のない混乱で、安全という真実が置き去りにされる。めちゃくちゃ以外のなんだと言うんだ。
 
 そして、この「真実を見ない、感じない」構造は、俺たちの日常そのものに現れている。痛みを見ずに、平気で続けられることばかりだ。
 狂っていると思わない「狂気」。こうして「今」の世の中が回っている。
 
 性的暴行に遭った被害者の思いに寄り添うこともせず、スポーツの勝敗のためだけに、替えが利く人間が山のようにいるのに、加害者を国の代表に選出する。
 まだ真偽が確定していない事件を、ネットの大騒ぎによって断罪する。冤罪の可能性を微塵も考えない。冤罪だった場合でも、騒いだ人間たちはほぼ確実に責任を取らない。
 大多数の意見に流され、真実が隠された正義を与えられ、異常だとも思わない人間が大量生産されていく。為政者の都合で導かれた「正しさ」のための言い訳が、無限に垂れ流される。
 
 暴力も殺人もやってはいけないことだと誰もが認識している。しかし、個の暴力ではなく「戦争」という国家の暴力になることで、容認する人々さえ出てきてしまう。
 そして今、イランやホルムズ海峡周辺は戦時状態にあり、正義の名の下に暴力が正当化され、犠牲者が出ている。そして石油価格は高騰し、皺寄せはどこにきているのか。戦争で死んでしまった人たちは、なんのために殺されてしまったのか。
 世の中の構造というものは、同じように回っていないのか。
 
 性被害に遭った女性、冤罪を着せられ人生を台無しにさせられる人。運用不可能なルールで危険に晒されたり、窮地に追い込まれる人々。
 戦禍の人々は、泣き叫んで嫌だと訴えても、利権や金という欲望のために無惨に殺されていく。
 為政者や資本家、富裕層などの限られた人間たちは、一般庶民である俺たちのことなど何も考えていない。何も気にしていない。完全に存在が認識から消えている。
 例えば、食卓の皿の上にある切り刻まれた死体の命を考えないように。
 その構造が、今の世界を回しているのではないだろうか。
 
 真実を見ずに糾弾して、変えられた現実の先に何が起きるのか。
 真実を見ずに弱者を食い物にした先に何があるのか。
 ひとりひとりのほんの少しの欲望すら抑えられずに、戦争がなくなると思えるのか。
 痛みや苦しみを無視していれば、巡り巡って自分の首を絞める。
 
 俺は、毎日惨殺死体を生み出して切り刻んで欲望を満たしている社会で、弱いものや被害者が救われ、戦争がなくなると思えない。俺たちのことなど何も考えない為政者や資本家と同じにはなりたくない。
 だから肉は食べない。ただ、それだけのことだ。
 平和への第一歩は、食卓の皿の上から始まる。

DOOM『HUMAN MEAT(人肉)』

牛、豚、馬、犬
際限なくお前の口に放り込まれる
お前のためにまた一頭の動物が屠殺される
種差別は噛み切れない
 
次にメニューに載るのはお前だ……人肉!
 
血、クソ、目、歯
チンコ、ケツ なんてご馳走だ
汚れた習慣 希望はない
それが喉をぬるっと滑り落ちていく限り
 
次にメニューに載るのはお前だ……人肉!
 
バンズに挟まれた“死”の中毒
人肉のほうがもっと楽しい
ソイレント・グリーン=まともなメシ
男、女、それとも赤ん坊のサブ?(※sub=サブマリン・サンドイッチの略)
次にメニューに載るのはお前だ…人肉!
 
注:ソイレント・グリーン=ちゃんとしたメシ(※“proper grub”=英俗語で「まともな飯」。映画『ソイレント・グリーン』=人肉加工食品のディストピアへの言及)
 
Chat GPTで翻訳しました。
 
DOOM『HUMAN MEAT』
 
Cow, pig, horse, dog
Endlessly shoveled down your gob 
Another animal slaughtered for you 
Speciesism is hard to chew 
 
You're next on the menu...human meat! 
 
Blood, shit, eyes, teeth 
Dick, arse, what a treat 
Dirty habit, there's no hope 
As long as it slithers down your throat 
 
You're next on the menu…human meat! 
 
Addicted to death in-a-bun 
Human meat much more fun 
Soylent green = proper grub 
A man, woman or a baby sub? 
 
You're next on the menu...human meat!
 

◉DOOMはバーミンガム出身、1987年に結成されたUKクラストコアの代名詞的バンド。「HUMAN MEAT」は2013年にリリースされた8作目のアルバム『CORRUPT FUCKING SYSTEM』に収録。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
このアーティストの関連記事

ele-king books『異次元の常識 ─ パンク/ハードコアの思想とメッセージ』

著者:ISHIYA
価格:2,750円(税込)
判型:四六判
頁数:320ページ(予定)
発売日:2026年6月5日
商品コード:ISBN-13 9784911484104
発行:株式会社Pヴァイン

【内容】
DEATH SIDE、FORWARDのボーカルとして40年以上にわたり日本のハードコア・パンク・シーンの先頭に立って活躍し、近年では『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』などシーンの歴史を伝える語り部として多くの著作をもつ著者が、戦争や差別への抗議、ヴィーガニズムと動物解放の精神など、パンク/ハードコアが訴えてきた様々なメッセージとその思想を解説する。
『Rooftop』連載コラムからセレクトしたコラムや書き下ろしに加え、海外アーティストにその「思想」を訊ねた貴重な長文インタヴューを収録。

目次より
前書きにかえて「愛で支配される世の中を夢見て生きる」

序章 パンクへの目覚め
第一章 差別・排除・多様性
第二章 政治・選挙・抗議
第三章 SNS・情報社会・共感/分断
第四章 気候危機・消費社会・経済
第五章 ジェンダー・アイデンティティ
第六章 動物搾取・命の選別・暴力の構造

インタヴュー:
ペニー・リンボー(元CRASS)
デイヴ・ディクター(MDC)
ディック・ルーカス(SUBHUMANS/CITIZEN FISH/CULTURE SHOCK)
ブライ・ドゥーム(DOOM)
チョーチョー(THE REBEL RIOT)
ボブ・オーティス(DROPDEAD)

COLUMN LIST連載コラム一覧

  • 最鋭輝『私は今日までムードで来ました!』
  • PANTA(頭脳警察)乱破者控『青春無頼帖』
  • おじさんの眼
  • ロフトレーベルインフォメーション
  • イノマー<オナニーマシーン>の『自慰伝(序章)』
  • ISHIYA 異次元の常識
  • 鈴木邦男(文筆家・元一水会顧問)の右顧左眄
  • レズ風俗キャストゆうの 「寝る前に、すこし話そうよ」
  • 月刊牧村
  • 「LOFTと私」五辺宏明
  • 絵恋ちゃんの ああ えらそうに コラムが書きたい
  • おくはらしおり(阿佐ヶ谷ロフトA)のホントシオリ
  • 石丸元章「半径168センチの大問題」
  • THE BACK HORN 岡峰光舟の歴史のふし穴
  • 煩悩放出 〜せきしろの考えたこと〜
  •  朗読詩人 成宮アイコの「されど、望もう」
  • 今野亜美のスナック亜美
  • 山脇唯「2SEE MORE」
  • 大島薫の「マイセルフ、ユアセルフ。」
  • 能町みね子 新中野の森 アーティストプロジェクト
  • 能町みね子 中野の森BAND
  • アーバンギャルド浜崎容子のバラ色の人生
  • 戌井昭人の想い出の音楽番外地
  • さめざめの恋愛ドキュメンタリー
  • THE BACK HORN 岡峰光舟の ああ夢城
  • 吉田 豪の雑談天国(ニューエストモデル風)
  • ゲッターズ飯田のピンチをチャンスに変えるヒント
  • 最終少女ひかさ 但野正和の ローリングロンリーレビュー
  • 吉村智樹まちめぐ‼
  • いざゆかんとす関西版
  • エンドケイプの室外機マニア
  • 日高 央(ヒダカトオル)のモアベタ〜よ〜
  • ザッツ団地エンターテイメン棟
  • 劔樹人&森下くるみの「センチメンタル「非」交差点」
  • 三原重夫のビギナーズ・ドラム・レッスン
  • ポーラーサークル~未知なる漫画家オムニバス羽生生純×古泉智浩×タイム涼介×枡野浩一
  • the cabs 高橋國光「アブサロム、または、ぼくの失敗における」
  • “ふぇのたす”ちひろ's cooking studio
  • JOJO広重の『人生非常階段』〜今月のあなたの運勢〜
  • マリアンヌ東雲 悦楽酒場
  • 大谷雅恵 人生いつでも初体験
  • ジュリエットやまだのイケメンショッキング
  • ケラリーノ・サンドロヴィッチ ロック再入門
  • 岡留安則 “沖縄からの『書くミサイル』”「噂の真相」極東番外地編
  • 高須基仁 メディア論『裏目を読んで半目張る』
  • 田中 優 環境はエンタメだ!
  • 雨宮処凛 一生バンギャル宣言!
  • 大久保佳代子 ガールズトーーーク!!!!!
  • DO THE HOPPY!!!!!

RANKINGアクセスランキング

データを取得できませんでした

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻