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4回「風が吹けば桶屋が儲かる」

第74回「風が吹けば桶屋が儲かる」

2025.12.16

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Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

資本主義の消費社会で、庶民の俺たちに残るいちばん身近な抵抗は取捨選択=ボイコットだ

 「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺がある。風が吹くと土ぼこりが立って目に入り盲人が増える。盲人は三味線で生計を立てようとするため、三味線の胴を張る猫の皮の需要が増える。猫が減るとねずみが増え、ねずみが桶をかじるから桶屋が儲かって喜ぶという、普段の何気ないことが意外なところに影響が出るという話だ。
 江戸時代の町人文学に書かれた話であるが、可能性の低い因果関係を無理矢理つなげたこじつけと捉えられているかもしれない。
 しかし俺は、この理論はあながち間違いではないどころか、そうやって世界はできているのではないかと思っている。
 
 自分がひどい目に遭ったとき、過去の自分のひどい所業を思い出し「あれが返ってきたのか」と感じることがある。そうでもなければ自分の出会った災難を受け入れられないからでもあるが、実際同じような事柄として自分の身に降りかかる。
 女性に食わせてもらっていたヒモだった男がいたとする。何年か経ったあと、別の女性にケツの毛まで毟り取られてしまうこともある。わがまま放題で、自分ばかり優先していれば、のちに知り合った人物のわがまま放題で自分のことしか考えない所業によって、ひどい目に遭う。しかもその影響は自分だけではなく、友人知人にまで及ぶ。
 こんなふうに無意識で与えていたものが、後から降りかかってくる状況は確かにあると思う。決して俺の話ではないから誤解しないように……。
 
 仏教で言えば因果応報、悪因悪果・善因善果。俗な言い方をすればバタフライエフェクト。昔ながらの諺なら風が吹けば桶屋が儲かる。由来もニュアンスもそれぞれ違うが、どれも「どこかで起こしたことが、思いもしない形で返ってくる」という感覚を言い表している。
 結局は行ないの連鎖が世界を形づくるのだと思う。ひどいことはいつか返ってくるという、その感覚には覚えがある。それならば善い行ないも返ってくるはずだが、善い行ないはたいてい覚えていない。個人的には善い行ないだとも感じていないのだろう。しかし、いまこうして友人に恵まれ、愛する子どもがいて、好きなことがやれて、生きていられるのは、無意識にやっていた善い行ないが返ってきた賜物かもしれない。
 
 日々の行動の積み重ねが、現在に影響していると感じる出来事は多い。そう考えると、いま身に降りかかっている嫌なことや煩わしいこと、楽しくないことや腹の立つことも、身から出た錆だと腑に落ちる。ひどいことを言われたりやられたりしても、結局その人に返っていくのだと考えれば、なんとか自分を納得させられるようになる。
 なぜかというと、俺は他の誰かのせいにしても、現状や将来が良くなるわけがないと思っているからだ。政治にしても、このスタンスは変わらない。政治家だけのせいにしても、決して世の中は良くならないと思っている。ひどい政治家ばかりではあるが。
 決して仏教や宗教的な教えを説いているわけではない。俺は無宗教だ。
 
 そう考える日々を過ごすようになると、日常での取捨選択は非常に重要になってくる。右足から靴を履く、左手から体を洗う、袖は右から通すといったような、日々決まったルーティーンを行なう人もいるだろう。良い結果が起きたときの行為を繰り返して幸運を呼び込む「験(ゲン)を担ぐ」というやつだ。日本人やスポーツ選手には、こういった行動をする人間が多いように思う。
 日本人は縁起物という概念を強く持っていると感じている。酉の市や初詣、年越しそばなども、そうした縁起を担ぐひとつの国民的行事だろう。決まった行ないを毎日やることは、不安を和らげるためのものでもある。
 
 ただ、俺がここで言いたいのは、幸運を呼び込む話ではない。日常には無数の選択がある。そのひとつひとつの小さな選択の積み重ねが、見えないところで誰かの毎日を変えていく、という話だ。
 その感覚に敏感な人間が多くなれば、この世界はどうなっていくのだろう。性悪な人間が多ければロクな世界にはならない。だが、ひとつひとつの選択で少しでも良い方向を選べば、いま当たり前にある悲惨な世界も、違うかたちに変わっていくのではないだろうか。
 
 日常的に人を陥れていれば、自分も陥れられる人生になる。嘘をついていれば、嘘つきばかりに囲まれた人生になる。怒ってばかりいれば、怒りの対象しか目に入らなくなり、嫌がっているのに無理強いすれば、嫌なことばかりに巻き込まれる。明らかに死を拒んでいる命を奪うことを当たり前にしていれば、自分の命だって同じように扱われても文句は言えない。
 いつか死ぬことは決まっているのなら、生きているあいだ、この命を楽しいことや嬉しいことにつながる方向へ積み重ねていきたいと俺は思う。
 
 そうなると視点も変わるもので、日々の買い物や外出時の気づきも、それまでとは違ってくる。
 これを買ったら誰かが苦しむ。これを買ったら誰かが死ぬ。これを買ったら人殺しが儲かる。これを買ったら俺たちを苦しめているあいつの懐に金が入る。気になる点がいくつも浮かぶ。買い物は非常に面倒だが、便利さの陰に搾取がうようよ潜んでいる。
 安い商品は誰かの低賃金で成り立ち、上前をはねて儲ける奴がいる。日雇いのピンハネ構造と何も変わらない。
 
 搾取されるより搾取するほうが儲かる。それがこの世界の常識だ。騙されるくらいなら騙したほうがいい。わかりやすく言えば、そんな構造が今の世の中をまわしている。
 頑張って稼いだ金を、なんでそんな奴らのために使わなきゃならないんだ。
 これはプラスチック問題にも似ている。環境破壊を少しでも抑えるために、個人でできることとしては、ペットボトルより瓶や缶を選ぶ、エコバッグを持って買い物に行く、といった選択がある。自らの首を締めないためだ。その感覚は、他の選択にも派生する。動物を搾取する構造も、根本はまったく同じだ。
 
 何を買い、何を買わないか。資本主義の消費社会で、庶民の俺たちに残るいちばん身近な抵抗は、この取捨選択=ボイコットだ。
 大きな勇気も、特別な才能もいらない。手に取った商品を作っている企業が何をしているかを考え、「ここには払わない」と決める。それだけで流れに小さな変化が起きる。
 需要があれば供給が生まれ、なければ消える。売れるものは増え、売れないものは淘汰される。これが資本主義の消費社会で金をまわす仕組みだ。売れないものは悪、売れるものが正義として扱われる。買わない選択が集まれば、企業にとっては大きな痛手だ。
 同時に、素晴らしいものでも世間に知られることがなく、淘汰されてしまうものがある。素晴らしいものをなくさないために買うことも、重要な支援になる。
 
 この構造は、この世界のあらゆるところに組み込まれている。投票数(需要)がなければ議員にはなれない選挙は、そのわかりやすい例だ。排斥主義や差別思想が蔓延した国であれば、そんな人間が議員に選ばれる。弱者を置き去りにする人間ばかりの国であれば、そんな人間が議員に選ばれてしまう。
 毎日の買い物も、静かな「投票」だと思っている。投票行為は選挙だけのものではない。
 
 日々の選択は、消費に表れる場合が多い。価格の安さや便利さを選ぶ。その便利の裏には、いつも犠牲者が隠れている。消費は快楽であり、同時に見世物にもなる。
 ネット動画を見ていると、最近は大食いコンテンツが目につく。通常食べきれない量を、うまそうに平らげる。
 俺が気になるのは、その裏でいま食べられない人の存在が無視されていることだ。その何キロもの食料で、飢えはひとつでも減らせないのか。震災や災害で食べたくても食べられなかった人たち、この国で満足に食べられない子どもたち。その人たちのことは、心の片隅にあるのか。
 画面の向こうの食材に直接金を払っていなくても、再生数や広告収入という形で、その構造に加わってしまう部分がある。
 大食いは視聴数を稼げるのだろう。その数字がスポンサーや広告を引き寄せる。消費の犠牲で成り立っているものを考えてほしい。そのとき、手が止まる場面がきっと出てくる。
 
 自分の消費で誰かを苦しめていないか。命を危険にさらしていないか。殺戮や虐殺、監禁、レイプ、搾取を助長する構造を、自分の選択が支えていないか。ここで一度、立ち止まって考えてほしい。
 世の中は小さな出来事の連鎖でできている。完璧じゃなくていい。日々の選択で世界は少しずつ変わる。俺はそう信じている。

CITIZEN FISH『SUPERMARKET SONG』(スーパーマーケット・ソング)

店やスーパーチェーンで
レジがまたあの曲を流す
音符が鳴り、釣り銭がチャリンと鳴る
笑いながら向かうのは──株式市場
 
音楽は、選んでいるあいだじゅう俺たちを上機嫌に保ち
本当は手の届かない商品を選ばせる
パッケージに付いた引換トークン
下がっていく%表示
天井から降るベルと歌声は
決して止まらない
 
「この商品を買えば自由になれる!
贅沢な暮らしが手に入る!」
テレビはそう言う
十五分おきに
「事実」を消費させられ
安心できる気分にさせられる
きちんと包まれたパックには
裏に原材料名まで載っている
だから具合が悪くなっても
プラスチックなスナックのせいだと
理由がはっきり分かる
 
身の丈に合わない買い物で
メガストアを肥え太らせているあいだ
隣の小さな店の主人は
昔はどうだったかを思い出している
人柄に価値があって
客は一緒に笑ってくれたことを
入ってくるときに微笑んだり会釈したりして
広告なんて何の意味もなかったことを
 
だが今ではスーパーチェーンが
君の首にも財布にも鎖をかけ
とうの昔に忘れ去られた哀歌の調べに合わせて
商品を売りつけてくる
外の世界で抱えた頭痛を洗い流すのにちょうどいい音量で
またひとつのショッピング天国
神様まで味方についてくれる場所
 
平凡さを
人生の必須の資質として流し込み
二つ買えば一つタダ
そんなものは決して必要ではない
それなのに欲と好奇心が君を消費へと向かわせ
君の消費が連中を食わせていく
 
ChatGPTで翻訳しました。
 
『SUPERMARKET SONG』
In the shops and supermarket chains
The checkout's play that song again
The notes ring in, ring out the change
Laughing all the way to the, brr, stock exchange
 
The music keeps us happy as we choose
The products that we can't afford to use
The tokens on the packets
The percentages that drop
And the ringing and the singing
From the ceiling never stops
 
"Buy the product and be free!
Live a life of luxury!"
And it says so on TV
Every quarter of an hour
Consuming all the facts
Makes you feel you can relax
Comes neatly wrapped in packs
With ingredients on the back
So, when you're sick
From plastic snacks
You'll know precisely why
 
While you consume the megastores
By paying for what you cannot afford
The man who runs the shop next door
Remembers how it was before
When personality meant something
And customers would laugh with him
They'd smile or nod as they came in
And adverts didn't mean a thing!
 
But now the supermarket chains
Are around your neck and purse
They sell the products to the strain
Of some long-forgotten dirge
Just loud enough to wash away
The headaches from outside
Another shopping paradise
Where God is on your side
 
They channel mediocrity
As life's essential quality
You're buying two to get one free
It's something that you'll never need
But greed and curiosity makes you consume
And lets them feed
 
 
◉CITIZEN FISHは1990年から活動を続ける、イギリスの社会的・政治的なスカ/パンクバンド。パンクロックとスカ/レゲエと巧みに融合したポップなサウンドで人気を博している。「Supermarket Song」は1990年に発表されたファーストアルバム『Free Souls In A Trapped Environment』に収録。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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著者:ISHIYA
価格:2,900円+税
頁数:354頁
発売日:2025年11月5日
ISBN978-4-909852-64-9
発行:株式会社blueprint

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【あらすじ】
西暦二一〇〇年代、人々の行動すべてが管理された街「レスポンド・シティ」にて、七瀬優(ナナ)は政府情報機関の職員として日々を過ごしていた。ある日、連絡が途絶えた兄・七瀬航の行方を調べるため市民のデータベースにアクセスしたナナは、そこに兄の痕跡がまったくないことに気付く。一方、政府にとって都合の悪い市民のリスト「適応指数異常記録」には、驚くほど兄のものと一致した別の人間のデータがあった。政府の秘密に触れてしまったナナは追われる身となるが、夜の街でフードを被った男・亮と出会い……。レジスタンス組織「ノクタ・ルーモ」の一員となったナナは、果たして兄を見つけ出すことができるのか?

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