Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)
食を通じた無償の支援を実践し、その取り組みを通して社会の構造を伝える「FOOD NOT BOMBS」
ミャンマー(ビルマ)のTHE REBEL RIOTの活動で「FOOD NOT BOMBS」(爆弾ではなく食料を)を知った人も多いはずだ(軍事政権が「ビルマ」を「ミャンマー」へ改称したため、本稿では併記する)。
俺のバンド FORWARDも、「FOOD NOT BOMBS」支援としてイタリアのレーベルから発売されたオムニバス『Food Not Bombs Skopje – Benefit Compilation』に参加。さらにイギリスのInternational Solidarity Compilation企画『100% Three Fingers in the Air Punk Rock』にはFORWARDとDEATH SIDEで参加した。
後者はDEATH SIDEの当時未発表曲を含むデジタル限定で、ミャンマー(ビルマ)の「FOOD NOT BOMBS」を支援するベネフィット作だ。
過去にも「FOOD NOT BOMBS」支援のベネフィット作品に参加しているバンドは多いと思うが、最近ではEIEFITSがミャンマー(ビルマ)の「FOOD NOT BOMBS」支援TシャツをTHE REBEL RIOTと連携してライブで販売するなど、「FOOD NOT BOMBS」の活動が認識されてきたように感じている。
ではまず「FOOD NOT BOMBS」とは何なのか、公式サイトから抜粋してみる。
「FOOD NOT BOMBS」は、1980年5月24日、アメリカ合衆国ニューハンプシャー州、ボストンの北にあるシーブルック原子力発電所を止めるための抗議ののちに始まった。
「FOOD NOT BOMBS」を始めた人々は、1981年3月26日、ボストン銀行の株主総会の最中に、連邦準備銀行の外で最初のきちんとした一食を分かち合い、資本主義による搾取と原子力産業への投資に抗議した。
私たちは、本来なら廃棄されていた食料を回収し、戦争と貧困に抗議する方法としてそれを分かち合う。
米国の連邦税1ドルのうち50セントが軍事に充てられ、食料の40%が廃棄され、多くの人々が家族を養うのに苦闘しているという状況のもとで、私たちは、軍事費を人間の必要へ振り向けるよう求めることを大衆に促すよう鼓舞することができた。
また私たちは、廃棄食料を集め、空腹の人々と分かち合うためのヴィーガンの食事を用意し、あわせて社会を変える必要についての文書を提供することによって、食品廃棄を減らし、地域社会の直接の必要に応える。
「FOOD NOT BOMBS」はまた、抗議者やストライキ中の労働者に食料を提供し、自然および政治的危機ののちに食糧支援を組織する。
(公式サイト「FAQ」より抜粋。ChatGPTで翻訳)
こうした基本理念に従い、世界各地で、戦争による難民や政治的混乱によって貧困にあえぐ人々などへ支援を行なっている。
THE REBEL RIOTも2013年のインドネシア・ツアーの際、地元パンクスによる「FOOD NOT BOMBS」の活動に触発され、ミャンマー(ビルマ)帰国後すぐに「FOOD NOT BOMBS」の活動を始めたという。その活動は、最大都市で経済・文化の中心ヤンゴン以外にも、ラカイン、マンダレー、コートレイなどへ広がっているようだ。
世界最長の内戦国家と言われるミャンマー(ビルマ)の国内事情を詳述すると長くなるので、要点だけにとどめる。
2015年の総選挙でアウンサン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)が政権を担った。しかし憲法で軍の権限は残り続け、2020年11月の総選挙でもNLDが大勝すると、軍は2021年2月1日にクーデターを起こし、以後も軍事支配が続いている。民間人の犠牲は数千人規模とされ、各地で内戦状態が継続している。
ミャンマー(ビルマ)を調べれば調べるほど、ここまで酷い体制がいまだに存在すること自体が信じがたい。
しかし一皮むけば、程度の差こそあれ多くの国で同じ構造が見える。権力と金のために国民を顧みない姿勢は、ミャンマーに限らずどの国でも大差はないと感じてしまう。パレスチナに向ける思いがあるならば、ミャンマー(ビルマ)にも同様の思いが湧くはずだ。
今、自分が生きている日本でも、軍事政権による虐殺こそ起きていないが、権力による国民の棄民化を感じる人は多いはずだ。貧困や格差は広がり、世界有数の自殺率の高さであることを見ても、直接銃で撃っていないだけで、国民を蝕む構造は権力と金のためではないのか。
「FOOD NOT BOMBS」の活動が世界各地で行なわれている事実や、日本で「子ども食堂」という民間のボランティアが貧困家庭の子どもを支援している現実を見ても、国家というものの構造は大差ないと思える。
そして日本でも「FOOD NOT BOMBS」の活動は行なわれているが、あまり知られていないのが実情だろう。ホームレスの方々への炊き出しなどを行なう団体は多いが、「FOOD NOT BOMBS」も横須賀で活動している。
そこで、「FOOD NOT BOMBS YOKOSUKA」のクリス・ウォレン氏にインタビューをした。彼は、たまにライブにも来てくれる赤い髪のモヒカンのアメリカ人で、わかる人も多いはずだ。以下、そのインタビューを掲載する。
Q1:まず、あなたの国籍、名前、日本にいる理由を教えてください。あわせて、あなたはヴィーガンかベジタリアンか、あるいはそのどちらでもないかも教えてください。
クリス:ぼくの名前はクリス・ウォレン。出身はアメリカですが、2005年から日本に住んでいます。日本人の妻がいるのが移住の理由です。食生活は「できるだけベジタリアン寄り」で、可能な限りベジを心がけていますが、いつもそうできるとは限りません。
Q2:公式サイトに書かれているとおり、「FOOD NOT BOMBS」は
・リーダーを置かない。
・すべての食事を常にヴィーガン/ベジタリアンで、制限なく誰にでも無料提供する。
・非暴力の直接行動に専心する。
という理解で正しいでしょうか?
また、「捨てられるはずだった食料を回収し、戦争と貧困への抗議として分かち合う」という点は日本でも行なっていますか? 行なっている場合、廃棄予定食品はどう入手していますか。
クリス:ページに記した原則は、実際にすべて守っています。食材の入手先は複数あり、野菜は主に横須賀の2つの農園(ぶらまさファームとSHOファーム)から。ときどき、ぼくの家庭菜園や自分で採取したものも使います。カレーのレトルトや餅などの加工品は、かながわフードバンクからの寄付。香辛料などは寄付品が中心で、一部は自分で採取もします。たとえば海塩は、横須賀近くの海から自分で汲んで作っています。
Q3:「FOOD NOT BOMBS」がヴィーガン/ベジタリアン食を提供する理由は何ですか?
クリス:理由はたくさんあります。創設者キース・マクヘンリーが掲げた原則に沿うため、食中毒などの安全面(動物性より傷みにくい)、それからハラールやコーシャなど「ヴィーガンが他の多様な食習慣とも両立しやすい」ため、できるだけ多くの人に開かれた食事にしたいのです。
Q4:日本ではヴィーガン/ベジタリアンの認知がまだ低く、肉や魚、卵を求める人が多数です。配布の場でそう求められた場合、どう対応していますか?
クリス:カツカレーなど「肉入り」を希望されることはありますが、幸いぼくは飲食業の環境で育ちました。父はマスターシェフで腕の立つベーカー。だから「肉を使わなくても本当においしい料理」を作れます。必要に応じて大豆ミート(TVP=テクスチャード・ベジタブル・プロテイン)など代替品も使い、動物性を望む方も満足してくれることが多いです。
Q5:配布時に、次のようなメッセージも伝えていますか?
・「戦争に費やすお金があるなら、食に困る人の食事に回すべきだ」という基本理念
・畜産による環境破壊や動物搾取の構造
それとも、食料配布と救済活動に専念していますか。
クリス:伝えていますが、簡単ではありません。多くの方はまず「食べること」が目的です。ただ、なぜやっているのかを知りたがる人も来ます。横須賀はアジア最大級の米海軍基地の街なので、米軍の人たちが興味をもって来ることもあります。ぼく自身が海軍出身なので、彼らにも届く言い方ができます。7年活動してきて、軍人を含めクレームは一度もありません。
Q6:あなた方の活動を通して、資本主義による搾取構造や、日常の肉食・動物性商品の購入が搾取に加担していることに、人々が気づく可能性はあると思いますか?
クリス:もちろんです。資本主義下の食品廃棄を強調していますが、実は「世界は食べ物を作りすぎている」事実に驚く人は多い。足りないのは生産ではなく「アクセス」で、そこに資本主義がつくる障壁がある。畜産も環境破壊の大きな要因ですが、利益が最優先される限り止まりません。
Q7:救済の場でヴィーガン/ベジタリアン食を配る意味は? 日本では災害ボランティアの文化があり活動は受け入れられやすい一方、「ヴィーガン食を配っている事実」は充分知られていない印象です。
クリス:持続可能な食の実践を示すだけでなく「実はこれだけ大量の食べ物が捨てられている」現実を可視化します。ぼくらは「ただ食べてもらう」だけではなく、資本主義が生むフードロスの巨大さを知ってほしい。家畜の飼料として生産される膨大な穀物を、人用の食料に充てればどれだけの人を養えるか──そこからもヴィーガン食の必要性が見えてきます。
Q8:日本のようにヴィーガン/ベジタリアンが少数で、ときに攻撃の対象にすらなる環境で、ヴィーガン/ベジタリアン食を配る意義は?
クリス:何より「おいしい」を証明すること。最終的に多くの人が判断材料にするのは味です。ヴィーガン食は味気ない・単調という先入観がありますが、事実ではありません。たとえばシク教の食文化には、多様な制限に配慮しつつ栄養も味も満たす料理がある。そうやって「食べたい」と思える入り口を作れば、メッセージはぐっと届きやすくなります。
Q9:メンバーやボランティア、また受け手の中にも、活動を通じてヴィーガン/ベジタリアンへ近づく人はいますか?
クリス:「完全に移行」までは保証できませんが、その方向へ背中を押すことはできると思います。少なくとも「ヴィーガン食にこんな可能性があるんだ」と目を開くきっかけになります。
Q10:最後に、ボランティア/参加者の募集や寄付の宛先などがあれば教えてください。ほかに伝えたいことがあればぜひ。
クリス:他の政治的取り組みともできるだけ連携しています。たとえば新しい「FOOD NOT BOMBS 池袋」と一緒に“Free Food With Foreigners”(外国人と一緒に無料フード)というイベントを企画中。日本では食べる機会が少ない各国料理を無料で配り、外国人と会話して楽しんでもらう。参政党のようなグループが煽るヘイトに対して、外国人との前向きな接点をつくり、人種差別や排外主義に抗する狙いです。
FOOD NOT BOMBS YOKOSUKA
もちろん、貧困(戦争・災害・差別による困窮を含む)への支援が大前提ではあるが、「FOOD NOT BOMBS」が「ただの食料支援」ではないことも伝わってほしい。食を通じた無償の支援を実践し、その取り組みを通して社会の構造を伝えている。
なぜ貧困が生まれ、被害を受ける人々がいるのか。
なぜ戦争・虐殺・搾取はなくならないのか。
その「構造」を支えているのは一体何なのか。
この構造を止めるために、できることは何なのか。
この社会の構造をつくっているのは、自分自身を含めた人間だ。
自分の毎日の食事やファッション、生活自体が、命を奪う構造に加担していないか。
それで、この世界から虐殺はなくなるのか。差別はなくなるのか。
自分と同じように苦痛を感じる命の権利を無視して、自分の権利が脅かされないと言えるのか。
仕方ないと諦めるのか。それとも抗うのか。
いま自分にできることは何だ?
THE REBEL RIOT『FOOD NOT BOMBS』(爆弾ではなく食べ物を)
激しい内戦
何年にも渡り止めることはできなかった
無力な子供たちの叫び声が聞こえるか?
目を開けて
耳を傾けるんだ
戦争に金が費やされるがために
此処にいる人々は苦しめられている
何百万人もの人々に必要なのは
戦争ではなく食べ物だ
OHHHHHHHHH
食べる権利すらないのか
特権なんてクソ喰らえ
OHHHHHHHHH
食べ物が必要なんだ
爆弾なんかじゃない
腹を満たすことは当然の権利だ
決して特権などではない
全ての人々に
飢餓など存在してはいけない
目を開けて
耳を傾けるんだ
戦争に金が費やされるがために
此処にいる人々は苦しめられている
何百万人もの人々に必要なのは
戦争ではなく食べ物だ
OHHHHHHHHH
食べる権利は誰にでもある
特権なんてクソ喰らえ
OHHHHHHHHH
食べ物が必要なんだ
爆弾なんかじゃない
大多数の国の政府は
戦争兵器の開発に力を入れ
難民の生活は
荒廃しきっている
こんなことは決して起こってはならない
私たちに必要なのは殺戮兵器ではない
貧困に終止符を打ち
人権を手に入れることだ
THE REBEL RIOT『FOOD NOT BOMBS』
Violent civil wars
Have not been able to stop for years
Do you hear the cries of the helpless children
Open your eyes Open your ears
The cost of the war
Makes civilians suffer
What is needed for millions of people
Is not war but food
OHHHHHHHHH
Food Is Right
Not Fucking Privilege
OHHHHHHHH
We Need Food
Not Fucking Bombs
Food is human rights
But not privilege For all humans
Starvation should never exist
Open your eyes Open your ears
The cost of the war
Makes civilians suffer
What is needed for millions of people
Is not war but food
OHHHHHHHH
Food Is Right
Not Fucking Privilege
OHHHHHHHHH
We Need Food
Not Fucking Bombs
Government from most countries
Put more effort on war weapons
The lives of the refugees Are in devastation
This should never happen
What we need is not killer weapons
But an end to poverty and have human rights
◉THE REBEL RIOTは2007年にミャンマーで結成されたパンクバンド。ミャンマー国内のみならず、ヨーロッパ、インドネシア、タイなどへのツアーも積極的に行なっており、軍事政権による圧政が続く中においても危険を顧みず権力の横暴に屈せず活動を続けている。「FOOD NOT BOMBS」は、戒厳令下の2021年8月にリリースされた通算4枚目のアルバム『ONE DAY』に収録。
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。