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第70回「地球の鼓動」

2025.08.13

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Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

「自分が何をやっても変わらない」のではない。「何かをやらなければ変化は起きない」のだ

 海外の観光客が、日本の街の清潔さに驚く。そんな映像をよく見かける。
 確かに海外ツアーのパーティーで、俺たち日本人は当たり前のように缶や瓶を分別して捨てていると「リサイクルをありがとう」と言われることもあり、最初は意味がわからなかった。
 
 2000年代初頭、アメリカではゴミの分別意識はほぼ皆無だったと思う。分けても、家の庭先の巨大なゴミ箱に全部まとめて入れられ、回収される。
 大きな会場では、なかなか帰らない観客を促すため、清掃員がビール瓶をわざと割って音を響かせていた。その破片も、後で一緒に捨てられていたに違いない。
 危険な地域ほど、路上にゴミが多い光景も珍しくなかった。
 日本は「清潔な国」と評価される。しかし、プラスチックリサイクルの実態を知れば、その印象は大きく揺らぐのではないだろうか。
 
 日本のプラスチックリサイクル率は約85%とされているが、この数字には焼却して発電などに利用する「熱回収」の、約60%程度が含まれている。
 熱回収ではない、実際に新しい製品や素材に再生される物理的リサイクル率は約22%にとどまっている。
 (出典:一般社団法人プラスチック循環利用協会「プラスチック製品・廃棄物・再資源化フロー図」2022年度)
 
 一方、EUでは「熱回収(焼却によるエネルギー回収)」をリサイクル率に含めていない。
 2021年のEUにおける包装プラスチック廃棄物の再資源化率(実際に新製品に再生される物理的リサイクル率)は約40%弱だ。
 (出典:Eurostat『Plastic packaging waste generated and recycled in the EU, 2011-2021』)
 このため、本当のリサイクル率である、実際の素材再利用率は、日本が約22%、EUが約40%弱と大きな差があるということになる。
 分別していれば十分という認識が崩れかねない。
 
 日本は清潔で環境意識が高い国だというイメージがある。しかし、実際はゴミ焼却の仕組みやリサイクルの定義、基準の置き方の違いによって、数字のレトリックでその現実が見えていないとも言える。
 日本のリサイクルの多くは「燃やして終わり」だ。発電利用はできても、そのたびにCO₂が大量に排出される。高温焼却炉で有害物質は抑えられても、温室効果ガスの放出は避けられない。
 温暖化に大きく影響を与えているのはCO₂排出であり、プラスチック廃棄物は主に廃棄物焼却施設で燃やされ、そこで発生するCO₂も温暖化の一因となっている。
 
 2019年、世界では約3億5,300万トンのプラスチック廃棄物が出された。
 そのうち約19%が焼却されており、これは約6,700万トンにあたる。
 プラスチックを作ってから捨てるまでの全ての過程で出る温室効果ガス(CO₂など)のうち、約10%は、主に焼却するときに出ている。焼却によるCO₂排出量は数億トン規模に達する。
 (出典:OECD Global Plastics Outlook: Economic Drivers, Environmental Impacts and Policy Options 2022年)
 
 プラスチックの焼却で出る数億トンものCO₂は、地球の温暖化を加速し、異常気象の増加や海面上昇と生態系への影響、生物多様性の損失など、私たちの生活や自然環境に大きな悪影響をもたらす恐れがある。
 
 ハワイとアメリカ西海岸の間に広がる「北太平洋ゴミベルト」には、面積が日本の約7倍、数百万トンのプラスチックゴミが漂い続けている。
 海流に乗って集まったそれらには、目に見えるペットボトルや網だけでなく、無数のマイクロプラスチックが含まれ、魚やウミガメ、海鳥がそれを食べ、命を落としている。
しかも漂うゴミの重量の約半分は漁具だ。
 (NOAA/The Ocean Cleanup, 2018年・2022年・2018年報告など)
 
 日本の街がいくらきれいでも、燃やして温暖化の原因をつくり、残ったゴミは海へ流れ、やがて地球規模で生態系を破壊していく。たとえ一度は再製品化されても、いずれは砕けてマイクロプラスチックとして環境に戻ってしまう。
 「そんなこと言ったって、どうにもならないだろう」と、今のまま消費を続けていれば、全ての皺寄せは自分、もしくは未来を背負う子どもたちに降りかかる。
 
 とはいえ、俺も現実の生活では、プラスチックを完全に避けることができない。
 バンド活動ではCDやレコードを作るし、執筆にはパソコンやスマホも使う。
 ペットボトルを買わないようにしても、月にいくつかは出てしまうし、日常の買い物をしていれば、プラスチックはどうしても避けられない。
 魚介類を食べないようにすることで、漁具の削減になるのではないかと考え、動物性製品は着用しないので、リサイクルされたものや天然素材を選ぶようにしているが、それでも化学繊維の製品は多くなってしまう。
 矛盾はあるだろう。葛藤もある。しかしそれを「全部意味がない」と、否定するのは違うと感じる。
 そんな極端な話ではない。
 
 現代は車社会で交通事故が多い。死亡事故も多発している。
 だからといって「交通事故が多いから、車に乗るのをやめろ」と言っているわけではない。
 死亡事故がなくならないからといって、メチャクチャな運転をする人はいない。できる範囲で危険を減らそうと安全運転を心がける。それと同じだ。
 
 日常生活の中で、できる範囲での努力や工夫は、無意味じゃない。それでも、解決しきれない問題はある。
 それでも、考え続けて、選べる場面で意識すれば、新しい気づきが生まれ、その積み重ねがより良い選択につながる。
 それは「アップサイクル」のように、価値観や社会を少しずつ変える力になるのではないだろうか。
 
 人間は「選ぶ」ことができる。
 「殺すより殺さない」
 「燃やすより減らす」
 そのぐらい単純明快な選択肢から考え、選ぶだけで変化が起きるかもしれない。
 完璧じゃなくていい。この地球で生きる自分にとって、より良い方法を考えるだけだ。
 
 「自分が何をやっても変わらない」のではない。
 「何かをやらなければ変化は起きない」のだ。
 
 この夏、東京はついに40℃を超えた。誰かの責任にしても、現実は悪化するだけだ。
 この世界をつくっている中のひとりは、誰でもない自分自身だ。
 人間のためだけの利便性や、欲望の果てに使い尽くされてきた地球。
 その鼓動を感じ取れなければ、生き物として間違っている。
 そう思わないか?

INNER TERRESTRIALS『EARTH MUST - “HEART - BEAT”』

生まれた瞬間から 真実を見極めるのは難しい
子どもの頃から毎日 善悪の定義を植え付けられ
誰もが頭ごなしに吹き込まれ 自立を奪われる
何も疑わない多くの人は教えられた通りに毎日をやり過ごす
 
あまりにも長い間 このシステムの下で生きてきた
お前らは自分達を飼い馴らし、洗脳し
自分達の心を嘘の恐怖で満たしてきた
だが屈服しない者もいる 自分達の骨の髄までしゃぶっても
自分達をどんなにコテンパにやっつけても
自分達のスピリットは死なない 絶対に
 
地球は蔓延する都会の悪夢によって破滅の道を辿ってる
人々は黒い臭い一酸化物でむせている
みんな毒を盛られてるというのに抵抗する人は少ない
政治家は微笑みを浮かべて万事OKと言ってる
 
自分は真実と嘘の見分けがつく
周囲に溢れる破壊を見渡せば一目瞭然だ
多くある質問のうち 最大の質問は「WHY?」、何故?
自分の答えは人間の欲 だからこそ地球は滅びる運命にある
地球の鼓動のように
 
INNER TERRESTRIALS『EARTH MUST - “HEART - BEAT”』
From the time we are born it's hard to find the truth
They flour minds with rights and wrongs all throughout our youth
Everyone's indoctrinated our independence robbed
And most of us in ignorance just carry on the job
 
We lived under this system for far too many years
You've herded us and brainwashed us and filled us with false fears
Some of us won't surrender although you bleed us dry
No matter how you crush us down, our spirit will not die – never
 
The earth is being blinghted by a spreading urban hell
And the people are choking on a black monoxide smell
We're all being poisoned but most of us won't fight
And the politicians smile and say that everything's alright
 
Well I can see the difference between the truth and lies
As I look around me and destruction fills my eyes
Of all the many questions the biggest one is WHY ?
I put it all down to human greed that's why the earth must die...
 
Just like the heart beat of the earth
 

◉INNER TERRESTRIALS(インナー・テレストリアルズ)はex.CONFLICTのドラマーPACO率いる英国産ANARCHO SKA / DUB PUNKバンド。「EARTH MUST - “HEART - BEAT”」は1997年発表の1stアルバム『IT!』に収録。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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LIVE INFOライブ情報

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【出演】
DEATH SIDE
WARHEAD(京都)
ZONE(磐田)
惡意(北九州)
NO PROBLEM
RAPES
THE TRASH
FORWARD +1BAND
【日程】2025年8月17日(日)
【時間】開場15:00 / 開演16:00
【チケット】当日のみ¥1,000(ドリンク代別¥600)
【会場・問い合わせ】新宿LOFT 03-5272-0382

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