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7回「破綻の正当化」

第67回「破綻の正当化」

2025.05.12

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Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

制度を動かしているのは「人間」であり、その人間がどこに価値を置いているかで、守られる命も変わってしまう

 なぜ、人を好きになる気持ちが、人を殺す動機になるのか。
 またストーカー殺人事件が起きた。恋愛という関係が、いつからここまで歪んだのだろう。
 女性に振られ続けてきた俺としては、振られたら諦める。諦め切れないくらい好きだったとしても諦める。気の合う友人などから「女なんて星の数ほどいるよ」というような、お決まりのセリフでさえ心に沁みた。
 その上アホほど飲んで、アホほど吐いて、グチャグチャになってボロボロになる。そうやって段階を踏んで忘れていく。そのうちまた、好きな子や、気になる子ができるといった繰り返しだったので、しつこく付きまとうのがよくわからない。
 「捨てる神あれば拾う神あり」という諺がある。人生はそうやって、思いがけない出会いや、転換期がある。執着しても良いことはない。そんな昔からの教えを、知らないのだろうか。
 
 俺も実際に殺人予告を受けたことがあるのだが、周りの人間への尋常ではないメールや電話、SNSへの書き込みなど、完全なるストーカー行為だった。しかし恐ろしいことに、当の本人にはストーカー行為だという認識が全くない。
 終了のゴングが激しく何度も打ち鳴らされ、試合結果は決定し、観客すら帰っているのに、まだ終わっていないとリングに残り続けるような、奇妙な光景だ。
 こちらはとっくの昔に家に帰り、次のトレーニングを開始し、何人もの対戦者と試合までして、試合は終わった事実として、完璧に終了している。しかし、相手が事実と現実の認識が全くできないために、いつまでも執着する。こうなると、警察に相談することにもなるのだろうが、警察など何もしてくれないのが現実だ。
 
 俺は警察など信用していないので、頼ることはしなかった。だが、最も恐ろしいのは、こうした歪んだ執着だけでは、警察は動かないという現実だ。明確な加害の予兆があっても、警察は「事件性がない」と判断し、捜査を拒む。その認識の欠落が、命を奪っている。
 ストーカー行為は、自分の願望や欲望のみを最優先し、事実や現実を見ようともせず、他者の苦痛を無視する人間の破綻が、あらためて露わになった結果だと思う。
 だからといって、その破綻によって命が奪われたという事実は、どれだけ分析を並べても消えない。命の重さを、誰が、どう認識しているのか。
 そこを考えずに、現実から目を背けたままなら、同じ悲劇は何度でも繰り返される。
 
 遺族が警察に対して怒りをあらわにする動画を見た。至極当然で、遺族の怒りには完全に同意するし、警察の不手際や自分たちの組織を守るためだけに命を蔑ろにする態度や言葉は、誰もが怒りを感じるだろう。
 しかし、自分の経験のみで言わせてもらえるならば、警察という組織は、実際には事件があってからでないと動かない。たとえストーカー規制法のように、被害の予兆段階で対応が可能な法律が整っていたとしても、現場の警察官の判断で「事件性がない」とされれば、対応を拒まれることがある。
 そのくせ交通違反の取締りや、街での職質などは「事件を未然に防ぐため」と、平気で嘘をつく。
 事件を本気で未然に防ぐ気があるなら、違反が起きそうな場所の直前に白バイでもパトカーでも張り込んでいれば済む話だ。
 検問にしても、事件が起きた後に行なうもの以外に、無作為に車や人を止める職質に近いものがある。
 結局、職質も交通違反の取締りも検問も、事件を未然に防ぐための対応とは言い難く、形式的に点数を稼ぐためのものに陥っている。
 
 警察は事件を防げない。俺の経験で見ても、基本的に、事件が起きた後の事後処理のための存在だ。その認識を持っている人なんて、ほとんどいないのではないだろうか?
 もちろん、制度上は、ストーカー規制法やDV防止法など、事件になる前に介入できる仕組みはある。しかし、法律が存在していても、それが本来適用されるべき場面でさえ、適用されないことが多すぎる。
 要するに、面倒な事件であれば相手にせず、手軽に点数を稼げる事件であれば「未然に防ぐ」という口実で「たいしたことのない事件を処理しているだけ」と思われても仕方ないだろう。
 
 さらに厄介なのは、制度が常に正しく使われるとは限らないということだ。
 ストーカー規制法やDV防止法も、本来は危険にさらされた被害者を守るためのものだが、現実にはそれを悪用しようとする人間もいる。
 「別れたい」「黙らせたい」「有利に立ちたい」という動機から、被害者を装って法を使うケースもあり、実際には加害者の側が制度の盾を振りかざしていることもある。
 つまり「法律があるから国や警察が守ってくれる」という思い込みが危険なんだ。その運用と判断に関わる「人間の認識」こそが、命を左右する最大の要素だと痛感する。
 
 ではどうすればいいか。警察を動かす方法があるとすれば、現実的には毎回110番通報をするしかない。
 実際、「110番の場合、出動しなければならず、通報案件が事件なのか事件ではないのかの結果が出なければ帰れない」と、何度も言われたことがある。しかし、ストーカーのように毎回になってくると、警察の対応も「またか」といった感じで、おざなりになってしまうだろう。
 
 テレビや映画、小説などで描かれる警察官や刑事なんて、完全な作り物で、物語の都合でどうにでも描ける、ただのキャラクターだ。しかし、その作り物の警察というキャラを鵜呑みにしている一般人は、かなりの数がいると思う。
 そうした間違ったイメージを信じているからこそ、多くの人が警察に頼ってしまうのではないだろうか。
 警察への認識が確実に間違えている。あんなもん、自分たちの成績や点数、都合でコロコロ変わる組織だ。事件が起きなければ何もしない。その認識を間違えていると、悲劇が起きる可能性は高くなってしまう。
 警察の態度や認識不足が、悲劇を生んでしまうのは事実だが、警察を信頼しすぎる意識も根本的に間違えていると思う。
 
 しかし、これは警察だけの問題じゃない。
 テレビや映画の警察像を刷り込まれ「何かあったら助けてくれる」「困っている人を守ってくれる」という幻想は、基本的に違うと思ったほうがいい。
 制度とは、人がつくり、人が運用し、人の都合で動く仕組みに過ぎない。そこに「守られるべき命」があるかどうかは、制度の中身ではなく、俺たちの認識にかかっている。
 どれだけ法や仕組みが整っていようと、「これは命を守るための制度だ」と信じているだけでは、何も変わらない。制度を動かしているのは「人間」であり、その人間がどこに価値を置いているかで、守られる命も変わってしまう。
 報道で「防げたかもしれない事件」と繰り返されるたびに思う。なぜ「かもしれない」という言葉で片づけるのか。「守ろうとした」という姿勢すら見えなかったのなら、それは制度を動かす側の、深刻な認識の欠落だ。
 命を守る制度を望むなら、まずその制度を支える認識を問い直すしかない。
 「助ける価値がある」
 「自己責任だ」
 「死んでもいい命と、死んではいけない命がある」
 といった命の選別が前提にある社会で、制度に責任を押し付けたところで、何も変わるはずがない。
 
 何度も言ってきていることだが、世の中を変えるのは政治家や政府ではない。民衆が変われば、世の中なんて勝手に変わる。
 社会を変えるのは、いつだって「一般の人間」だ。
 実際に起きている悲劇に目を向け、他者の痛みを自分の感覚で想像する。そのひとつひとつが、制度のあり方を形作る根幹になると思う。
 自分とは関係ないと思っていた命の叫びも、見ようとしなければ見えない。聞こうとしなければ聞こえない。そんなもん警察と一緒で、ただの「自分の都合」じゃないか。ストーカー被害に遭った女性の声も、遺族の声も、組織や社会、個人の都合で奪われていく命の声は、確実に、今、存在している。
 その声を、他人事として切り捨てるのか、自分と地続きの命として感じ取るのか。
 他者の痛みや悲しみ、苦しみを感じとり、悲劇をなくそうと本気で思うのか。
 戦争や差別、搾取の構造も、警察の構造も、社会の構造も、作り上げているのは人間だ。
 
 あなたは他者の痛みや苦しみ、悲しみを無視していないか?
 自分の都合で、それを無かったことにしていないか?
 拒否の意思を示し、助けてくれと訴えている声を無視し、命を奪っていないか?
 見えないふりをして、犠牲になってしまう命を、分け隔てるのか?
 その目で、その心で、確実に感じている事実を、どうして誤魔化すんだ?
 犠牲になり奪われる命は、いったいなんの上に成り立っていると思う?
 
 命が犠牲になっている現実を、自分の都合でコロコロ変えていたら、警察や国家と同じじゃないか。
 この社会を構成する、人間の認識や意識に変化がなければ、これまで起きてきた悲劇は永遠に続く。

CHAOS U.K『VICTIMIZED』(犠牲にされている)

俺は犠牲にされている
あいつらは俺を放っておけない
俺たちは犠牲にされている
本当にあいつらから逃げてきたんだ
 
俺は犠牲にされている
あいつらは俺を放っておけない
俺たちは犠牲にされている
本当にあいつらから逃げてきたんだ
 
俺は犠牲にされている
あいつらは俺を放っておけない
俺たちは犠牲にされている
本当にあいつらから逃げてきたんだ
 
Chat GPTで翻訳しました。
 
CHAOS U.K『VICTIMIZED』
I'm being victimized
They can't leave me alone
We're being victimized
We really escaped them
 
I'm being victimized
They can't leave me alone
We're being victimized
We really escaped them
 
I'm being victimized
They can't leave me alone
We're being victimized
We really escaped them
 

◉CHAOS U.Kは1979年にブリストル近くで結成されたイギリスのハードコア・パンク・バンド。「VICTIMIZED」は1982年にRiot Cityから発表されたファーストEP『BURNING BRITAIN』に収録。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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