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3回「常識なんて変わっていく」

第63回「常識なんて変わっていく」

2025.01.14

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Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

優しさの上で出てくる怒りには、伝わるものと説得力がある

 年末頃からやっと寒くなってきて、猫が「コタツをつけろ!」とうるさくなり「秋はいったいどこへ行ったんだ」などと思っていたら年も明け、あっという間に正月がやってきた。毎年正月を迎えるのが早く感じるのは歳のせいだとは思うが、それにしても早い。
 若い頃は実家とは絶縁していたので、帰るどころか連絡さえしていなかったのだが、子どもが生まれてからは親の気持ちが理解できるようになり、毎年正月ぐらいは孫の顔を見せに帰省している。帰省といっても、東京で俺が住んでいる所から電車で1時間ほどの近場なので、大した距離ではない。
 しかし実家というのは、普段東京で一人暮らしをしながらバンド活動や執筆など、いわゆる世間一般常識とはかけ離れた生き方をしていると、かなりの違和感は否めない。
 
 実家で正月といえば、おせち料理に雑煮というのが一般的だと思う。しかし、俺のような動物性の食品を食べない人間にとって、正月料理は何も食べるものがない。栗きんとんと黒豆、ちょろぎという黒豆の上に乗っている赤い渦巻きの漬物と餅ぐらいは食べられるが、雑煮になると出汁や鶏肉などが入っているので食べられない。正月の実家は食事に困る場所だ。
 仕方ないのでみんなで外食に行くのだが、父親と子どもに合わせるために、外食でも漬物と白飯といったものになり、早く自宅へ帰ってちゃんとした食事がしたいと思う時間が続く。
 外食に行くというだけで俺に合わせてくれてはいるのだが、食事中の会話でも、俺の食生活やライフスタイルを理解できないようで、動物性のものを一切食べない俺に「そんな食生活はわがままで勝手だ」と言われる。
 父親は戦争体験者なので、戦時中から戦後の食糧事情を経験しているために、食に関しての考え方は理解できる。そこで事細かに反論しても、せっかくの正月で一年に一度孫の顔を見られる時間を台無しにしたくないので「まぁ、死にたくないと言っているのに殺すのは戦争と同じだけどね」と言う程度にとどめているが、黙ってしまう。放蕩息子の戯言だと相手にしていないだけかもしれないが、俺としては正月の実家帰省は「世間一般的な常識はこうなんだろうな」と、改めて認識する機会だと思って、それなりに楽しんでいる。
 
 とはいえ、そこは親子なので理解できない食生活に興味もあるようだ。
 「それはなんだ? ベジタリアンっていうのか?」
 どうやら調べていたらしく、こちらも「お!? なんだ? 少しは理解しようとしてくれてるのか?」と思い、優しく伝えてみる。
 「ベジタリアンってのは乳製品は食べたりするんだよ。俺は乳製品もはちみつも食べないから、ヴィーガンっていうんだよね」
 「なんだ? 肉だけじゃなくて魚も食わないし、乳製品もはちみつも食べないのか」
 「そうそう。チーズとかヨーグルト、マヨネーズとかもね。あと革とかウールとかカシミヤとかの動物性の服とか靴も身につけないよ」
 「何食うんだ?」
 「野菜、豆、海藻、きのこだね」
 「出汁はどうするんだ?」
 「きのこと海藻だよ」
 「ああ、そうか。きのこの出汁は美味いもんな」
 と、まぁこんな感じで、ゆるく理解は進んでいっているように思う。動物実験をしているメーカーのものを買わないのは、また来年以降の話になるだろうが、父親が生きているうちに話ができたらなと思っている。
 
 父親との会話は、普段いろんな人から質問されるのと同じような内容だ。慣れているので、わかりやすく説明はできる。身も知らずのネット上のアンチとは違い、ちゃんとした会話にもなる。こんなことを数年続けてきて、やっとここまで理解してくれるようになった。
 
 最近、二郎系ラーメンが好きになった息子は、ラーメンが食べたい時は一人で行くようになり、一緒に外食するときもあるが、俺に合わせるのも選択肢が少なくて嫌なのだろう。俺としては二郎系ラーメン以外なら、一緒に行ってビールでも飲んでいれば問題ないのだが、一緒に食事を楽しみたいのかもしれない。
 それに応えてやれないのは残念だが、息子が大人になる頃には、動物の権利に対して今よりも理解が進んだ社会になっていると思うので、友人や知り合いにもベジタリアンやヴィーガンが出てくるかもしれない。そんなときに、父親がヴィーガンだというのは、さらに理解ができるようになる可能性があるのではないかと思っている。
 うちの息子は中学1年だが、すでにヴィーガンという言葉も知っているし、どんなライフスタイルなのかもわかっていると思う。いつも「肉食えよ。なんで肉食わないんだよ」とは言ってくるが、一番わかりやすいように「動物がかわいそうだから。うちの猫殺して食べてもいいと思う? お前が食べている豚や牛と、うちの猫とどこが違うと思う?」と、自分で考えるようにしてもらっている。
 身近に俺が存在しているので「人間は動物を食べずに生きていける」という事実は認識できる。あとは自分で選択すればいいだけだ。
 
 人間は食べる物を選ぶことができる。肉食獣は選べない。これだけでも理解できれば、選択肢もよりわかりやすくなるだろう。将来「植物だって生きている」と言ってくるのもありそうだ。そんな機会があれば、もっとヴィーガンへの理解が深まるチャンスである。反面教師というパターンの可能性も大きいが、頑張ってちゃんと話のできる親子になりたいとは思っている。
 
 俺の親父と息子は、小さい頃から目の前にあった現実が違う。親父は戦争を体験し、戦後の苦しい時代を経験した。俺や息子は戦争を体験していない。双方の与えられてきた「常識」には、随分と違いがあると思う。それでもなんとか理解し合おうとするのは、血の繋がりがあるからだけなのだろうか。
 息子は今10代で、これからいろんなことを経験していく段階だ。自分が10代のときを考えてみると、その頃目の前にあった現実や事実によって、最初の「常識」が形成されたように思う。そこからさまざまな経験によって「常識」に疑問を持ち、おかしいと思ったことに反抗し、成長してきた。意味もなくあらゆることに反抗もしたが、息子もそんな時期をこれから迎えるのだろう。
 そんな時期を過ごすときに、一番身近な存在にいる親が「動物を殺さない生き方」をしていると「常識」というものは一体どう形成されるのだろう。「常識」なんて変わっていくものだ。
 息子がどんな成長をするのか楽しみではあるが、何をしようが優しい人間にはなって欲しい。動物にも人間にも。
 ひとのことは言えないが、俺には見た目は激しくても優しい友人が多いので、そろそろ友人たちとも会って欲しい気持ちもあるが、そこは思春期の中学生なので無理強いはしないでおこう。
 
 優しさの上で出てくる怒りには、伝わるものと説得力がある。自分のことしか考えていない人間の怒りは、あまりにも薄っぺらだ。
 どうしたらみんな、もっと動物の苦しみがわかるのだろう。痛いし苦しいし悲しいのは同じだと、わからないはずはないのだが。
 さて俺も、動物に対するように、人間にももう少し優しくならないとな。優しい人間が増えれば、優しい世界が出来上がる。そうじゃなきゃ理解なんかし合えないだろう。
 自分たちに欠けている真実を隠すために、現実を塗りつぶしてしまうような生き方を、息子にして欲しくはない。
 そのためにはまず、自分に欠けている真実を受け入れられるようにならないとな。まずそこを見つけ出すか。
 おお! 今年の目標ができたかもしれない。
 
 ということで、遅れましたが明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

CRASS『REALITY WHITEWASH』

ハンドルを握る灰色の男
盗めるスカートがないか探し回る
本当は盗もうとは思っていない
そして、彼ら自身のめちゃくちゃな方法で、ほとんどの人が同じことをする
彼女はバスルームの鏡を掃除する
自分の目に線を引くために
妄想の専門家、変装の芸術家
今の自分に満足せず、できる限りのことをする
自分のためではなく 男のためだ
一方、彼は狩りに出かけている。
大通りを徘徊し、果てしないマンコ探しを続けている
看板に貼られたポスターが、彼の追跡を後押しする
男は男らしく、女は単にかわいいだけの光沢のある広告
男たちはモーターカーに乗り、男たちは鋼鉄の神経を持っている
ハンドルを握りながら、チャーリーズ・エンジェルを夢見る
車の後部座席でセックスしていると空想する
現実の映画スターとファックしていると空想する
隙間を埋めるための空想、あらゆる隙間を埋めるための空想
自分たちに欠けている真実を隠すために、現実を塗りつぶしてしまう
今、彼女は炊飯器をスポンジで洗っている
彼は残業中だから、夕食はオーブンの中だ
テレビをつけると安心する
自分の生き方を確認するのに役立つ
幸せな家族、妻と夫が画面に映し出される
完璧な社会的ユニット、いつものように
彼女はできる限りのことをしてきた
夫を愛し、敬い、従うために
自分の選択に疑問を感じたら
テレビに頼ることができる
広告や週刊誌のシリーズは、彼女が必要とする証拠だ
退屈な生活は行いを凌駕する
彼女はエピローグまで起きていて、一人でベッドに入る
仕事を終えたら、まっすぐ家に帰るだろうと満足している
その間、彼はスコッチを飲み、女はコークを飲む
妻のことを訊かれ、彼は冗談のように答えた
“あの女”のことを聞いたか?
彼は必要なものを手に入れ、手に入れたものを手に入れる
“彼は女を連れて行った” もっとたくさん連れて行くだろう
オオカミをドアから遠ざけるために、彼女はネズミを引き受けた
そして孤独の中で子どもを産むだろう
大人になるためのゲームを教え込まれ、箱詰めされ、ファイルされる
白塗りされるもうひとつの人生、私たちのもとに子どもが生まれる
親の跡を継ぐために
空想と虚偽、真実と嘘
彼らが現実と呼ぶ、めちゃくちゃなシステム
システムには下僕が必要だ
彼らは静かにドアに鍵をかけながら、優しく自由を語るだろう
システムには下僕が必要なのだ
労働収容所の肥やしとなり、銃の標的となる。
 
DeepL.com(無料版)で翻訳しました。
 
CRASS『REALITY WHITEWASH』
The grey man at the wheel
Looks around to see if there's some skirt he can steal
He doesn't really want to, he's just acting out a game
And in their own fucked up way, most people do the same
She cleans the bathroom mirror
So she can line her eyes
An expert in delusion, an artist in disguise
She's not content with what she is, but she does the best she can
But she doesn't do it for herself, she does it for her man
And meanwhile, he's out hunting, this master of the hunt
Cruising down the high street in his endless search for cunt
And the posters on the hoardings encourage his pursuit
Glossy ads where men are men, and women simply cute
And the men are in their motorcars and the men have nerves of steel
And they dream of Charlie's Angels as they firmly grip the wheel
And they fantasise they're screwing in the back seat of the car
Fantasise they're fucking with a real-life movie star
Fantasies to fill the gaps, to fill in every crack
A whitewash on reality to hide the truth they lack
Now she's sponging down the cooker, on the surface all is fine
His dinner's in the oven cos he's doing overtime
She switches on the telly, it makes her feel secure
Helps confirm her way of life, who needs to ask for more
She sees the happy family, wife and hubby on the screen
The perfect social unit, just like it's always been
She's done the very best she can
To love and honour and obey her man
And if she should ever doubt the wisdom of her choice
She can turn to television for it's moderating voice
The ads and weekly series are the proof she needs
That a life of boredom outweighs the deeds
She sits up till the epilogue and goes to bed alone
Content that when he's finished work he'll go straight home
Meanwhile, he downs another scotch, the lady has a coke
And he's asked about the wife he treats it as a joke
“Hear the one about the you-know-what?”
He's got what it takes and he takes what he's got
He took his woman and he'll take plenty more
She took on a rat to keep the wolf from the door
Then maybe in her loneliness, she'll want to have a child
Who'll be taught the games of adulthood, boxed and filed
Another life to whitewash, to us a child is born
To follow in its parents? tracks, the path's well worn
Fantasy and falsehood, truth and lie
The fucked up system they call reality
The system needs its servants, each birth is one more
They'll gently talk of freedom as they quietly lock the door
Cos the system needs its servants if the system's going to run
Needs its fodder for the workhouse, its targets for the gun
 
 
◉CRASSは1977年から1984年まで活動し、“Anarchy & Peace”をスローガンとしたイギリスのアナーコ・パンク・バンド。“ダイヤルハウス”と呼ばれる家で自給自足の集団生活を送り、自身のレコードレーベル“CRASS RECORDS”を立ち上げ、DIY精神の基礎を確立した。「REALITY WHITEWASH」は1982年に発表された、反キリスト教主義を全面に打ち出した4thアルバム『CHRIST THE ALBUM』に収録。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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