団地フォトグラファーの大山です。本コラムでは需要があろうがなかろうがそっちのけで「死ぬまでに一度は見ておくべき素敵な団地」を紹介しています。今回は「川口芝園団地」を推すのだ。これ見たことがないなんて、きみは何のために生きているのだ。いますぐ見に行ったほうがいい。
とはいえ、Rooftopをご覧の方ならこの川口芝園団地、どこかで見覚えがあるのではないだろうか。そう、これ大友克洋の『童夢』の舞台となった団地なのだ。しかしその華々しい経歴にばかりに目を取られてはいけない。この団地のすごさは、その「壁」っぷりにある。
どーん! すごいよねこの壁! 15階建ての団地が屏風のように折れ曲がりながら連なるその長さは、500m!
航空写真で見てもすごいぞ。【国土地理院『地図・空中写真閲覧サービス』より・CKT20127・コース番号:C16/写真番号:36/撮影年月日:2013/02/17(平25)に加筆】
1978年に完成したこの団地、なぜこんなにも壁なのかというと、これなんと防音壁なのだ。JR京浜東北線、東北本線に面するように建ち、背後の住宅を身をもって鉄道の音から防ぐというびっくり団地なのだ。
すぐ脇をひっきりなしに電車が通る。その音をしっかりブロック! 多い日も安心。
こんなふうに建築を使っていいんだ! ってぼくも初めて知った時はびっくりした。『童夢』であれだけ派手に戦いが行なわれても周辺住宅が無事だったのは、これが食い止めたからなのか!
で、さらに面白いのは、この団地、建設された土地が元車両工場だということ。
1947年の様子。日本車輌製造株式会社の工場だったのだ。【国土地理院『地図・空中写真閲覧サービス』より・コース番号:M46-A-7-3/写真番号:6/撮影年月日:1947/02/15(昭22)に加筆】
つまり、鉄道を作っていた場所に、鉄道の音を防ぐ壁として団地が建てられた、というわけ。一見、鉄道に対抗しているように見える川口芝園団地だが、実はすごくお世話になっていたのであった。そう知るとなんだか車両と団地とが仲間に見えてきた。こういうけなげさを感じていたら『童夢』の超能力者たちもむやみに団地を壊したりしなかったのではないかと思う。
団地団〜ベランダから見渡す映画論〜
著者:大山顕、佐藤大、速水健朗
定価:1,995円(税込)
判型:A5判
ページ数:208
発行元:キネマ旬報社
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