それぞれの葛藤を描きまた大きく動く物語
全巻の発売から2年7ヶ月。待望の新刊が発売。自身が特異な存在であることで悩む紗名、蔵六の若き日の物語と今まで以上に二人の人間性に焦点が当てられ、思い悩む姿が描かれています。かわいらしいキャラクターですが、その心情が痛いほど伝わってくる演出と心理描写の妙は流石。このことを描くのに作者である今井さんがどれほど苦心されたのか。特に紗名が自分の成り立ちや、ともすれば儚く消えてしまうかもしれない不確かな存在であることに耐え切れず家出、その先でも不意に襲ってくる不安、旅先で出会った人に癒され、自分の中での蔵六の存在の大きさと、だからこそ一緒にいることに不安を感じてしまう複雑な葛藤、読者である自分も実際に体験しているかのようでした。こう書くと恋愛感情のようですが、作中では親子関係と思春期の葛藤に近い感じですね。既刊も合わせて改めて読み返したくなりました。(LOFT/PLUS ONE:柏木聡)