団地団が団地に対する偏愛をリレー形式で掲載していくコラムです。
団地団とは:大山顕、佐藤大、速水健朗、今井哲也、久保寺健彦の団地好きによるプロジェクト
今月の団員:山内マリコ
団地に縁もゆかりもなさすぎて、もう団地について書くことなんてありません。しかしなにか書かないことには……というわけで、家中をひっくり返して見つけました! 『友だちの恋人』というフランス映画の主人公が、そういえば郊外の変わった建物に住んでいたような記憶があったのですが、奇跡的にDVDを発掘。見直してみると、それはれっきとした団地映画なのでした。
『友だちの恋人』は、エリック・ロメールが1987年に撮った長編映画。題名のとおり、友だちの恋人を好きになってしまったヒロインが、悩み苦しんだり、気まずい思いを散々味わったりする他愛ないストーリーです。ヒロインは、フランス人にしてはめずらしく童顔で、なおかつロメール映画にしてはめずらしくあんまり可愛くない地味系で、その上着ているものも80年代のイケイケ風、それがまた似合っていないという、いろんな問題を抱えた、ある意味異色の作品になっています。異色なのはヒロインだけではなく、舞台となっている街もかなりの変わり種。パリの北西に位置するセルジーという街は、おそらく「フランスの埼玉」といった感じのエリアだと思われます。
セルジーの市役所に勤める内向的なヒロインが、初対面の女子大生(サラ・シルバーマン似)からどこに住んでいるのかと訊かれて、「ベルヴェデールよ」と答えると、「あそこは兵舎みたいでイヤ」と言われてしまいます。ムッとしたヒロインが、「ベルヴェデールは最高よ。宮殿みたいだわ。入居者は多いのに閑静だし、ホテルみたいで安全よ」と反論。実際に二人で部屋に行くと、女子大生はやっぱり否定的なニュアンスで、「ここ淋しくない?」とぽそり。わたしもあそこは、住むにはかなり淋しいと思います。どんなところかと言うと……。
Belvedere Saint Christophe(ベルヴェデーレ聖クリストフ)という、半円状に広がるガラス張りの宮殿風団地というゴージャスな作りで、リカルド・ボフィル設計による傑作集合住宅とのことでした(ボフィル氏は銀座の資生堂ビルの設計者)。半円状の中心部は広場になっているのですが、誰も歩いていなくて、ディストピア感があってかなり寒々しい印象です。おもしろいのは、女子大生が「芝生がない」と言ったのに対し、「生えるわ」とヒロインが切り返しているところ。実はこの宮殿団地、竣工が86年なのですが、映画の製作が翌87年! つまり宮殿団地のできたてホヤホヤの姿が、フィルムに収められているわけです。そこから28年が経ったいま、一体この宮殿はどんな姿になっているのでしょうね。
ベルヴェデール在住のヒロインの最寄り駅は、Cergy-Saint-Christophe。駅周辺で意中の男性と何度も鉢合わせするシーンでは、「よく会うわね」と照れながら言うと、彼がこともなげに、「ここは村みたいなもんなんだ」と言っているのが印象的でした。村か…。
▲『友だちの恋人』(L'ami de mon amie)は、エリック・ロメール監督が手掛けた連作「喜劇と格言劇場」の第6弾。初夏の陽射しも爽やかなパリ郊外のセルジー=ボントワーズで繰り広げられる、24歳OLと22歳女子大生の友情とそれぞれの男友だちとの恋模様をユーモラスに描いた作品。
団地団〜ベランダから見渡す映画論〜
著者:大山顕、佐藤大、速水健朗
定価:1,995円(税込)
判型:A5判
ページ数:208
発行元:キネマ旬報社
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