団地団が団地に対する偏愛をリレー形式で掲載していくコラムです。
団地団とは:大山顕、佐藤大、速水健朗、今井哲也、久保寺健彦、山内マリコの団地好きによるプロジェクト
今月の団員:佐藤大
今月の担当は団地団メンバーで唯一団地育ちの脚本家、佐藤大です。ただし他のメンバーは写真家の大山さんはもちろん、マンガ家の今井さんも小説家の久保寺さんも、それぞれ団地をテーマにした素敵な作品を残してきたことが入団の大きなきっかけでした(山内さんも新作で団地が登場するという話も)。そんな中、脚本家として15年以上も生活をしておきながら作品で団地が一度も出てきたことがなかったこと、実は自分にとって密かなコンプレックスというか後ろめたさだったりもしていました。それも団地団のテーマとして団地が登場する映画やアニメ、小説やマンガを独自の視線で語り合うことが大きな目的であり、そういう意味で今まで僕の関わった作品が団地団のメンバーによって語られることは一度もなかったわけです。まぁ、もともとSFやファンタジーなどを得意とするアニメやゲームといったジャンルで仕事をしてきたこともあり、あえて団地を舞台設定として考える必要もありませんでした。
でも、去年、遂に僕にも団地を物語の舞台にするタイミングが。しかもそれは、自分にとって初の実写テレビドラマとなった「ノーコン・キッド〜ぼくらのゲーム史〜」です。作品のテーマはサブタイトルに「ゲーム史」とあるように「ゼビウス」や「ドラクエ」や「マリオ」といったテレビゲーム30年の歴史を主人公たち3人の人生と重ねせた内容。当然、主な舞台となるのは主人公の1人、礼治が住むゲームセンターです。ただ、その主人公の親友である木戸と2人が憧れるマドンナ的存在の高野を団地に住んでいるという設定にしました。そう。3人の登場人物のうち2人が団地に住んでいるという大盤振る舞い。でも、それは僕が団地団のメンバーだからというワケではありません。ほんとです。団地を舞台にすることで限られた深夜ドラマの予算で時代の移り変わりを撮影側でコントロールして演出する方法(過去の話をロケにする場合で一番難しく予算がかかるのは街の描写。しかし団地という囲われた空間なら外の街が映り込むことがなく撮影が出来るという利点があります)という技術的な部分。あとは企画がスタートしてから短期間で実際の脚本を作り上げるため、あらためて取材をすることなく自分の経験という引き出しで描くことが出来るという意味もあっての選択。結果、舞台として団地を使ったことでうまく時代をきりとることが出来たと思います。例えば、徹夜でゲーム(ドラクエ)をした3人が朝をむかえる場面での団地玄関のシーンなどは、まさに自分が高校時代に友だちと過ごした風景そのもので、じーんと心にくるものがありました。
でも、そうなのです。気づけば僕は、テレビゲームを文化史として描きつつ団地とむかいあった時に普段の団地団で自分が語っているようなインフラとしてではなく、原風景として作品にしていたのです。うーん。これは団地団のみなさんにどう語られることになるのでしょう。団地団的な、描いた僕には気づけない部分があるのでしょうか。今は楽しみのような不安のような気持ちでいっぱい。というわけで、2月にBOXで発売となります。団地が登場する、僕にとってはじめての作品。ゲーム史として青春ドラマとしてはもちろんですが、団地団的な目線でもみなさんに見てもらいたいです。あ。そうだ。いつか速水さんも団地をテーマにした本を書くことになるのでしょうか。ね。