団地団が団地に対する偏愛をリレー形式で掲載していくコラムです。
団地団とは:大山顕、佐藤大、速水健朗、今井哲也、久保寺健彦、山内マリコの団地好きによるプロジェクト
今月の団員:速水健朗
前回、この連載で、アメリカのラッパーのNASさんの住むクィーンズの団地の話を書きました。今回は、日本における団地とヒップホップの話を書こうと思います。
東京23区の中でも、団地の多さが目立つのは江戸川区です。これは統計上の事実ではなく、あくまで個人の感想です。
ラッパーのKREVAさんは、江戸川区の団地出身です。日本にも団地出身のラッパーは結構います。さらに彼には、同じ団地で育った地元仲間のラッパーがいます。そのCUEZEROとの共演で、地元に捧げた『江戸川ロックオン』という歌をつくっています。
「1,2,3,4,5,6号棟 団地の子供さ どこ行こうと 友達んチ 好きな子んチも 集まってたぜ不思議な土地」というライムから伝わってくるのはもちろん団地愛。
「海抜0メートル湾岸 自転車で7分ワンダーランド 8時27分頃花火 いつの間にやら時報代わり 大橋越え立ち漕ぎ禁止」。江戸川の自慢が始まるのかと思いきや、この描写は明らかに橋を渡った向こうにある、浦安のあのネズミで有名な遊園地のことです。結局、すぐに千葉の話に移行してしまっているというのが、江戸川区の複雑さを表しています。
僕が一番好きなのは、「マクドナルドよりドムドム」という箇所です。
「ドムドム」は、ドムドムバーガーのことです。オレンジフードコートが運営する、日本初のハンバーガーチェーンです。かつては、マクドナルドと競合した時代もありました。勝負は決し、すでに25年以上の時が経っています。
さて、なぜ江戸川区の出身者である、KREVAたちが、“レペゼン”江戸川として「ドムドム」をアゲるのか。そして、マクドナルドに“ビーフ”を投げつけるのか。
それは江戸川区には船堀のダイエーがあったからです。江戸川はダイエー圏です。ダイエーはオレンジフードの親会社です。なのでダイエーにはよくドムドムバーガーの店舗がテナントとして入っていました。
ドムドムに思い入れのある人は、皆ダイエー圏の住人です。逆に言えば、そこにはマクドナルドはあまりなかったのです。当然、両者は政治的に敵対する大人に育ちます(個人の感想です)。
ちなみに、オレンジフードの傘下には、ディッパーダンも含まれます。ドムドム、ディッパーダンとなると、商圏がダイエー圏だったという以上に、世代によるところが大きいでしょう。もうアラフォー世代しかわからないかもしれません。
団地団〜ベランダから見渡す映画論〜
著者:大山顕、佐藤大、速水健朗
定価:1,995円(税込)
判型:A5判
ページ数:208
発行元:キネマ旬報社
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