団地団が団地に対する偏愛をリレー形式で掲載していくコラムです。
団地団とは:大山顕、佐藤大、速水健朗、今井哲也、久保寺健彦の団地好きによるプロジェクト
今月の団員:山内マリコ
小学生のころは通学路が人生のすべてだった。朝は2歳上の兄の後ろをちょこまか付いて歩き、帰りはクラスメイトと途中まで一緒だが、家が学区の端っこにあるため、最後は必ず1人になってしまう。とくに団地の子たちが、家族ともただの友だちとも違う独特の結束のもと、ひとかたまりになってわいわい言いながら去って行くと、あとはもうトボトボ自分の足でも見ているしかない。街路樹の根元に咲くハルジオン、ぺしゃんこに潰れた空き缶、小石……。きっといま頃みんな、誰かんちに集まってファミコンでもやってるんだろうな。下校のときは大抵しょぼくれた気持ちになった。
活きのいい小学生男子たちが帰って行ったあこがれの団地も、いまや老朽化&高齢化の波が。北陸なので空がどんよりしているのはいつものことです。
小6のときの親友は、団地というか小さなアパートに住んでいた。母子家庭で暗くなるまでお母さんが帰ってこないため、授業が終わるとその子の部屋に直行し、入り浸るようになった。夕方のラジオ番組にリクエストの電話を入れたり、少女漫画を読んだり。小学生の長い長い放課後、そこは子供だけの王国だった。なんかもう住めそう、というか、1日中いても良さそうな気になってくる。申し合わせて学校をサボることに決め、食料のベビースターラーメンだけランドセルに入れて彼女の家に行った。するとその日に限ってなぜか「お母さんが家にいる」と、友だちは血相を変えて言う。計画失敗! ベビースターラーメンしか持っていないため学校にも行けず、一旦家に帰るという機転も利かず、2人はまるで捨て猫みたいに住宅街をうろついて、探しに来ていた教頭先生に見つかってお縄となった。
空き部屋も多そう。洗濯物もステテコ率高め。一時は取り壊しの危機だったそうだけど、耐震工事が行われることで決着したとのこと。
中学時代の親友は正真正銘の団地に住んでいた。共働き家庭のひとりっ子だからか、それともAB型だからか、彼女はどこかつかみどころのない性格だった。水槽でイグアナを飼い、福山雅治の大ファンで、学校で手紙を交換すると銀色夏生の詩の一節が書き添えられていて、その引用がまたハッとするほど良かったのを憶えている。うちから徒歩30分近くかかるその団地にも、けっこう遊びに行った。記憶の中ではそこはいつも冬で、薄ら寒く、日が暮れて真っ暗だ。
小6のときの親友も、中学時代の親友も、みんなもう団地には住んでいない。団地は人生の——というか核家族の、中継地点。あれから20年近くが経ち、わたしの中に団地へのぼんやりしたあこがれだけを残して、みんなどこかに行ってしまった。
1階部分はテナントで商店街になっているけれど、数年前にはスーパーも撤退…。車道の交通量は多いけど、人通りは閑散としてます。わたしももう何年も歩いていない。
団地へのぼんやりしたあこがれは『耳をすませば』のせいで強化され、数年前に開催された第1回団地団のイベントに行ったりもし、そんなわけでこのたび団員となることになりました、山内マリコです。なにしろぼんやりしたあこがれなので、高島平にも行ったことありませんが、どうぞよろしくお願いいたします!
団地団〜ベランダから見渡す映画論〜
著者:大山顕、佐藤大、速水健朗
定価:1,995円(税込)
判型:A5判
ページ数:208
発行元:キネマ旬報社
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