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トップコラムザッツ団地エンターテイメン棟第十一回「『増大派に告ぐ』〜団地には妄想がよく似合う〜」 今月の団員:久保寺健彦

一回「『増大派に告ぐ』〜団地には妄想がよく似合う〜」  今月の団員:久保寺健彦

第十一回「『増大派に告ぐ』〜団地には妄想がよく似合う〜」 今月の団員:久保寺健彦

2013.08.26

団地団が団地に対する偏愛をリレー形式で掲載していくコラムです。
団地団とは:大山顕、佐藤大、速水健朗、今井哲也、久保寺健彦の団地好きによるプロジェクト

今月の団員:久保寺健彦

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新潮社の編集さんによれば、
表紙の団地は関西地方に実在するらしい。
妄想におおいつくされた感じがよく出ている。

増大派に告ぐ/小田雅久仁
新潮社
1,470円

 2年生まで通った小学校のそばに、全部で35棟の公団があった。当時、手塚治虫の『ブラック・ジャック』に入れあげていたぼくの発案で、その公団の構内を人体に見立て、ばい菌チームと白血球チームにわかれて鬼ごっこをしたことがある。北側の出入り口が口、南側の出入り口が肛門。道が消化器で、棟や公園がその他(た)の臓器、のつもり。ばい菌チームになったぼくは、もう1人の友だちと一緒に遊具や植えこみの蔭に身をひそめながら、ワクワクしていた。見つかったら分解される、と役になりきって話しかけたものの、友だちの反応は薄かった。広すぎてつかまえられないという白血球チームの抗議もあり、人体見立て鬼ごっこはほどなく中止となって、そのあとは二度と行なわれなかった。みんなの冷淡さが不満だったけれど、いま考えるとあたり前で、むしろ、1回でもよくつきあってくれたと思う。以上はひとりよがりで、駄目な妄想の例だ。

 その点、今回ご紹介する小田雅久仁の『増大派に告ぐ』は、魅力的な妄想にあふれている。主人公は海沿いの団地に住む14歳の少年と、31歳のホームレス。かつてその団地の住民だったホームレスは、本人にしか理解できない目的を持ってそこへ戻り、付属のグラウンドに住みつく。ホームレスは妄想の中、彼が増大派と呼ぶ連中と1人きりで戦い続けているのだ。

 一方の少年にとって、団地は嫌悪すべきものすべての象徴で、人間を呑みこむ不気味な生物として想起されている。物語は、少年とホームレスの視点から交互に描かれ、あるきっかけで2人が行動をともにした日の夜、残酷な結末を迎える。ここでの団地は、妄想を核に他者同士を引き寄せ、一瞬の化学反応を起こさせる、るつぼのような存在だ。画一的・無機的なイメージが妄想の触媒となり、閉鎖的なイメージがそこに凝集力を与える。この作品のすばらしさはいろいろあるが、物語にうってつけな舞台を配置したことは見落とせない。

 ちなみに、作者の小田さんとは、メールのやりとりをしたことがある。この小説が大好きなので、“大好きです”とストレートに書いたところ、“本当に本当にうれしいです”とお返事が来て、こっちまでうれしくなった。作品を生み出すのは、想像力よりいかがわしい妄想力だったりするけれど、どうせならこんな風に、周囲に幸せを振りまく妄想をしたい。

 

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団地団〜ベランダから見渡す映画論〜
著者:大山顕、佐藤大、速水健朗
定価:1,995円(税込)
判型:A5判
ページ数:208
発行元:キネマ旬報社

 

団地団プロジェクトTwitter
http://https://twitter.com/danchi_books

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LIVE INFOライブ情報

 

「団地団夜 秋の団地祭 上京編。」
10月14日(月)阿佐ヶ谷ロフトA

OPEN 18:00 / START 19:00
ADV. 1,800 / DOOR 2,000(共に飲食別)
団地団 are
佐藤大(脚本家)/ 大山顕(写真家)/ 速水健朗(ライタ—)/ 今井哲也(漫画家)/ 久保寺健彦(作家)/ 山内マリコ ※NEW!
●ビギナーの貴方に
 団地団とは2010年12月、新宿ロフトプラスワンのトークイベントで結成。メンバーが、それぞれの立場から、映画、マンガ、アニメなどに登場する団地について深く考察して大放談を繰り広げ、毎回大好評を博しています。話題は団地の美観や構造に対する偏愛にとどまらず、団地登場作品の演出論から大衆文化論、果ては都市論や郊外論にまで飛び火。知恵熱必至の知的エンタテインメントです。トークイベントは不定期で継続開催中!

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