PompadollSの勢いが凄い。童話をモチーフに描かれる現実的な歌詞の世界観と、ピアノロックサウンドが織りなすテクニカルで熱いステージが若い世代を中心に人気を集め、結成1年にしてすでに海外公演や大型フェスへの出演が続々と決定するなど、国内外を問わず急速な認知の広がりを見せている。「こうなるとは思っていなかった」と先日のインタビューで青木廉太郎(Gt)が言っていたが、半年前に発表された1stワンマンの会場はキャパ200人に満たない下北沢Flowers Loft。当初、半年かけてソールドさせるつもりが、なんとたった1分で完売。急遽決定した追加公演は3倍のキャパにも関わらず、同じく即完売。バンドの‟作家”五十嵐五十(Gt / Vo.)が描く楽曲の奥深さはもちろん、これだけ多くの人々を急速に惹きつけるバンドの魅力とは何なのか。「伝説の始まり」となる貴重な一夜を目撃した。
満員の場内で、開演前から汗ばむ暑さの中照明が暗くなると、トイピアノの不協和音が観客を一気にゴシックな世界に誘う。不穏にアガっていくダンサブルなSEの中メンバーが登場し、SEに乗っかるように演奏。大歓声が上がる中、1曲目「海底孤城」へ。童話の世界を現実に召喚したような演出にワクワクする。「今日しかできない話をしよう!」と五十嵐が煽ると「日の東、月の西」では観客がオイコールで応える。小松里菜(Key)の狂気的なピアノ前奏からの「怪物」や、邦ロックノリでステージが華やぐサイカワタル(Ba)の安定感のあるベース、但馬馨 (Dr)の主張しすぎないドラム、ブルースを感じる青木の渋いギターと、ロックとジャズが融合していくセッションからの「窮鼠、猫を噛む」など、各々の演奏力の見せ場がしっかりあり、やはりここが他のロックバンドとは異なる特徴的な部分だなと思う。ライブの3日前にリリースされたばかりのEP収録曲「ラブソング」では五十嵐がギターを置き、少女のような少年のような無邪気な笑顔で、体を揺らしながら歌う。
MCでは五十嵐がワンマンのタイトル『いつか帰るところ』に込めた想いを語った。「今の時代に確かなものなんてなにもない。仕事だってAIに取られるかもしれないし、友達も恋人もいつまで自分を好きで一緒にいてくれるか分からない。そんな中で強くいるために必要なのは孤独であること」。彼女の言う孤独とは、人と関わらずに引きこもるという意味ではなく、誰にも何にも依存せず、ちゃんと自分の足で立つこと。「そのためには人と関わらなきゃいけない。そうすることでしか外から見た自分の姿を確かめることが出来ない。ライブは究極に交わる場所。この先どうしても勇気を出さなきゃいけない場面がきた時に、今日のライブがみんなにとっての拠り所、お守りになったらいいな」。インタビューの時にも感じたが、彼女の人との距離の測り方は面白い。ステージとフロアの壁を感じさせない熱いライブを見せる一方で、無責任に依存させるようなことは言わず、あくまでも自分の足でしっかり立てと促す。PompadollSの曲に逃避感を感じない理由はここにあるんだなと思う。これも、期待しては裏切られる童話の主人公たちから彼女が得た‟教訓”なのかもしれない。そんなMCから、初の童話モチーフではない新曲「まえがき」の「お前が私の芸術だったらなあ。」という歌詞が胸に響く。
「赤ずきんはエンドロールの夢を見るか?」、「スポットライト・ジャンキー」でキャパに収まりきらないほどの熱量の高い盛り上がりを見せ、本編が終了。アンコールでは、初の東名阪ワンマンツアーの開催を発表した。ファイナル東京は恵比寿LIQUIDROOM。「Flowers Loftの5倍だけど、いけんのかー?」と青木が煽ると大歓声が上がった。メンバー全員が観客一人一人の顔を目に焼け付けるようにラストの「魔法のランプ」を披露し、「また一緒に遊びましょう!」と笑顔でステージを去る五十嵐の言葉にこちらも笑顔になった。
登場時の世界観の作り方やロックな熱量、各々の演奏力の高さなど、やはり小さなライブハウスではもう収まりきらない。とはいえ、結成してまだ1年。初々しさを感じる部分ももちろんある。しかし、イベント出演の際に他の対バンにも盛り上がるPompadollSのファンのことを「新しい遊びを見つける子供のような純粋さがある」と五十嵐が言っていたように、ライブでの躊躇のない熱い盛り上がりや、PompadollSの曲や歌詞を必死に理解しようとするファンの姿、そして五十嵐の独特な距離の測り方に、バンドとファンとの新しい関係性の築き方のようなものを感じ、確実になにか新しいブームが起こっていっているのを実感した。【Text:小野妙子 / Photo:和花奈(@waka_mera08)】
Photo:Wataru (@_waaaataru)
PompadollS 1st One Man Live『いつか帰るところ』
2025年6月28日(土)下北沢Flowers Loft
【SET LIST】
1. 海底孤城
2. 日の東、月の西
3. 怪物
4. みにくいアヒルの子
5. ロールシャッハの数奇な夢
6. 窮鼠、猫を噛む
7. ラブソング
8. まえがき
9. 悪食
10. 赤ずきんはエンドロールの夢を見るか?
11. スポットライト・ジャンキー
en. 魔法のランプ
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