うつみようこ、還暦となる8月15日の誕生日より一足早く、7月4日に京都磔磔でライブが開催された。素晴らしかった!
還暦を迎える、そして音楽活動ほぼ40周年となる2025年。磔磔でのライブ開催の経緯をうつみようこに聞くと、「まず私がメスカリン・ドライヴの弾き語りを思いつき、ひでちゃん(伊丹英子)に相談したら、『盛大にお祝いしたらどう? お手伝いするよ!』と言ってくれたんですが、そこは丁寧にお断りして(笑)」。が、ここからメンバーの伊丹英子、永野かおり、髙木太郎の参加、オリジナル曲と当時演奏していたカバー曲の弾き語りを中心にバンド編成も披露することが決まった。
40年のキャリアの中からメスカリン・ドライヴの曲のみをやる理由を聞いたら、「自分の声も経験が増えていろいろ唄えるようになってきたけど、やっぱり80年代当時の声とは違っていて。だからギリギリ今かなって思って。メスカリンを当時の感覚で唄えるのは、今がギリギリかなって。70才では無理かなって思って」【※筆者による、うつみようこへのインタビューはこちら】
まさに原点と現在。私が80年代にメスカリン・ドライヴを知った時、うつみようこの完璧な英語、リズム感、迫力に驚いた。圧倒的だった。時を経て、ボーカリストとしての多くの経験からか表現力が増していった。これからもきっと唄い続けていくだろう、成熟していくだろう。だから“今”なのだ。今だからこその表現力でメスカリン・ドライヴのあの感覚を出せる。そう確信したのだろう。
さぁ、いよいよライブ。実は筆者、磔磔に行ったのは初めて。古民家のような佇まいがカッコイイ。実際、木造だからか、この後のライブの音は爆音でも柔らかく親近感とスケール感のある音だった。雰囲気も音も最高!
磔磔の前には開場前から集まった多くの人。開場するとすぐに満員。あちこちで「わー、久しぶり!」と声がする。
オンタイム。パティ・スミスの「Rock'n'Roll Nigger」が流れる。観客のお喋りの和やかな雰囲気がグッと引き締まり、直後に手拍子、うつみようこの登場で歓声。「あぁ、こんばんは。メスカリン、二十何年振りかな。うつみようこです」と第一声、「ようこちゃーん」の声援に「照れますな」(ということでこのライブレポートも「ようこちゃん」と書かせてもらう)。
アコースティック・ギターを抱え椅子に座り、「ほな初めて唄った日本語の曲を」から「笑いっぱなしの島」。ギターのカッティングから“鳥が歌を唄えば 森もあわせて踊る”と唄うポップでファンキーなサウンドに痛烈なメッセージが込められた曲をアコギ一本で。そこから響き渡るようこちゃんの声は深みがある。
次の「マウンテンバイク・フロム・ヘブン」は大らかなメロディに、ハスキーなのに伸びやかで高らかな歌声。グルーヴ。この歌声こそ成熟っていうものかもしれない。観客は同世代も多いだろう。年相応でいい、自分であればいい。そんなことを感じたんじゃないか?
「マウンテンバイク・フロム・ヘブン」には、“休まることのない 平和を漕ぎながら”という歌詞がある。そうだ、自分で漕ぐのだ、漕ぎ続けるのだ。自由に、ありのままに。なんてことをふくよかで伸びやかなようこちゃんの声を聴いて思った。若い日を懐かしむのもいいけど、今の自分を楽しもう! と。
そして初期のアルバム『スプーニー・セルフィッシュ・アニマルズ』から「JIMI JIMI」。ノリノリのR&Rをアコギで唄う、新鮮! だが間奏に入ると小声で「エレキでやるつもりやった」と笑う。で、エレキ・ギターに持ち替え「DEEP MORNING GLOW」。そして「こんな曲やってました」とカバーで「20th Century Boy」(T.Rex)、メスカリン・ドライヴ初期、5人の頃のオリジナル・ナンバー「LIAR LIAR」、そしてシルバー・ヘッドのカバー「HELLO NEW YORK」と一気に3曲。ドスのきいたボーカル。カッコイイ!
ヘヴィな「檻の中」、コミカルな「パパは誰」、ドラマチックな「BRAIN TOO LATE」。再びカバーは、「ジャニス・ジョプリンに声が似てるって言われるんですけど、一個も似てない。自分で思うのはジェファーソン・エアプレインのグレイス・スリック。3月にひでちゃんと『食とボイトレ』のイベントをやったんですけど、来てくれたお客さんからのリクエスト、ジェファーソン・エアプレインの『Somebody to Love』を」。ようこちゃんはこの曲を20代前半に唄っていたのか、凄い。
後半に入り、「ノスタルジア・シンドローム」ではコーラス部分を観客が一斉に唄う。ようこちゃんは途中ギターを弾きながら、「ようわかってんな~。ありがとう!」とちょっと照れながら笑顔で応える。最高のコールアンドレスポンス。「からまる・あ・お」のハリのある声。アコギに持ち替え、宝物を掬い上げるように丁寧に唄う「闇の波間」。この流れ、ジンとくるなぁ。
「正体不明の被害者意識」、「龍宮へようこそ」と起伏あるハードな2曲がアコギで新鮮! と思ったら、間奏で「エレキにすればよかった」と笑わせる。ここでも観客は隙あらば大合唱。
そして、べースに永野かおり、ドラムに髙木太郎が登場。大きな拍手。ベースを弾くのは10年振りというケンちゃん(永野)は「2カ月間、むっちゃ練習した」。今年やはり還暦という太郎は「でも1カ月弟です」と言うとようこちゃんが「細かいこと、やめてくれる」とチクリ。ケンちゃんのリクエストで「DEAR AFTERGLOW」。美しいなぁ、あたたかいなぁ。
「ではお呼びしましょうか。伊丹英子!」でギターのひでちゃん登場。「ケンちゃんとソラ(ひでちゃんの娘)と3人で作ったん」と赤いちゃんちゃんこならぬJB(ジェームス・ブラウン)ばりの赤いマントをプレゼント。ようこちゃん似合う!
ひでちゃんはソウル・フラワー・ユニオン、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットでチャンゴやブズーキーを演奏しているものの、ライブでギターを弾くのはおよそ20年ぶり。「I DON'T LIKE」で4人の気合いと緊張感が楽しさと勢いに瞬時に転化。ギターの豪快なカッティング、リズム隊が顔を見合わせ合図し合い重低音を響かせる。満員の観客には踊るスペースはないけど、手を振り上げることはできるし唄うこともできる。痛快なロックンロール「ASS HOLE」。メンバー紹介の後、「もう、この曲やったら、ないぞ」と最後の曲を始めようとするが、「どう? いい?」って頷き合ったり笑顔を交わしたり、なんだか終わりたくない様子。それは観客も同じ。終わらないでほしい。だけど、進もう。前に行こう。
メンバーが合図を送り合い、次の瞬間にケンちゃんのベースがグイグイ突き上がり轟く。湧き上がる歓声。「NO! NO! GIRLS!」だ。ひでちゃんのギターが吠え、太郎のドラムがビートを叩き出し、ようこちゃんのボーカルは叫びうねる。コレだよ! あの頃のメスカリン・ドライヴで、今この瞬間のメスカリン・ドライヴ。
私は、そしてきっと多くのファンが、女性が“No!”と叫んでいいと気づいた。当たり前だと思っていたものはつまらない因習だと気づいた。メスカリン・ドライヴの曲のおかげで気づいた。80年代の若かった当時、そして今、この日のライブで。
アンコールはようこちゃんがエレキでしっとりと「COCAINE BABY」。
楽しかった、唄った、笑った、泣けた。
「解散とか再結成とか、どうでもいいんですよ」。そう。言葉に捉われることはない。そのまま進めばいい。自分で漕いで、漕ぎ続けるのだ。そして、いつか。また!
うつみようこ60歳記念ライブ【うつみようこ Sings Mescaline Drive】
【日程・会場】2025年7月4日(金)京都 磔磔
【出演】うつみようこ
【ゲスト】伊丹英子・永野かおり・髙木太郎
─うつみようこ─
01. 笑いっぱなしの島
02. マウンテン・バイク・フロム・ヘブン
03. JIMI JIMI
04. DEEP MORNING GLOW
05. 20th Century Boy(T.Rex Cover)〜LIAR LIAR~HELLO NEW YORK(Silver Head Cover)
06. 檻の中
07. パパは誰
08. BRAIN TOO LATE
09. Somebody to Love(Jefferson Airplane Cover)
10. ノスタルジア・シンドローム
11. 迷宮新喜劇
12. ムーヴ・オン・ファースト(オノ・ヨーコ Cover)〜火の車(Bob Dylan & The Band Cover)
13. からまる・あ・お
14. 闇の波間
15. 正体不明の被害者意識
16. 龍宮へようこそ
─Mescaline Drive─
17. DEAR AFTERGLOW【with:永野かおり・髙木太郎】
18. I DON'T LIKE【with:伊丹英子・永野かおり・髙木太郎】
19. ASS HOLE【with:伊丹英子・永野かおり・髙木太郎】
20. NO! NO! GIRLS!【with:伊丹英子・永野かおり・髙木太郎】
【Encore】
─うつみようこ─
COCAINE BABY