「ドラマを観る」という行為は一見、一方的に発せられるものを受動的に、ただストーリー等を目で追っているだけのように思われがちだ。しかし実はそのストーリーにかなり自分を投影したり、感情移入したり、気持ちを重ねないと入り込めなかったりする。そこに自身との接点の見い出しや気持ち、心情を重ねられないと、ただ目で追うだけでけして胸や心には残らない。同じ帯のドラマでもその視聴率に差異が現れるのもその為だ。
この日、SPARTA LOCALSが2マン自主企画『TWO BEAT』を新宿ロフトで行った。2017年末より不定期に開催してきた同企画は、彼らが責任と自信を持って一緒に板(いた)に立ちたいというバンドを声かけをし実現してきたもの。そんな第4回目の今回はeastern youthが迎えられた。この組み合わせはeastern youth主催の2008年暮れの「極東最前線」以来11年ぶり。そして、SPARTA LOCALSの安部コウセイ(Vo.&G.)は、この日に際し、「何かお客さんの中でストーリーが展開される日」と目した。
SPARTA LOCALS、eastern youth、新宿ロフトの掛け合わせ…。結果、特に一緒にプレイされたわけでも、互いの曲を演ったわけでも、必要以上に相手バンドを語ったり仲良し感を出したわけでもなく、ただお互い自分たちの今と、この日この場所に遺しておきたかった楽曲を精一杯放っただけであった。なのだが、そこには確実に観た人各人にストーリーを展開させていたのも興味深い。そして以下は私に於いての、あの日あの場所で観たドラマのストーリーだ。
以前の「極東最前線」の際には後攻であったeastern youthであったが、この日は呼ばれる側につき先攻を務めた。
まずはギターの爪弾きから「ソンゲントジユウ」のアルペジオがゆっくりと場内へと滑り出す。それが16小節を超え、ギアが踏み込まれるようにグワッとエモーションさを放出させていく。何度でも震わせていけ!なんと言われようと俺は俺だ!そうだろう?と満場に吉野寿(Vo.&G.)が激しく問いかける。続いて切り裂くように「明けない夜はないのだ」が現れる。止まない雨はないのだ、明けない夜はないのだ、と、かまわずキツく目を閉じながら前にだけ進んでいくかのような同曲。ラストは雄々しい村岡ゆか(B.)のコーラスが明け方を連れ込んできた。
「さっき安部くん(SPARTA LOCALS : Vo.)とも久々に会ったんだけど彼は全く容姿が変わらない。会った時のまま。年齢不詳。ずっと浪人生のままのようだ」と吉野。緊張的な歌とは対照的に会場が和む。
ライヴに戻る。田森篤哉(Dr.)の前のめりなドラミングが会場を一緒に走り出せたのは「ズッコケ問答」であった。ここで全部終わり。そしてまた一から始める。そんな覚悟が場内に満ちていく。その疾走感に独特の叙情性が加わっていく。「徒手空拳」だ。ステージに向け、ひと際、同調し想いを重ねた無数の拳が上がる。また、「雨曝しなら濡れるがいい」では、村岡によるベースの運指が躍動を呼び込んでいった。
ここで吉野から新宿ロフト歌舞伎町への移転20周年のお祝いの言葉が贈られる。とは言え、「私は小滝橋世代(旧新宿ロフトの場所)だから、まだここを「新しいロフト」って呼んじゃう」と和ませ、「長いことやっていると見えてくるものがあるよな」と言葉を継ぐ。そしてライブがドライブ感を持って再び走り出したのは「浮き雲」からであった。吉野が渾身を込めて行き着く先が俺の定めとばかりに青筋を立てて歌う。また、続く「素晴らしき世界」ではこの日最ものエモさと出会えた。
オリンピックで地元・札幌がディスられていることに言及。「あそこでマラソンなんてするんじゃねぇ!!あそこはビアガーデンをするところだ!!」とその札幌の光景を思い浮かばせた「時計台の鐘」、村岡も歌を加え、ツインボーカルにて夜が明けるのが見えるだろう?朝が来るのがわかるだろう?と問いてきた「夜明けの歌」。そして「また俺たち街の底で会おうぜ」と最後は「街の底」が、戦いはこれからも続いていく。生きて生きて生き抜いてやろうぜと歌われているかのように響いた。
続いてはSPARTA LOCALS。凄くストイックで、無駄なものは一切排除。これまで以上にライヴのみで勝負する姿勢が伺える。またセットリストもニューアルバム『アンダーグラウンド』を中心に初期の曲を多めに新旧合わせ持ったラインナップで挑んだ。
1曲目は初期のナンバー「スロウカーブ」が飾った。どっしりとした滑り出しだ。安部コウセイ(Vo.&G.)のギターカッティングに伊東真一(G.)のギターが泳ぐように音を乗せていく。カンと張った中山昭仁(Dr.)のスネアに、安部光広(B.)による幾何学なベースが絡みついていく。対して2曲目はニューアルバムから「アンダーグラウンド」。コウセイのロングトーンも冴え、空間性のあるエフェクトをかました伊東のギターと共にライブが転がっていく。また会場をダンサブルに躍らせた「黄金WAVE」では、サビでは多くの手が上がる。そしてノンストップで入った「GET UP!」では、エッジーなギターとビートが更に会場を前のめりに踊らせる。スリリングさと暴発さ。そしてそこを抜けて現れるストレートさが気持ちいい。人気曲「トーキョウバレリーナ」では光広のファットなベースラインが会場を腰で踊らせていたのも印象深い。
「安部コウセイ40歳です」とショートMC。すぐさまライヴに戻る。ニューアルバムから「コールタール0」が。育まれるドライブ感と共に更にライブが走り出していく。伊東のギターもその高速の中、たゆたうように踊りまくっていく。そんな伊東のギターから「battle」に入るとコウセイもハンドマイクにて歌唱。君しか知らない新しいダンスで殺してよと歌えば、「ナイトエスケープ」では、ちょっとしたウェットさが混じり、伊東もループ性のあるミニマルなフレーズを繰り返す。そんなちょっとした寂しさを更に広げていったのは「noRmaL」であった。同曲では逆に沈殿していく気持ちが歌われ、ゆったりと情景観たっぷりに会場全体に同曲のアウトロが広がっていった。
「新宿ロフトでeasternと一緒にライブを演れるのは凄く贅沢なこと」とコウセイ。歌舞伎町移転20周年を祝し、「東京は凄く嫌いで新宿はその象徴。今やそんな街でeastern youthと一緒にライブができるなんて」と感慨深さを語る。
ここからは後半戦。ライブが強度を上げていく。「Leaky drive」ではスタンドマイク。幾何学な楽曲ながらしっかりとキメる。またフロアを引き連れるように「UFOバンザイ」が会場を躍らせれば、中山も暴発ドラムを披露していく。ショートチューンで踊りまくらせる楽曲は続く。初期曲「ピース」に続き、コウセイの「馬鹿野郎!!」のシャウトから入った「ばかやろう」では会場交えての馬鹿野郎レスポンスも。そして本編ラストは「jumpin」が。俺がお前を認めてやる。だから怯える必要はないのメッセージと共に同曲が一気に場内を駆け抜けていった。
アンコールでは本編後半の猛ラッシュの凪のように「リザーバー」が贈られた。彼らのウェットな部分と秘めたエモさが垣間見れる同曲。隙間の多いサウンドとギターのアンサンブルにゆっくりと包み込まれていくのを感じ、最後はとてつもない高みへと引き上げてもらった。
出身地も北海道と福岡と対照的。音楽性もど一直線と、ちょっと斜めから見た感じ。実直者とややひねくれ者…そんな対照的な2つのバンドながら、どこか不思議な共通項も伺え、一緒に観るとそれをことさら感じた、SPARTA LOCALSとeastern youth。それこそが最近のSPARTAからも伺え出した「暮らし」や「誰が何と言おうと俺は俺観」、そしてどんなに場内一緒になって声や気持ちを合わせても、どこかポツンと独りを思いっきり感じるところ…。両極な2者とこの新宿ロフトは私にこのようなドラマやストーリーを浮かばせた。
あなたはこの日、この2バンドを新宿ロフトで観て、何を胸に去来させ、どんなストーリーを展開したのだろうか?是非今度はその話も聞かせて欲しい。