ストーリー、キャストから劇伴まで、『おしん』マニアが魅力と面白さを語り尽くすトークイベント「おしんナイト 2019」が、2019年11月1日(金)に開催された。当日は立ち見が出るほどの盛況となり、「おしんナイト2020」の開催も決定(2020年6月28日(土)に延期して開催予定)しました。しかしチケットは即完売! 買えなかった方、申し訳ねぇっす……。
前回参加出来なかった方、次回チケットが買えなかった方、遠方で参加が難しい方……そんなすべての『おしん』ファンのため、開催当日までに再放送されていた第185回までの内容でトークを展開した「おしんナイト2019」の特別レポート、第2回をお届けします!
流転人生の始まりは「マタギ手伝い」
成田:冬の川で「やーめた」となったおしんは、洗濯物を放り投げて上流の実家に帰ろうとして迷い、吹雪の中で倒れます。そこを俊作兄ちゃんと松造に助けられて、山中で年を越します。春になって雪が溶けるまでマタギの手伝いという、なかなか普通の人生では経験しない職業をやります。
エスムラルダ(以下エスム):おしんの転職歴は「家事手伝い」「子守」に続き「マタギ手伝い」っていう(笑)。
成田:はい(笑)。そして俊作兄ちゃんに読み書きや九九を教えてもらって……最後は射殺ですよ!
エスム:見てる側はもうちょっと何とかならなかったのかな、って思いますよね、山を降りるタイミングとか……雪は溶ける一方なんだから、あと数日待てばよかった!
成田:ここでおしんは「脱走兵と一緒にいた」という罪で連行されます。
エスム:おしんは何度か捕まってますもんね。
成田:第185回までに3回捕まってます。なかなかアグレッシブな主人公ですよね。
エスム:履歴書の賞罰のところがちょっとね……書きづらい(笑)。
成田:なかなか転職しづらいでしょうね(笑)。
会場:爆笑
成田:それでやっと実家に戻ったおしんは「脱走兵と一緒にいたのか!」と激昂した作造にしばかれます。
エスム:作造さんね……今で言う毒親ですよね。
成田:まあ昔はそれが普通だったんでしょうけど……。ちなみに第19回で、おしんは5発もビンタを喰らってます。そうこうしていると、年季の明けたはる姉ちゃんが帰ってきます。それで「オレは字が書けるんだぞ」と自慢して石版と石筆を買うお金をもらいます。そのはる姉ちゃんは、次は製糸工場へ奉公に行くことに。
エスム:あ、そうそう、おしんってときどき「そういえばあれどうなった問題」があるじゃないですか。石版もその中のひとつですよね?
成田:そうなんですよ。俊作兄ちゃんからもハーモニカと与謝野晶子の詩が載っている『明星』をもらうんですけど、その後ちょっと本が見当たらないんですよね(笑)。
エスム:ハーモニカはずっと持ってるんですけどね(笑)。
成田:石版もないんですよ。石筆は使っているうちになくなるから……まぁでも石版はね、どこかで壊れちゃったんですかね(笑)。そしてこの年は凶作で、ブラジル移民の話が出て、「ばんちゃんは連れていけない」と言われたことを苦にした自殺未遂事件なんかがありました。実はこのときシベリアで「ツングースカ大爆発」という隕石によって起こった爆発があって、それで凶作になったのではないか、という説があって。
エスム:はー、なるほど! でもそこまで踏まえてドラマが進むって凄いね。
成田:で、結局末娘のすみを養女に出し、ふじが酌婦として銀山温泉へ働きに出るということになります。そしてここでおりきが初登場!
エスム:スーパーおりきさん!
成田:この人何者なのかな、という謎の人物ですよね……(笑)。そのおりきから、酒田の米問屋「加賀屋」で子守奉公を探しているという話が出ます。それを聞いたおしんは黙って家を出て、酒田へ行く前に内緒で銀山温泉のふじのところを訪ねるんです。
エスム:ちょっとおしんちゃん、健脚すぎますよね?
成田:そうなんですよ。徒歩でどのくらいかかるか調べてみたら、おしんの実家近辺から銀山温泉までは現在の道で約70キロ、大人の足でもノンストップで15時間17分かかります。そこをおしん、一泊でたどり着きます。
エスム:まぁ……母ちゃんに会いたいっていう気持ちの強さよね(笑)。
――ここで限定数があっという間に売り切れ、なんと追加で二度目の炊飯をすることになった「大根飯」がステージに運ばれて、試食をすることに。
エスム:……え、大根飯、美味しい! 甘い!
ひろぱげ:ちょっと混ぜごはんみたいですね。でもこれ、絶対に当時の感じではないですよね(笑)。
エスム:なんなら家で作りたいくらい! いい時代になったわよねぇ。
成田:炊飯器も米も確実に良くなってますからね(笑)。そして銀山温泉ですが、重要アイテム「こけし」が手に入ります。
エスム:このこけしがまた謎で!
成田:現代パートでもおしんの部屋に飾られていて、お手伝いさんがバーンと倒して、「なんでこんな変なもの大切にしてるのかしらね」っていうひどいシーンがあるんですけども(笑)。その秘密を知ってるのは、孫の圭ちゃんだけなんですね。
エスム:だけどあのこけし、どうやって震災と戦災をくぐり抜けてきたのか……?
成田:おしんの宝物の謎ですね(笑)。そうそう、このときふじと布団で寝るシーンがあるんですけど、たぶん初めてお母さんと二人きりで寝たんでしょうね、おしんちゃん……。そして83年放送当時の『おしん』の人気はちょうどこの週辺り、5月に入ったくらいから火が点き始めたそうです。それでようやくおしんは酒田へ行くんですが、実は話が本決まりではなく、大奥様に帰るよう言われるんですが……なんとか頼み込んで、置いてもらうことになります。
エスム:おしん、割とそういうこと多いですよね。一回は門前払いになるんですけど、「お願いするっす」で食い下がる(笑)。
成田:東京でも同じ手で入り込んでますからね(笑)。酒田では加賀屋の大奥様に読み書きそろばん、お茶、お花と色々と仕込まれます。
エスム:ただ私は中川材木店のことがあったので、「いつ周りが敵になるんだろう?」と子供の頃はハラハラして見ていたけれど、酒田の人はみんな優しかった……。
成田:そうですね……そして奉公中に実家のばんちゃんが危篤になって、この時に米を一斗=15キロを持たされて実家に帰るんですが、子供には結構重いはず……。第36回でばんちゃんが死ぬんですが、おしんはそれを見て「小作にはなりたくない」と決意したところで、“小しんちゃん”の時代が終わります。
エスム:これでまだまだ序の口ですからね!
田中裕子“おしん”が登場!
成田:一般的なイメージの『おしん』って、この少女時代までなんですよね。
エスム:というのも、再放送も少女編しか放送されなかったり、アニメ化もここだけでしたよね。でもそれって理由があるんですよね?
成田:どうも田中裕子さんの所属していた文学座が、再放送NGを出していたみたいなんです。やっぱりあれだけ人気ドラマになってしまって、色が付きすぎると他の役ができなくなる、という心配があったみたいで。文学座といえば、俳優界のトップ・オブ・トップのところですから。それで2003年までは全話放送されなかったそうなんです。で、第37回から田中おしんになりまして、生涯の友のお加代様が登場、そして浩太と出会ってしまいます。浩太からおしんへの手紙を盗み読みしたお加代様は東京へ出奔、おしんは大奥様の決めた婚約者の桜木が嫌で、池に突き落としたことが原因で実家へ帰ることに……。
エスム:桜木さんは一回しか出てないのに、強烈な印象でしたよね!
成田:ツイッターでは「池ポチャ男」とか言われたり(笑)。
エスム:今はね、ツイッターで“おしんチャレンジャー”の方々と感想を共有しながら見られるのがいいですよね。
成田:そうですよね。あと「ネーミングの妙」が皆さんすごくて。いいとこ突いてくるなぁ、と思いながら楽しんでいます(笑)。それでおしんが実家に帰ったタイミングで、製糸工場からはる姉ちゃんが労咳で返されてくる。おしんは山形の料亭での奉公が決まるんですけど、はる姉ちゃんから「騙されるな」と忠告され、髪結になる思いを託されて「逃げろ」と言われる。ここではる姉ちゃんの憧れの人として出てきたのが、若き日の金田明夫さん。
エスム:『おしん』には意外な方が出てきますよね。
成田:ね。そしておしんは、早朝に東京へ逃げ出し、「髪結長谷川」で「お願いするっす!」で入り込み、働くことになります。
エスム:成田さん、「髪結長谷川」の場所、突き止めたのよね? この方は本当に「おしんナイト」のために、あらゆる手を使っていろんな情報を集めてきて……(笑)。
成田:本業がすっかり疎かになりました(笑)。現代パートのおしんと圭が「この辺りだったような気がするんだけどねぇ……」と言って歩いていたロケ地は、台東区浅草3-40近辺です。
会場:爆笑
成田:その近くに「デュポン」という美容室があって、そのお店が今も現存していて、それで判明しました(笑)。それからお師さんからの手紙に浅草區猿若町1-56という住所が書かれているんですが、これは今の浅草6丁目辺りになります。
エスム:聖地巡礼される方は、参考にしてください(笑)。
成田:そして第55回で18歳になったおしんは、浩太を探そうと日比谷公園へ行って、また捕まります(笑)。その後、おしんはカフェへの出髪を始めるんですが、なんとここでお加代様と偶然再会するんですよね!
エスム:この辺りの物語の運びが本当に素晴らしくて、竜三との出会いもあって……憎い演出なんですよね。そしてお加代様を見つけて駆け出すところで来週に続く……と。
成田:名場面の「銀座チェイス」ですね(笑)。そしておしんの説得でお加代様は酒田へ帰り、政男と結婚して加賀屋を継いで……でもまさかね、後々加賀屋が倒産するとは皆さん思っていなかったですよね。そんなおしん、酒田へ帰ったついでに実家に寄ったら、作造から仕送りを頼まれてしまいます。それで暗い気持ちのまま東京まで戻って、お加代様の部屋へ行くと、なんとそこに浩太が! と、ここでおしんの宝物のひとつ、万年筆が浩太からもたらされます。これは現代でも持っていますね。この後、おしんは浩太をかばって警察に捕まります。これで3回目(笑)。
エスム:そして政男さんが芸者と子供作って、自殺して、加賀屋があんなことになって……お加代様の子供はどうなるんでしょうねぇ。
成田:どうなるんでしょうねぇ……今日はネタバレありませんからね!(笑) そしてですね、ついに恐怖のお清登場です! おしんは佐賀から上京して来たお清から強硬に反対されるのですが、竜三と結婚をするわけですよね。
エスム:最初のときは「いい娘さん」って評価していたのに、まさか佐賀であんなことになるなんてねぇ……。
成田:本当に……でも結婚後、竜三がどんどんポンコツになっていくんですよね。それでしょうがないので、おしんが露天での生地叩き売りで起死回生を狙ったりする、という展開もあったり。
エスム:本当に竜三さんは調子に乗りすぎて、躁鬱っぽいところがありますよね(笑)。
成田:調子がいいときは、明るくて優しくて、いいんですけどね……やがて子供服の製造販売を始めることになり、これでまた竜三がいい気になっちゃう(笑)。人を雇って、店の規模も大きくなっていくんですが、ここで「橋田先生、恐ろしいなぁ」と思ったのが、子供服の製造販売のお店の開店を1922(大正11)年9月1日に設定したこと! 翌年の関東大震災がここで埋め込まれるわけです。そして東京編で忘れてならないのが、皆さんが大好きな源じい。
エスム:源じいがここに来て、まさかの大ブレイクですよ!
成田:こんなに皆さんが源じいのことをお好きになるとは思わなかったですよね(笑)。ここではなんといっても第82回。それまでおしんに冷たく当たっていた源じいが、佐賀から竜三の父親の大五郎がやって来て、「おしんのハイスペックに驚いた」という源じいからの手紙が届いていて、結婚を許す、よかったよかった……と思っていたら「作造危篤」の知らせが届くという……幸せだけでは終わらせない、橋田先生の恐ろしい脚本が炸裂する回です。やっぱりツンデレが良かったんですかね?
エスム:私は源じいがおしんの魅力に気づく回も好きですね。「お汁を温めてください」と書かれた手紙を読むところ、大好き!
成田:しかし関東大震災が発生して、せっかく建てた工場も店も何もかも燃えて、源じいまで亡くなってしまいます……すると竜三は何度も「佐賀へ帰ろう」と言い始めるわけですが、竜三が意気消沈しまくった第116回では、「佐賀」という単語が9回も出てきます。
エスム:そういえば工場を建てたりした借金って、どうなったのかね……。
成田:あの後には戦争もありましたからね、うやむやのままでしょうね……。ちなみに田倉商会があったのは日本橋なんですが、住所から推測すると、日本橋三越の裏、現在「日本橋三井タワー」が建っている辺りになります。そこから10分のところに土地を手に入れて工場を建てたということだったので、小伝馬町か人形町の辺りじゃないかな、と思われるんですが……そのまま行っていればね、竜三は不動産王になれたかもしれない。
エスム:手を広げすぎたよね……。
成田:そしてついに佐賀ですよ。もう多くは語りません(笑)。
会場:爆笑
舞台は佐賀から東京、山形、そして伊勢へ
成田:ここから40回近く“地獄の佐賀編”が続くんですが、そりゃ、嫌になるわ……。
エスム:何かをやってはお清に何か言われる、の繰り返しですからね。そして佐賀編には「流産の回」があるんですよ! あのね……こんなこと言ったら皆さんに怒られるかもしれないんですけど、おしんがひとり、小屋で陣痛に耐えながら「まだまだ、これくらいじゃ産まれないんだから」と言う台詞があって。この台詞をね、子供の頃にトイレを我慢して漏れそうなときに、お腹を擦りながらよく言ってたんです(笑)。
成田:ご両親、よく心配なさらなかったね……(笑)。
エスム:ちょっとね、おかしな子だったから……(笑)。
成田:(笑)。それで、おしんとしてはもうどうにもならない状況になるわけですけど、あれくらいまで我慢しないとダメなんですかね?
エスム:橋田先生はギリギリまで我慢させて、キレるっていう、気持ちの整理をつけさせますよね。
ひろぱげ:それにしても佐賀の家を出ると決めた時のおしんの達観したような、悟ってしまったような眼、凄いですよね。
エスム:ね……そしてやっぱり流産した回の、泥水を口から流すシーンは素晴らしい!
成田:ツイッターでは「おしんのカフェオレ」と言われてましたね……。
エスム:(笑)。その後、佐賀脱出の際は田倉家の長男の嫁・恒子さんが活躍して! 「俺たちの恒子」というハッシュタグが生まれたぐらい、ホントに見事な女スパイっぷりですよ。ただねぇ……おしんから恒子さんへの感謝のシーンをどこかに入れてほしかったなぁ、と今回見返して思いましたね。
成田:そんな恒子の暗躍もあって、実子の雄を連れ出すことに成功し、ようやく佐賀から脱出して東京へ行くんですが、ここでも上手くいかずに山形へ。でも実家の庄治ととらにやられて、そこへおりきから加賀屋の大奥様が危篤だと連絡があって酒田へ行くことになり、お加代様の提案で「めし加賀屋」を始めるわけです。
エスム:私、飯屋の件がこれまでの話で一番好きかも! 私がお小遣いを貯めて買っていたシナリオ本って、先まで書かれた内容が放送前に出ていたんですよ。それを読んで「今度はこんなシーンがあるんだ!」って思っていて。当時はネタバレとか、結構緩かったのかしらね?(笑) それで、おしんが啖呵を切るシーンがあって、子供心にワクワクして待っていたの! やっぱり田中さんはウィスパーボイスと、啖呵を切るシーンでのドスの効いたときのギャップが凄いよねぇ。
成田:あれもね、佐賀へ行く前の東京で健さんに仁義の切り方を仕込まれているシーンがあって。それがまさかここに生きてくるのか、という伏線回収の見事さ! 話の先が見えていないと書けない……橋田先生の脚本の凄さですね。
ひろぱげ:啖呵のシーンは夜中の再放送で見て、手を叩いて笑いました。近所の方、すみませんでした(笑)。
成田:で、結局「酒を出す飯屋は危ない」という浩太のはからいで、おしんは26歳で伊勢へ行って魚行商を始めることになります。そして台風が来て、佐賀の「男のロマン」であった干拓地がめちゃくちゃになって、絶望した竜三が伊勢へやって来たのが27歳。そこから魚屋を出して、雄が小学校に入り、妊娠して仁を出産、それを手伝いに来ていたふじがブッ倒れて、山形まで連れ帰ったのが29歳。
エスム:怒涛の流転人生よねぇ。
成田:そこへおりきから「加賀屋が危ない」と連絡が……おりきの情報網、モサド並の凄さですよね(笑)。そうこうしていると、お加代様に希望が産まれた、と連絡があって。
エスム:すでに第1回で希望は出てきているんだけど、その後ずっとここまでその人が誰なのかを言わないまま引っ張る。凄い脚本!
成田:「え、希望!?」とここ数回の放送で、ツイッターもザワザワしていましたもんね(笑)。でも今日放送された第185回まででは、初子はまだ何者なのかわからないんですよねぇ。橋田先生、引っ張ります!
後半PART1へ続く……