いびつな四角形が猛烈に逆噴射しながら旋回した結果、美しい円を描く。PANICSMILEの通算9作目となるオリジナル・アルバム『REAL LIFE』を聴いてそんな画が浮かんだ。メンバー4人が全く噛み合っていない拍子で演奏していたのがいつのまにか至上のアンサンブルとして結実し、とてつもないグルーヴを生み出す。調子っぱずれでコミカルなサウンドだが歌は物憂げ。あるいは物憂げな歌だが曲調はやけっぱちに明るい。ひねくれているくせにポップでもある。あるいはポップであることに照れがあるからひねくれてしまうのか。その本質を掴み取ろうとするとまるでアッカンベーでもするかのようにスルリと掌から逃げていく。だからと言って難解なことをやろうとしているわけでは決してない。PANICSMILEの音楽は常に想像の斜め上を行くもので、まるで一筋縄ではいかない。でもだからこそ強烈にユニークで鮮度が高く、なんじゃこりゃ!? の連続で飽きが来ないのだ。
ここ10年ほどのPANICSMILEは、唯一のオリジナル・メンバーである吉田肇(g, vo)が度重なるメンバー・チェンジに悩まされつつも、苦境を好機と捉えて着実に進化してきた印象がある。三歩進んで二歩さがっても結果的に確かな一歩を踏み締め、しっかりと前進している。本作でもそのたゆまぬ進化の跡が窺え、元eastern youthの二宮友和(b)が加入するというまさかの展開によって鋭利なリズムがさらに研ぎ澄まされ、バンドの一体感が一段と強まるという想定外の好作用を及ぼしている。ひょうたんから出てくる駒を面白がれるPANICSMILEの未来は明るい。バンドの最新型について吉田と二宮に聞いた。(interview:椎名宗之/photo:keiko hirakawa)
二宮が及ぼしたバンド内の化学変化
──前作『INFORMED CONSENT』(2014年発表)以来のインタビューなので、この6年のあいだに起こったことをまず聞かせてください。2015年に20年以上連れ添ったやっさんこと保田憲一さん(b→g)が、続いてDJミステイクさん(b)が脱退することになり、それまでサポートだった中西伸暢さん(g)とeastern youth脱退後の二宮さん(b)が2017年に加入して現編成となりました。その結果、松石ゲルさん(ds)と二宮さんというバンド史上最強のリズム隊が生まれたことになりましたが、一連の大幅なメンバー・チェンジには吉田さんも思うところが多々あったと思います。内実はどうだったのでしょうか。
吉田:まず保田くんはですね、バンドと生活のバランスを取るのが難しくなっていたみたいで。曲は今と同じく、僕がギターとクリックを入れた音源ファイルを送ってそれに肉付けしていく、という方法だったのですが、だんだんレスポンスが悪くなり、どうしたの? と電話で訊いて、その事情が分かったんです。前作のセッション過程でもあった諸々のことが、彼の告白で合点がいってですね。ああ、わりと前から無理してたんだな…と。
──引き留めはしなかったんですか。
吉田:いえ、そういうことならペースダウンして保田くんのペースに合わせるよ? という提案もしましたが、彼から「迷惑をかけるから」と。それでIRIKOのギターの中西くんはやっさんからの脱退要望の後、相談しまして、即答でOKをいただきまして、ゲルさん、DJミステイク、中西くん、吉田で1年くらいやりました。その後、DJミステイクからは家庭の事情を聞きまして、それも大事なことだったのでそちらを優先してほしい、という判断がありました。
──二宮さんはバンド加入の打診を受けて、率直なところどう感じたのですか。
二宮:加入のいきさつは、Crypt Cityが福岡でライブをやった時の打ち上げで小松(正宏)くんと(中尾)憲太郎に吉田くんが現状を話したらしく、「二宮くんなら今暇なんじゃね?」となって話が来た、といった感じです。その後吉田くんと話しまして、実際暇だったし、豊田で合宿したり面白そうだなと思って入ることにしました。
──加入から約3年が経過した今はバンドに溶け込めていますか。
二宮:最初は曲の中で拍の取り方とかどう演奏したら良いのか分からず、電話して聞いたりしましたが、今は中に入って自由にやれるようになってきました。
──二宮さんの加入によって生まれたバンド内の化学変化とは、たとえばどんなことでしょう?
吉田:まず独特のファンクネス、うねりとかグルーヴですね。そして和音の選び方。実際、ファイル交換で曲を作っていく段階でかなりベースラインからのボーカルライン発生率が上がっています。ニノさんが入ったことはむちゃくちゃデカイです。
二宮:嬉しいですね。あざす!
吉田:こちらこそ、本当に嬉しいです!
──逆に二宮さんがバンドにもたらしたのはどういうものだと自覚されていますか。
二宮:新しいものをもたらそうと考えたことはないです。送られてくる音源にどういうアプローチをするかということで精一杯で。ただ、それなりのものを身に付けてきた自負はあるので、それらをフルに使って奮闘しております。
──現編成になった直後の東京でのライブを拝見したのですが、みなさんテクニシャンなので音数が多い上に音圧も凄くて、力業で薙ぎ倒すような、PANICSMILEらしくないどこかマッチョな印象を受けたんです。それがだいぶ整理されて引き算の発想になったのか、今回発表される『REAL LIFE』では各パートの音が過不足なく混ざり合って、相変わらず素っ頓狂でヘンテコだけどユニーク極まりない見事なアンサンブルとして結実している印象を受けました。当初はやはりバンドとしてまとまるまで試行錯誤の連続だったのでしょうか。
吉田:はい、ホントに難解なファイルを送ってますので…。ちなみに言うと、その椎名さんの感想はすぐにバンド内に持ち帰らせていただきまして(笑)。確か新宿Motionでしたよね、otoriとか出ていたcontiの企画でしたね。
二宮:その意見を聞いてちょっと反省したんですよ。実際に慣れてきた頃だったので力業になってきていた頃でして、自分が魅力を感じていたPANICSMILEの軽さというか、ちょっとドライな感じをなくしてしまっているなと。
予想外に展開する音源ファイルのやり取り
──すみません、なんだかエラそうなことを言ってしまって(笑)。本作発表までのあいだに吉田さんは福岡UTEROでブッキング業を始めて、4年が経ちました。あらためて音楽を生業とすることになって、歌詞のテーマや楽曲の方向性に変化は表れましたか。たとえば「Tonarinomachino Sokkuri Show」の歌詞は、UTEROに出演する没個性のアマチュアバンドに対する当て擦りのように思える部分もありましたが(笑)。
吉田:あああああ(笑)。これ言っていいのかな…あの歌詞の発想の源は、UTEROではなくて。ソフトに言うと、多くの人たち、ですね。それは演者もリスナーも込みで。
──なるほど。それと「Best Hit Kiyokawa」=『ベストヒット★清川』はUTEROで定期的に開催されているトークライブですよね。出演者が想い出の曲をチョイスして、その曲に秘めたエピソードを披露するという。そのイベントと何らかの関連性、あるいはインスパイアされたものが「Best Hit Kiyokawa」にはあるのでしょうか。
吉田:「Best Hit Kiyokawa」に関しては、福岡でPANICSMILE以外のバンドで日々ライブ活動をしていて、それを取り巻く全般でしょうか。日々現場にて世代を問わずいろいろな人と話しますが、急ぐがあまり些細な会話さえおざなりになって、若い子たちはデビューを勝ち取る話しかしなくなって、こりゃイカン、自分はそっちのペースじゃない! みたいな心中の吐露、というか。世相を反映していると思うのですが、音楽をやり始める動機がお金や名声でしかない状況はあまりに悲しいなと。あと夕方に起きて出勤してそういう世界にいて、帰宅する深夜2時頃には街から誰もいなくなって独りになって、ふと自分のことはどこ行った? みたいな。
──吉田さんと中西さんが福岡、松石さんが愛知、二宮さんが東京と、メンバーの所在地は各地にまたがっていますが、何の支障もなく音源ファイルのやり取りができているんですか。
吉田:そうですね、最初のクリックとギター2本のファイルを送っている福岡チームは本当に好き勝手にやってますので…。
二宮:そこからだいたいはゲルさんがまずドラムを乗っけて、僕のところに送られてくるというパターンです。
──予想外の返しもあるんですよね?
吉田:はい、そのお二人の返しは完全に予想外なんです。
二宮:ギター2本がヘンな絡み方の上にドラムがポリリズムだったりしてどうして良いのかと、まず戸惑いからベースライン作りに向き合います。
吉田:や、ホントにニノさんのまとめ方、凄いんです! 最後にバチっとまとめちゃうんです。
二宮:いやいや、実は、困った時はけっこうこれまでのPANICSMILEの音源を聴いてベースの置き所を確認したりしました。キャッチーさを確保しないと成り立たないですね。やっさん、ミステイクさんに感謝です。
──吉田さんは第4期のメンバーだった石橋英子さんに「今までは吉田さんが作りたい曲を私やジェイソン(・シャルトン)が違う感じにしちゃったかもだけど、これからは自分でドラムやベースのフレーズを考えたり、楽曲を完全にプロデュースする方向にしたらどう?」と言われたそうですが、今は吉田さんが〈楽曲を完全にプロデュース〉できている状態なんですか。
吉田:いえいえ、先ほど言った通りですね、返ってきたドラムとベースの入った音源が想定を遥かに超えておりまして、その二人の演奏を受けてからのボーカルライン、歌詞作りなんです。
二宮:そういう吉田くんの完全プロデュース曲があっても面白いと思いますけど。トッド・ラングレンみたいな。いろいろやり方ができるし、あってもいいと思います。
吉田:そうですね、トッド先生いいですね。でもやはりPANICSMILEって僕がまずパニクってなんぼ、というか…。
二宮:はは、吉田くんらしいですね。でもやっぱり全然どういう曲になるのか分からないままベースファイルを送ってもまとめられて返ってくるのはすごいと思います。
吉田:トッド・ラングレンは真逆の例ですけど、つまりわりと前作はそういう感じだったんですね。ある程度のイニシアチヴが自分にあった、というか。
──それが本作では変わったと。
吉田:最終的に僕がちゃんとまとめられていたらいいんですが、毎曲各自のトライが行なわれていて…そうですね、激的に変わりました。その最終のボーカルダビングは正直楽しくてしょうがないです。
二宮:加入して最初に送られてきた新曲がインストだったんですけど、正直、これPANICSMILEでやるの? と思いました。
吉田:ええっ!(笑)
──本作に収録されたインストですか?
二宮:そうです。その後に送られてきたのも今までにないプログレッシヴなものが多くて、着地点が見えなかったんですよ。でも仕上がるとそんなに難しい音楽にはなっていない。そこがやっぱりマジックなんだなと思いました。
吉田:インストに関しては、僕が東京在住時にニノさんと飲みに行ったりカラオケに行ったりして、ジャズロックやプログレが好きなことを知っていて、そしてひょうたんでの演奏も凄く好きだったので送ってみた、というのがあります。
全員の力を合わせれば無敵だ!
──本作は従来の作品以上にデッドで渇いた音が際立ち、目の前でバンドの爆音をダイレクトに浴びているような生々しさがあります。これはバンドのセルフプロデュースになったことが多分に関係していると思うのですが、『GRASSHOPPERS SUN』(2002年発表)以降、前作『INFORMED CONSENT』まで5作続けてプロデュースを務めたAxSxEさんの手を離れてセルフプロデュースすることになったのはどんな理由からですか。
吉田:各々が遠隔地に在住していて会うのがライブでの遠征しかない、という状況で、ならばそのタイミングで各地で録ろう! というのが大きな理由です。もちろん、最初に多くの予算ありきで数日東京にいられるならAxSxEくんにお願いしていたと思います。ただ、今回はメンバーも替わり、心機一転、全部自分たちでやってみることにトライしたい、というのもあり、中西くんはUTEROのPAエンジニアだし、ゲルさんはレコーディングエンジニアとしての生業があり、ニノさんもソフトを持っていてレコーディング経験がありますし、全員の力を合わせれば無敵だ! 的な発想ですね。
──うねりと躍動感に溢れた二宮さんのベースと安定したリズムを徹底してキープする松石さんのドラムがPANICSMILE史上最強のリズムセクションなのは間違いないし、そのコンビネーションが生み出す音に重きを置くのがある種のコンセプトだったと言えますか。
吉田:はい、そこが大きいです。ギターが中西くんに替わって1年、ベースがニノさんに替わって1年、過去の曲を二人にライブでやってもらっていく中でバンバン出てきたんです、アイディアが。結果的に時間が6年かかって良かったなあと。
二宮:リズム隊は確かにユニークで耳が向くとは思いますが、僕もゲルさんもギターのフレーズを意識して、時には引きずられて演奏しているところがあります。メインリフじゃない中西くんのへんてこなギターにくっついていったり。そういうのが全体的なゆがみやうねりを作ることに成功したのだと思います。
──昨年の8月27日に名古屋のRippleでライブをやり、その模様を録音して部分的な素材として楽曲に組み込む手法が非常に面白いですね。そうしたコラージュ的手法はどなたの発想で、どんな意図があったのでしょうか。
吉田:それは僕なんですが、Rippleは中西くんが加入した時も、ニノさんが加入した時もまず最初にライブを敢行した場所でありまして、初心を確認しつつ、あの場所特有の高揚感を入れ込みたい、というのがありました。一か八かだったんですが、お客さんのノリが凄くてですね、本当にあの日にいた皆様には感謝しています。
──冒頭の「クラゲ食ベマセンカ?」という声はお客さんですか?
吉田:そうです。多分、NicFitのチャーリーです。あの日はOneofTwoで出演していて。
──二宮さんが断片を持ち寄って完成に至った曲もあるんですか。
二宮:曲の発端のアイディアということであれば、今回はないですね。全曲、福岡発生です。
吉田:僕はライブで会うたびに「ニノさん発のフレーズをください」と言ってますけどね。
二宮:多分、自分からだとそんなに面白いフレーズを出せないなという後出しじゃんけん的なところもあるかも(笑)。
吉田:(笑)
──どこか厭世的でもありコミカルでもある吉田さん独自の歌詞が本作でも所々で目を引きますが、とりわけユニークなのは韻の踏み方が耳に残る「Hands Free」で。「大声でハンズフリー/押すんじゃないよのフリ」というダチョウ倶楽部のギャグみたいなリリックをラップのように唄うのが面白い(笑)。歌詞は今回、難産ではなかったですか。
吉田:それほど難産ではなかったです。その前に4人の音データが揃ってからのボーカルの節回しが難産でした。なんせ全然予想外の演奏が返ってくるので。ここが平歌でここがフックかも、と思っていても、全然違うところに着地するという。ちなみに「Hands Free」に関しては、あれは博多駅前の道路に空いた大きな穴の話です。
二宮:ああ、あの事故のことでしたか!
──二宮さんは吉田さんの歌詞をどう見ていますか。
二宮:ずっと聴いてるんですけど、実は今回初めて悲哀のようなものを感じました。ハードボイルドな感じとユーモア、アイロニーは変わらずなんですけど、繊細な人間性に基づいているのだと、個人的に近づいたから分かったというだけではないと思います。
吉田:ありがとうございます。福岡に帰ってきていろいろありました…。
今まで以上に自分自身のことが歌になった
──吉田さんは好きな8ビートの曲としてルースターズの「Sitting On The Fence」を挙げることが多いですが、本作には同じタイトルの楽曲が収録されています。“Sitting On The Fence”=どっちつかずではっきりしない、という意味で、吉田さんの性格を表しているようにも思えます。前作にも「こっちに選ぶ権利がない/こっちに選ぶ権利が全然ない」と唄う一方で「こっちに選ぶ権利はある/こっちに権利も全然ある」と真逆のことを唄う曲(「DEVIL'S MONEY FLOW」)がありましたし。「Sitting On The Fence」は吉田さんがご自身の人となりと向き合った曲と言えるでしょうか。
吉田:鋭いご指摘、ありがとうございます。「Sitting On The Fence」は今でもルースターズの大好きな曲です。「ミルク飲みながら」考え始め、40年くらい経ちました。それは言い過ぎで30年くらいでしょうか。それはさておき、今作は今までと違って、だいぶ自分自身のことが歌になっているかもしれません。それはアルバム・タイトルの案をニノさんに伝えた時に、ニノさんからも指摘されました。悲哀、ですね。僕は今年50歳ですけど、あんまり20代の時と変わらないなあ…というのが地元に帰ってからの大きな確認でありました。
──確かに「Personal Experience」にも「I Wanna Be Strong」にも悲哀を感じますね。
吉田:その2つの歌も、何でしょう、確認作業ですね。
──確認作業?
吉田:確認、というか再認識、でしょうか。最後の曲もなんとなく自分を取り巻く環境の感想を書いたんですが、これって自分のことか…みたいに唄ってみて気づきましたし。日々のライブ活動にまつわる人間関係から、なんなら日本という国に対しての再認識でしょうか。
二宮:でも自分のことも、UTEROから全体の音楽シーンまで俯瞰している感じもやっぱり変わってないと思いますよ。
──ラストを飾る「Living in Wonderland」は華やかなホーン隊が楽曲に彩りを与えるPANICSMILEの新機軸ですね。アルトフルートの池田若菜さん、ファゴットの内藤彩さん、ソプラノ・サクソフォーンの安藤裕子さん、トランペットの桑原渉さんがゲスト参加していますが、このブラス・セクションは二宮さんが歌舞伎町のスタジオミュージックシティでレコーディングしたそうですね。ホーン・アレンジを施すのは二宮さんのアイディアだったんですか。
二宮:いえ、あれは吉田くんのアイディアです。ホーンのずっとループしているメインフレーズは、最初はギターで弾いていたのですが、これをホーンに置き換えたいというところから始まりました。お願いしたいホーン奏者がみんな東京住まいなので、東京にいる僕が録音を担当しました。
──煌びやかなホーンの音とは対照的に「悲しくない/涙も出ない」というまた随分と沈痛な歌詞が何度も繰り返されますが(笑)、「Living in Wonderland」には吉田さんなりの哲学というか人生観が反映されているようにも思えます。「積み上げる/遠ざける/ぶち壊す/気まぐれで積み上げる」という歌詞は吉田さんの来し方そのもので、それがすなわちアルバム・タイトルである『REAL LIFE』=現実の生活なのかなと思ったのですが。そう考えると本作はかなりヘヴィな作品とも言えますね。表向きのサウンドは軽やかでしなやかだけど、実の内面はズッシリと重い。
吉田:ありがとうございます。そこですね、ニノさんがアルバム・タイトルの確認で言っていた感想もですが、そうだと思います。それでズッシリと重たい仕上がりにしたくなくて、自分のギターはオミットしてホーンにしてみたい、と思ったんです。
──混沌としていながら笑顔でいるというバンド名と同様の効果ですよね。
吉田:不協和な音に対してシリアスな歌じゃなく、明るい音に対してダークな詩だったり。ホントにこじれまくりの20代の頃から変わってないなあ、と。
早く次作を作りたくて仕方ない
──本作を吉田さん主宰の〈HEADACHE SOUNDS〉からではなく〈LIKE A FOOL RECORDS〉からリリースするのは何か意図があってのことですか。
二宮:これは、どういう形でリリースするかと吉田くんから相談されて、その時に僕が〈LIKE A FOOL RECORDS〉が気になっていたので推しました。本来のインディペンデントの持つ自由さや朗らかさや熱さを感じる規範のようなレーベルだと思っているので。
吉田:ニノさんのアイディアは本当にすべてクリアに見える感じで、cinema staffの辻(友貴)くんの人柄もあり、全くの異論なしでありました。
──ところで、ブッチャーズの吉村秀樹さんが吉田さんに生前語ったという「どんな作品を作ってもいいし、どれだけ変わってもいいけど、お前のひとつだけの音を鳴らせ!」という命題は、今どれくらいやれているとご自身では感じていますか。
吉田:ありましたね、吉村さんからの凄い宿題(笑)。吉村さんにはそれこそ1stから聴いてもらっていまして、作品ごとに形態が変わり、リード・ボーカルも替わり、いろんなPANICSMILEを観てもらったんですが……難しいですね。ただ、ギターや歌は、これが僕の音なんですよ! と言いたいです。でもそれを成しているのは、メンバーのみんながいてくれてこそです。
──〈ひとつだけの音〉という言葉を、二宮さんならどう解釈しますか。
二宮:分からないですね。吉村さんの言うことは半分くらい分からなかったし(笑)。でも、自分で嘘をついてない音ということなのかな。
吉田:ホント、そこですよね。僕も吉村さんの言うことは半分くらい分からなかったですが、全部真に受けましたから!(笑)
──本作を作り上げたことで見えてきたバンドののりしろがあるとすれば、どんなことでしょうか。今後突き詰めていきたいことというか。
吉田:そうですね、かなりいろいろ見えてきました。近所に住んでないがゆえの面白さも大きいですし、説明なしで各々の自由な解釈がグルーヴを生みますし、今回曲を作っていく中で収録から漏れたアイディアも多々あるので、もう次作を作りたくて仕方ないです。
二宮:ゲストにホーンが参加してくれたことも刺激になりましたね。4人だけでない音の広がり方がいきなり見えた。
吉田:刺激になったし、ホーンの方々には感謝しかないです。ホーンを録った後に歌を何度か録り直しましたし。
──ホーンの音にナビされるように。
吉田:はい。最後の輪唱部分は中西くんのアイディアなんですが、あのアレンジもホーンの影響かと。
二宮:そう、最後の歌が重なるところで完全なものになりました。
吉田:あと、ニノさんの影響がでかいと思うんですが、ドラマーのゲルさんがとにかく凄いドラマーだということが歴然となりましたね。彼の変態要素は無限です。ゲルさんの変態はデタラメではなく、いちいち譜面にしてますから。
──いとこの凄さと変態要素をあらためて知ったと(笑)。
二宮:ド変態ですよね、二人とも。
吉田:はい、かなり。そして中西くんのIRIKOでの活動の中で生まれたポップセンスも素晴らしい。
二宮:中西くんのギターは凄くヘンなんですが、なんか口ずさんでしまうんですよ。これが我々の武器だと思います。
──では最後に。鬼が笑う話ですが、『E.F.Y.L.』(1998年発表)をファーストとすると本作で9作目、結成30周年を迎える2年後の2022年には10作目を発表できそうですか。また、漠然と次作の構想はありますか。
吉田:もうすでにあります。なんなら2021年に出したいですね。
二宮:僕はまだやってませんが、原曲のアイディアがすでに数曲あるので、そんなに時間をかけずに次作を出せると思います。
吉田:そもそも今作も最初は20曲入りで! とか言ってまして(笑)。
二宮:2枚組になるのはちょっと、と制しました(笑)。
──メンバー・チェンジをものともせずにこれだけの作品を生み出すのだから、やはりPANICSMILEの底力たるや恐るべしですね。
吉田:いえいえ、本当にいつもピンチの時にスーパーマンが現れて…僕は生かしてもらってるなあと実感しているんです、本当に。もうメンバー・チェンジはイヤです!(笑)