ストーリー、キャストから劇伴まで、『おしん』マニアが魅力と面白さを語り尽くすトークイベント「おしんナイト 2019」が、2019年11月1日(金)に開催された。当日は立ち見が出るほどの盛況となり、「おしんナイト2020」の開催も決定(2020年6月28日(土)に延期して開催予定)しました。しかしチケットは即完売! 買えなかった方、申し訳ねぇっす……
前回参加出来なかった方、次回チケットが買えなかった方、遠方で参加が難しい方……そんなすべての『おしん』ファンのため、開催当日までに再放送されていた第185回までの内容でトークを展開した「おしんナイト2019」のレポートを特別にお届けします!
『おしん』ファン歴三世代!
エスムラルダ(以下エスム):本日出演させていただく、おしんファン40年のエスムラルダと申します、よろしくお願いします。
成田:ライターの成田です。僕は2003年の再放送からのファンなので、ファン歴は16年くらいです。本日はよろしくお願いします。
ひろぱげ:おしんファン歴は今年の再放送からのひろぱげです。よろしくお願いします。
エスム:ということで、ファン歴三世代でお届けいたします(笑)。まずは『おしん』への思いを私からお話ししますね。私は小学校4年生のときに、大河ドラマ『おんな太閤記』を見てどハマりして、「橋田寿賀子先生ってすごい人なんだな」と思ったんですよ。
成田:『おんな太閤記』は1981年放送ですね。
エスム:その2年後に『おしん』が放送されて「橋田先生の作品ならぜひ見なければ!」と小学生ながらに思ったんです。放送開始当初はちょうど春休みだったので家で見られたんですけど、学校が始まると見られなくなっちゃって。当時、各クラスに教育番組を見るためのテレビがあって、「どうしても『おしん』が見たいんです!」と先生に交渉をして、許可してもらったんですよ(笑)。それで先生も仕方なく付き合って見ている、という体で一緒に夢中になって見ていました。おしんの流産シーンでは二人して号泣しちゃって……
会場:爆笑
エスム:そのうち好きが高じて、当時700円のお小遣いを毎月貯めて、1400円の「おしんシナリオ集」を買うようになったんですよ。だから周りからは浮いていましたね。
成田:私は2018年に橋田先生に取材をしたんですけど、そのときにエスムさんからどうしてもこのことを伝えて欲しいと頼まれて(笑)。小学生でハマった人がいるとお伝えしたら「それはすまないことをしましたねぇ」とおっしゃってました(笑)。
エスム:でもそれが今、こんな大盛況のイベントになっているんですから、人生何が起こるかわからないわよね!
成田:僕は見始めたのが2003年からだったのですが、「ここで仕込んだエピソードがここにくるか!」という構築されたドラマの美しさといった、大人の見方をしていたらすっかりハマってしまったんですよ。
エスム:ひろぱげさんも大人になってからのファンですよね?
ひろぱげ:子供の頃はあんまり関心がなくて、親も嫁姑問題の渦中にいたから、ドラマまでそんな体験したくないって言って誰も見ていなかったんですよ。でも今年、まとめて再放送があったときにちょっと見てみようかなって思ったらハマってしまって。この気持ちを誰かと共有したい、という思いが止まらないです!
エスム:今日はそういう方多いでしょうからね、みんなが抱えている『おしん』熱を語らっていきましょう。特別メニューの大根飯もありますからね。
成田:それがね……大根飯、不味くなる予定がすごく美味しく出来たらしいんですよ(笑)。
エスム:今は、お米も大根もおいしくなっちゃったからね……では乾杯しましょう!
3人:それではみなさん……お願ぇするっす!
少女時代のおしんは途中から登場する
成田:第185回までを見返して作った「おしん年表」と「人物相関図」を皆様にお配りしているんですが、ネタバレしないよう頑張りました。
エスム:この相関図と年表、本当によく出来てるんだから! 細かすぎて老眼の方は大変ですよ! 『おしん』はその時の社会情勢などを巧みに取り込んでいるんですよね。
成田:ドラマを作るときに、NHKの方と橋田先生がその年に社会に何があったのかを合宿しながら考えたそうなんです。だから、歴史上の出来事がドラマの物語を動かしているんですね。
エスム:たとえばおしんが転職するにしても、大震災や戦争とかで転職を余儀なくされる理由があるのよね。年表を見るとわかるんですけど、おしんが2歳のときにライト兄弟がはじめて飛行機を発明して、戦争で飛行機が使われるようになるまではほんの数十年なんですね。
成田:そうなんですよ。そして『おしん』って、意外と江戸からすぐの時代なんですよね。おしんの生まれが明治34年で……。
エスム:あえて昭和天皇と同じ生まれ年にされたんですよね。
成田:そうです。それで第3回までは、80代のおしんによる現代パートなんです。第4回になってやっと1907(明治40)年のお話になるんですが、「おしんが奉公に出るドラマ」と思って初めて『おしん』を見た人は、最初面食らったかもしれないですね。「このお婆ちゃん、誰!?」みたいな(笑)。
エスム:それでも小学6年生の私は夢中になっちゃった(笑)。ドラマの構成力がすごいんですよ。
成田:実はおしんって主人公なのに、第1回は山形に向かう電車の中のシーンで、たったの16秒しか出ていないんです。そして少女時代のおしんが出てくるのは第4回、それも始まってから10分過ぎでやっと登場するんです。
エスム:登場したら速攻で奉公に出されて……奉公先の中川材木店といえば、つねさんですが、つねさんが本当はいい人なのか問題っていうのは私の中でずっと燻っているんですよ。ただの意地悪なのか、おしんのためを思って教育していたのか。
成田:「おしんのためにならねえっす!」って(笑)。
会場:爆笑
エスム:それって微妙なさじ加減じゃないですか。
成田:ただ橋田先生の脚本は、登場人物それぞれに“正義”が必ずあって、その人が正しいと思っていることを言っているわけで、見ている人の視点で変わってくるものですから……でも、つねはねぇ。
エスム:ねぇ。やっぱり意地悪ですよね! 女優さんが素晴らしくて、憎々しくつねを演じてくださったから、余計に。
成田:丸山裕子さんですね。丸山さんは声優さんもやってらっしゃって。
エスム:『となりのトトロ』のカンタのお母ちゃんよね。「カンター!」って。それで、おしんが筏に乗って奉公先に流れていく有名な場面ですけど、橋田先生が戦争中に山形に疎開した親戚が住んでいた材木店の方から聞いた、「奉公先からはそこに出向く運賃ももらっていたけれど、そのお金も借金返済に充ててしまったので、仕方なく材木を運ぶ筏に乗せてもらった」という実際の出来事からなんですよね。
成田:筏は地元の有志の方のご協力で成立したそうです。
エスム:あと、中川材木店といえば軍次と定次ですね。
成田:定次はたぶん、おしんちゃんのことが好きだったんじゃないかなと僕は思います。ロリコンになっちゃいますかね……。
エスム:えっと、定次さんの年齢設定的には……?
成田:15、6歳じゃないかなと思うんですけどね……あ、定次を演じた光石研さんと、軍次を演じた平泉成(※当時は平泉征)さんは『シン・ゴジラ』で都知事と首相の役をやられて、とても出世なされて(笑)。
エスム:材木店からの大出世ね(笑)。
会場:爆笑
エスム:あとやっぱり、俊作兄ちゃんの亡くなるシーンは泣きますよね。倒れる兄ちゃんのバックで流れる曲にもう泣かされちゃって!
成田:あれは『庭の千草』という曲で、スコットランドの民謡です。『蛍の光』と同じような成り立ちの曲ですね。実は橋田先生は俊作兄ちゃんの存在を初めから考えていたようで、第17回で「お前はこれから先何十年と生きていくんだ」っていう2分15秒の長台詞があるんですけど、そこに「戦争はしてはいけない」というメッセージを込めようと思っていたそうなんです。
エスム:おしんが「ああおとうとよ君を泣く」って諳(そら)んじるシーンがあるじゃないですか。それを見てうちの親は「最近の子役は大したものだなぁ」ってしみじみ言っていたことをいまだに覚えていますね。琴線に触れたんでしょうね。
成田:こういう子だといいなぁ、って(笑)。
エスム:だって私はお小遣いを貯めて『おしん』のシナリオ集を買うような子でしたから。
成田:それ、親としてはちょっと心配しますよね(笑)。
おしんの「しん」は「辛抱」ではない
成田:おしんは米一俵で奉公先に出されたんですけど、米一俵って60kgなんですよね。それで1年間、ボロ雑巾のようにおつねに使われるんですよ。
エスム:いやぁ……そう思うと、ね。
成田:そしておしんは尋常小学校の松田先生に出会って、「やる気があるから学校に来なさい」と言われるんですけど、いじめられて頓挫して、つねからはあらぬ疑いをかけられ、半裸にもされ、ひどい仕打ちを受け……。
エスム:ひろぱげさんは、あの冬の川のシーンのナレーションがお好きなんですよね。
成田:「おしんの胸の中で、突然何かが大きな音を立ててはじけていた……やーめた!」(※奈良岡朋子さんのナレーションの真似)
会場:爆笑
ひろぱげ:あれは疑いをかけられた後にキレちゃうんじゃなくて、ちょっと後に「やってられない!」となるのがリアルだな、と思って。
エスム:人間ってその場で「やめます!」とはならないんですよね。
ひろぱげ:もうひとつは、おしんの「しん」っていうのは辛抱の「しん」じゃないんだ、って。諦めちゃうこともあるんだってびっくりしました。
エスム:橋田先生も「辛抱を描いたドラマではない」とおっしゃっているんですよね。
ひろぱげ:事前イメージで刷り込まれちゃってますよね。
エスム:政治家の方々も『おしん』をうまく利用なさって……。
成田:「おしん国会」とか言われていましたもんね。
エスム:でも実は、おしんってわりとわがままなところがあるって大人になってから気づきました。あら、意外とガツガツしているな、って。
成田:結構、マネーの人ですよね、貧乏は嫌だから(笑)。
エスム:年上の女性には可愛いがられるんだけど、わりと同世代の女性に嫌われるタイプなのかなって。女性の友達がお加代様以外にいない……。
成田:ただ加代は友達というより主従関係ですしね。あとは出髪をしていた「カフェアテネ」の女給さんたちだって金銭関係ですからねぇ。あとは佐賀編の佐和くらいですか。ただあれは裏切られて……。
エスム:ね。おしんはわりと友達がいないですよね(笑)。
前半PART2へ続く……