ついにこの日を迎えてしまった。指先ノハク最後の日。
彼女たちとの出会いはかれこれ5、6年前だったろうか。知り合い伝手で出演したのだが、かわいい子たちがポップとは真逆な変態的で摩訶不思議な音楽をしていて最初は正直掴めなかった。
でもかわいいので会いたいっていう不純な気持ちで何度か誘って出演してもらった。
メンバー皆大酒飲みということが判明したが、ゆみこ(Dr)の怪我なのか、不純な動機がバレたのか、暫く疎遠に。
2枚目のミニ・アルバム『フルレンジ』を出そうとする頃、またご縁あって頼ってくれて、連続企画や昼の部ワンマンを敢行。この辺りからライブが格段に良くなっと同時に、たくさんお酒を酌み交わし、他愛もないことをたくさん話して、とても身近な存在のバンドになった。
自分の知る女子バンドの中で、最も大酒飲みだと思っている。
こうした流れの中、女子ボーカルオムニバスサンプラーをつくる機会ができ、早速声をかけた。そして弊店のレーベル「SHELTER UNITED」で3枚目となるミニ・アルバム『TAMAMONO』のリリースが決定、本作のA&Rとして関わらせてもらうことになった。結成10周年に向けて青写真を描いて皆気合いを入れて臨んだ。
各地を「ロフト号」と名の付くキャラバンに乗って駆け巡った。概ね私が運転だったが、皆はこれでもかってぐらいよく寝る。酒飲みは呑んでない時は喋らないという持論は本当だった。
ツアー終盤、名古屋公演が終わって帰りのSA。いつもとはどこか違う雰囲気。
程なくして解散が決まった。
悶々とした思いが交差したが、とにかくこのワンマンを無事に精一杯やることを皆で決心した。
開演予定時刻になり、多くのバンド界隈の関係者が長い列をつくっていた。最後ということもあるが、あらためて彼女たちの人望の厚さを感じた。
15分押して場内は暗転。
ツアーでは基本板付きで始めていたが、久しぶりにSEでの登場。
流しきった後、乾いたギターの和音とともに、加奈(Vo, Gt)のハイトーンボイスが響き渡る。本ツアー不動の1番バッター「アフターライト」から幸先良くスタート。
立て続けに最新アルバムから独特の存在感を放つ「VS鬼」。歌詞の最後の家に掛けてゆみこが「イエー!」と叫び、それにあわせて真っ白い逆行ライトがステージを覆い尽くす。すかさず6カウントからの「ちょっと待ちな」へ。
曲中後半、順子(Gt)の飛び道具のようなエフェクト音が縦横無尽に暴れ出す。
加奈が軽い挨拶をして、すかさずタイトルコールをするも、曲名を間違えて和やかな雰囲気に。
開演からどことなく寂しさ、悲しさが漂う空気を変えてくれた。
ちょっとリラックスした流れで、奇天烈サウンドと言われた代名詞的な楽曲達が立て続けに披露される。
「行方入り」で置いていたギターを再び構えた加奈にピンスポットが当たる。初期の代表曲「赤信号」。囁くように爪弾くギターにあわせて歌い始める。かなり久しぶりに演奏されたこともあって、全ての視線が加奈に注がれ、このターンは彼女の独壇場に。
「空音の喀痰」、そしてカバー曲「ゴンドラの唄」と続き、壮大かつ切ないフレーズが相俟って涙腺をくすぐられる。
余韻も束の間、TAMAMONOツアーということを思い出させるかのように、「コウモリ」、「HANAMOYOI」と続く。
その後、サンシャイン池崎を彷彿とさせるお決まりのゆみこの雄叫び挨拶。ツアーの思い出を皆で語り合い、これが今日本当に終わるバンドなのかと疑ってしまうほど、皆楽しそうに笑っていたのが印象的だった。
ひとしきり話したところで、タイトルコールと同時に軽快な旋律がキーボードから溢れ出し、「なにがし」から後半戦がスタート。
独特の歌詞が特徴の「相席」、コーラスのハーモニーが心地よい「能天気」。
そして鉄板の流れである「近い」、「層」と繰り広げられる中、突然加奈が歌えなくなり涙を拭う。
そうか、今日で最後だったということをふと思い出してしまった。
何とか持ち直し、「フェスタブルー」で一頻り煽りたてた後、激しく響くハウリングの中、「私たちは一生音楽はやめられない」と叫んだ固い信念ともとれる想いを、ラストナンバー「尼将軍の恋」に載せて歌い上げた。
鳴り止まない手拍子の中、本ツアーで脱退を表明した加奈が1人で登場。
「10年前酔っぱらった勢いでこのバンドを結成して、まさかこんなに続くとは思ってなくて......楽しいことばかりじゃなくて、しんどいことのほうが多かった。だけど、この4人で指先ノハクを10年間続けてこれて本当に幸せでした」と、オーディエンスに深々と頭を下げた。
程なく満面の笑みの3人が入ってきて、しんみりした空気を一蹴。結成して初めてつくった曲「マッチ」に続いて、ゆっこ(Ba)のスラップが唸り出す。彼女たちのキラーチューン「放課後」。
もう何十回もこの曲を観たが、初めて観た時と同じくらいの衝動を感じた。
何よりも楽しそうで、今日しかない瞬間をとことん楽しみきったかのような笑顔を浮かべながら、全22曲、渾身の力を振り絞って最後の一音まで奔りきった。
指先ノハクというバンドに青春を捧げ、道半ばで分岐する結果となってしまったが、ここまで続けてきたことに敬意を表するとともに、これからの彼女たちがどんなことを企ててくれるのか、楽しみに待ちたいと思う。
ゆっこ、順子、ゆみこ、加奈、ありがとう。とりあえず落ち着いたら打ち上げしましょ。【text:義村智秋(下北沢SHELTER / SHELTER UNITED)/photo:乙羽】
【セットリスト】
01. アフターライト
02. VS鬼
03. ちょっと待ちな
04. 自問自答せよ
05. No.9
06. ゲノオワリ
07. 行方入り
08. 赤信号
09. 空音の喀痰
10. ゴンドラの唄
11. コウモリ
12. HANAMOYOI
13. なにがし
14. 相席
15. どうしようがないこと
16. 能天気
17. 近い
18. 層
19. フェスタブルー
20. 尼将軍の恋
en1. マッチ
en2. 放課後
商品情報
TAMAMONO
2018年3月14日(水)発売
¥1,852+税
SHLU-2
【収録曲】
01. VS鬼
02. コウモリ
03. 尼将軍の恋
04. HANAMOYOI
05. ちょっと待ちな
06. アフターライト