ただ様式だけをなぞったものはニューウェイヴじゃない
──完成が長引いたのはクボブリュさんの体調不良が一因だったんですか。
KERA:それもなくはなかったけど、なんでしょうねぇ、レコーディングにあまり積極的じゃなかったんです。やる気がないわけではないんだけど、やっぱりアルバム1枚作るのって重労働ですからね。「そろそろ作りたいねぇ」と言ってる間にどんどん時間が経ってしまった。こりゃいつまで経っても始まらないぞと思って、自分が音頭を取ってスタジオを押さえたのが2024年の半ばだったかな。
取り掛かってからも一気呵成というわけにはいかなかったのは慎重に作ったからでしょうね。『lost and found』『カフカズ・ロック / ニーチェズ・ポップ』の2作よりも、選曲と音色作りにおいて、かなり作り込んだ印象です。昔のレコーディングに近い凝り様だったと思います。
▲有頂天『コボレナイ』(ナゴムレコード|2026年2月18日)
──じっくりと完成に漕ぎ着けた甲斐もあってか、早川義夫の「サルビアの花」のカバー、「1990年のカラフルメリィ」と対を成すような「2026年のカラフルメリィ」、そしてなんといっても「ニューウェイヴ」というど直球なタイトルのナンバーなど聴き所満載のアルバムで、バンドの諧謔精神とポップな音楽性が絶妙なバランスでブレンドされた、有頂天の総決算的作品と言えるのではないでしょうか。
KERA:「ニューウェイヴ」は制作の終盤にできたんですよ。アルバムの最後に位置する曲がまだないと感じていた。同様に『サルビアの花』のカバーも、アルバムの頭の曲がないと感じての選曲です。これは演劇人なりのコントロールと言うのかな。一つの作品をつくる上で曲順は凄く大事だし、いい曲がいっぱい入っていればもちろんいいアルバムなんだけど、それよりも重要なことがある。最初から全曲決めるのではなく、このアルバムに足りないものは何だろう? とちょっとずつ作っていた結果、良い落とし所を見つけられた。僕としては、かつての『ピース』(1986年9月発表)や『AISSLE』(1987年6月発表)に近い手応えを感じることができましたね。
▲有頂天『ピース』(CANYON RECORDS|1986年9月21日)
▲有頂天『AISSLE』(CANYON RECORDS|1987年6月21日)
──今度のロフトでの有頂天のワンマンは『What we called NEW WAVE』というタイトルですが、KERAさんはニューウェイヴという言葉の定義をどう捉えていますか。ちなみに戸川純さんは以前、「ニューウェイヴは便利ですからね。何のジャンルかわからないときに使う言葉というか」とインタビューで話していましたが。
KERA:様式に収まらないものですよね。ヘンな言い方になるけど、自分にとってニューウェイヴだったものが、お腹いっぱいになるとニューウェイヴではなくなってしまうみたいなところがある。あと、「ニューウェイヴってこういうものでしょ?」って様式だけなぞったものに対して「こんなのニューウェイヴじゃない」って言いたくなる。パンクロックもそうだと思うんです。3コードで高速かつ攻撃的な音色を奏でればパンクなのかといえばそうじゃないでしょう。だから「こういう音楽こそがニューウェイヴだ」とは言いづらいけど、乱暴に言ってしまうなら「ギョッとさせてもらえる音楽がニューウェイヴだ」ということになる。あくまで私感ですが。僕は高校生のときにニューウェイヴを聴いてギョッとしたからこそ自分でもやろうと思ったわけで。聴き手よりもやる側に回ろうって。
日本でいえば1978年の東京ロッカーズ辺りから1981年くらいまでの時期は、高校のクラスでパンク/ニューウェイヴを聴いてるのは数人だったけど、熱烈に聴いてる人が確かにいた。その手のレコード専門店もあったし、大手の音楽誌には載らない情報が詰まったファンジンもあった。あの70年代末期から数年間に多感な十代を過ごしたからこそ今日の自分があるんです。10年ずれていたらこうはならなかったと思う。あの時期に台頭してきた、様式に背を向けた音楽の威力ですよね。
──自分は1978年3月に新宿ロフトで収録された『東京ROCKERS』を後追いで聴いたのですが、たとえばS-KENの「ああ恋人~おお揺れ!東京」を聴いてこれがパンクなのか?! と正直なところ感じたんですよね。でもいわゆるパンクの雛型から逸脱したその在り方、独自のビートや言葉、他の誰にも似ていないアプローチこそがパンクじゃないかと思うようになったんです。
KERA:まさに。当時、みんなパンクとは言うけどニューウェイヴって言葉は使いたがらなかった。ブルーハーツの「パンク・ロック」っていう曲はあるし、ロックンロールをタイトルにした曲は無数にある。でもニューウェイヴって言葉が歌詞に出てくる曲は聴いたことがないし、『コボレナイ』のラスト曲「ニューウェイヴ」は、ここはもう唄ってしまえ! みたいなところがあったんです。ニューウェイヴへの愛を込めてね。この曲、1番のサビでは過去形で歌ってるのが、最後のサビでは現在進行形になってるの、気がつきました? そこがミソです。















