余命宣告を受けたウィルコのライブを観て救われた
──その頃はまだキリさんは加入前ですが、夜ストは知っていたんですよね?
キリ:はい、もちろん。僕が夜ストを見始めたのはヨーホーさんが抜ける前、『On The Road Again』(2009年)の頃で。その後、ベースがマキ子さんに替わって『ホームタウンボーイ』が出て。『ホームタウンボーイ』は僕は大好きなアルバムなんです。ミウラさんはテーマが重いとか暗いとか言うことがあるんですけど、僕はめっちゃ好き。ミウラさんの作る歌には友だちとか恋人とか、自分とあともう一人が歌の中にいて、そのもう一人に捧げるような。もう一人に向けて「俺は君の友だちだ」っていう気持ちを表わす言葉が、とても美しいんですよ。愛が深い。そういう傾向が特に強くなったのが『ホームタウンボーイ』だと感じて。
──あぁ、わかる。アルバムタイトル曲の「ホームタウンボーイ」なんか、自分と、そして人と向かい合ってる感じがしますよね。
キリ:そうなんですよ。曲とか言葉の美しさを超えて、ミウラさん個人の人格が見えるような感じで。夜ストはそれまでも綺麗なラブソングがあったんですけど、ラブソングの中にも人間や社会の本質的なものが入ってきたのが『ホームタウンボーイ』だと僕は思ってます。
──-おっしゃる通り! 『ホームタウンボーイ』は心に沁みて、同時に社会への怒りも感じた。で、次の『BACK TO THE ROCK 'n' ROLL WORLD』(2013年)でまた変化したよね。ロックンロールを取り戻したっていう。ウィルコ・ジョンソンのライブが大きかったんですよね。
ミウラ:ウィルコ・ジョンソンを京都の磔磔に観に行ったんですよ。凄かった。カッコ良かった。俺はライブに出るわけじゃないのにリハから行って。ウィルコは余命半年って言われてて、普段はたぶん酒飲まないのにウィスキーをガーッて飲んでたし、凄い険しい顔してるし。険しいのはいつもだけど(笑)。で、ステージに立つんだけど……、その日はザ・ニートビーツとかザ50回転ズとか、4組ぐらいがウィルコのバックバンドやって。ライブの前にニートビーツの眞鍋君(Mr.PAN)がMC的に喋って。ウィルコはステージに出たがってるのに眞鍋君が20分ぐらい喋ってるの(笑)。ウィルコは「もうステージに行く!」って言って、みんなでウィルコを押さえて。闘牛の牛みたいになってたよ、ウィルコ(笑)。ようやく「お待たせしました!」って、オマエが待たせてるっつうのに(笑)。「ウィルコ・ジョンソンです!」って言ったそばからウィルコが階段ガーッて下りてステージに立って、1曲目を間違えた(笑)。いきなり、「ルート66」の演奏で「I Can Tell」を歌っちゃって(笑)。それがまた良くて。全部が最高で。コレだ! って。もう10代の頃からずーっと好きだったR&Rがそこにあって。なんかもう、救われたんですよね。
──今夜のライブは最高だったなってだけじゃなく、ずっと心に残っていくわけで。
ミウラ:うん。帰りの新幹線で「BACK TO THE ROCK 'n' ROLL WORLD」を作ったし。そういう人いるんじゃないかな、音楽で救われたことがある人って。このアルバムで、このライブで救われて、人生がちょっと変わった人って。
──ミウラさんはウィルコ・ジョンソンのライブで救われてロックンロールを取り戻した。ロックンロールの楽しさや勢いはその後もずっと繋がっているんだけど、『フリーバード』でまた変化しましたよね。視線が社会、世界にも広がっている。
ミウラ:キリが入ったのがデカいです。よく話すんですよ。音楽、政治、社会や世界。いろんな話を絶えずしてる。話をしてると言葉がだんだん整理されていくし脳の中がスッキリする。言葉でものを考えてるんだなって。すると言葉での表現がしやすくなりますね。歌詞に反映される。
──『フリーバード』は日常の歌、そして社会や政治からくる不平等や矛盾、世界各地に視線が向いてる歌がある。しかもサウンドは超カッコいいロックンロール。なんていうか、吹っ切れてきたっていうか。
ミウラ:愛樹君(永山愛樹 / TURTLE ISLAND, ALKDO)に会ったのがデカいかな。『橋の下世界音楽祭』に行ったこともデカい。あと伊藤耕さん。昔から聴いてたわけじゃなく後追いなんだけど、特にブルースビンボーズ。この2人の存在はデカいですね。
──音楽や音楽やってる人からの影響が大きい。
ミウラ:そうっすね。そこからどんどん広がって。
──そういえば『橋の下世界音楽祭』のスタッフ的な「ぬ組」を見て作った曲もありますよね?
ミウラ:「黄金の馬」(『いつか晴れた日に』収録、2017年)ですね。