夜のストレンジャーズ、前作『フリーバード』から4年、11枚目となる『新世界』がリリースされた。これが最高! アルバムのド頭から「Free Free Palestine」と、パレスチナの平和を願うコールが叫ばれ、ソウルフルで軽快なナンバーに突入。今の社会、世界の悲惨な出来事と向き合い、希望を持ち、ロックンロールを歌い続ける、鳴らし続ける。とてもイキイキしたロックンロール・アルバムだ。
レコーディングは新宿red cloth(紅布)。ライブアルバムではなく、ライブハウスならではのスタジオ感という雰囲気。ゲストのMABO(Key, Organ / 柳家睦とラットボーンズ、ex.MABO & THE 88's)も素晴らしく、最後は夜ストのファンも集まり幕を閉じる。いいなぁ、夜ストらしい。
結成は1998年。メンバーはミウラ(Vo, G)、テツオ(Ds)、キリ(B)。自分自身が生きているハードな社会から目を逸らさないからか、何度かのターニングポイントがあった。そのへんも含めて、ミウラとキリに聞く。(Interview:遠藤妙子|Artist Photo:hiro|LIve Photo:神藤美由紀)
転機となったのは震災と原発事故
──いよいよ『新世界』がリリース。前作『フリーバード』(2020年)から4年も経つんですね。
ミウラ:けっこう空いちゃいましたね。今作、けっこう時間かけたし。
──『新世界』、凄くいいです! ソウル、ファンクも含めた持ち前のロックンロールがイキイキしてる。同時に今の社会、世界で起きてる悲惨な出来事から目を逸らしていない。スカッとするのと同時にいろんな感情が沸き上がってくるんですよ。今、絶好調ですよね。夜ストとしてはもちろん、ミウラさんのソロも活発だし、キリさんのもう一つのバンド、Mr.ワリコメッツも活発。
二人:そうですね。
──どんどん酷くなっている世の中と確実にリンクしながらロックンロールをやり続ける。音もメンタルもタフになってると感じます。
ミウラ:タフになってるかどうかは自分ではわかんないですけど。でも今作、やりたいことやってるし言いたいこと言ってますね。
──凄くいいです。まずここまでの夜ストの変遷を改めてお聞きします。かつての夜ストはワーキングクラスの日常、飲んだくれの人間讃歌っていう曲が多かったですよね。それが『ホームタウンボーイ』(2012年)で変化を見せた。変化の理由は、その前年に起きた原発事故ですよね?
ミウラ:そうです。原発が爆発した時にもうおしまいだなって思った。それまで俺はノンポリで、あんまり考えてなかったんですよ。清志郎さんがさんざん言ってても、そうだよなとは思っても、自分の音楽や生活にはそこまで関係ないだろって。ホントは関わっているんだけどね。でもあんまり気にしてなかった。
──原発やそれを取り巻く政治や社会のことは、自分の音楽には入れたくないっていう気持ちもあった?
ミウラ:いや、そうでもないんですけどね。意識して避けてたわけではなく、ただ考えてなかっただけで。原発のことは歌わないでおこうとかそういうことも考えてなかった。俺は考えてることは歌いますからね。考えてることじゃないと歌えない。
──でも実際に原発が爆発してしまった。
ミウラ:原発事故が起きて、俺は生まれ変わったんで。ちょっと怒り狂っちゃった。俺たちはハメられたんだなと。いいように国家とか政府にハメられてた。考えない奴のほうが国家にとっては都合がいいわけでね。考えないようにさせられてきた。俺たちは日々働いて、家帰って、安い発泡酒で乾杯とかやって、酔っ払って寝る。起きてまた同じことの繰り返し。そういうふうに乗せられて、考えないようにさせられてんだと思います。
──原発の危険さなど何も言ってこなかった国家は最悪だけど、でも仕事が終わって安い発泡酒で乾杯っていう日々は、愛しい人生だったわけじゃないですか。
ミウラ:そうですね。
──そういう歌を作って歌ってたわけで。
ミウラ:そうです。今もそういう歌はあるんです。でも、だから当時は歌えなかったんですよ。
──あぁ、もっと意味のある歌をやらなきゃいかんって?
ミウラ:うーん、ツライっちゅうか。自信なくなりましたね、ステージに立った時に。ギターとか歌とかはずっとやってるからだんだん良くはなってるんだけど、なんつうかな、乗り切れないんですよ、言ってる言葉や歌ってることに。今は、まぁやらなくなった曲はあるけど、今は原発事故より前に作った昔の曲も歌えるんですけど、その当時はどの曲も薄っぺらく感じて。ステージに立っても本気になれないっていうか、なんか違うなと。モヤモヤした感じが続きましたね。
──私はバンドをやってるわけじゃないしミウラさんの感覚とは違うだろうけど、やっぱりモヤモヤ感はありました。反原発! って国家に怒るのは当然だろ、反原発デモ行くでしょ! って思ってたけど、1、2年も経つとバンドの人たちからそんな声も減っていて腹が立ったし、でも自分は何かができるわけじゃないし。モヤモヤしてましたね。
ミウラ:俺もね、わかってなかったっつうか。ずーっと権力と闘ってる人はいたし、その人たちは今もしっかりやってるだろうし。俺はポッとそうなってウォーッて怒りまくって。やっばり俺も、なんでみんなあんまり言わないんだ? もっとガンガン行こうぜ! って思ってたけど、温度差っていうかね。まぁ、人それぞれですよ。
──そうなんだよね。それぞれの考え方、それぞれのやり方でね。で、そうやっていろいろ考えてた時期に作ったのが『ホームタウンボーイ』。心に沁みるアルバムです。
ミウラ:『ホームタウンボーイ』は歌を随分練習したんですよ。音程とかリズムをしっかりしようと。なので歌い方がちょっと甘ったるくなってるし、考えて歌ってる気がするんです。