ブギ、スウィング、ロッカビリー、ソウル、ブルースといったクロくてほろ苦いルーツ・ミュージックを際限まで咀嚼し、ウィットに富みながらもウェットに沁みる情緒豊かな歌を奏でる三浦雅也(vo, g)率いる夜のストレンジャーズ。前作『SOUL ON FIRE』から1年9ヶ月振りに発表される彼らのニュー・アルバム『トラブルボーイズ』は、完膚無きまでにダルでルーズな夜スト・ワールドに膠着できる逸品だ。古き良きロックンロールに対するピュアな思い、深酒の果てのスットコドッコイ、ハードボイルドで無国籍な佇まい、エロ本能に火がついた欲情剥き出しの叫び、退路を断って突き進む覚悟、内弁慶と表裏一体の無鉄砲さ、小心者が妄想するロマンティシズム...そんなものがゴチャ混ぜになった沸点の高い作品集である。このアルバムがどれだけ素晴らしいものかは、以前から夜スト好きを公言して憚らない怒髪天の増子直純と三浦による本対談を読んでもらえればよく判るだろう。どこまでも不器用でシャイなあんちくしょうの奏でるセレナーデには、不格好な格好良さがある。不粋も突き詰めれば粋に通じるのだ。(interview:椎名宗之)
夜ストは安心のブランドだね
──増子さんの夜スト好きは、怒髪天ファンの間では周知の事実ですよね。
増子:うん、素晴らしくイイからね。友達に薦めても、夜ストだけはハズしたことがないんだよ。こんなにクセがあるのにね(笑)。俺自身ずっと聴き続けてるし、俺の番組(『音流〜On Ryu〜』)にゲストで来てもらったこともあるし。まァ、音楽的にどうこうって話は全然できないけどね。そういう専門的な知識はゼロだから(笑)。
──端的に言って、一番グッと来るポイントはどんなところですか。
増子:楽曲自体は割とオールド・スクールって言うかさ、ブルースやブギのスタイルに則ったスタンダードなものじゃない? それに凄く日本的なメロディと非常に素晴らしい歌詞が乗っかってるのが奇跡的だよね。アメリカ南部の人達が本場のブルースを聴いてグッと来る感覚を、そのまま日本でも味わえるって言うか。そんな音楽、俺の中じゃ憂歌団以来だよ。憂歌団ですら、俺にはちょっとクロすぎると思ってたくらいだから。しかも、夜ストは歌のモチーフが極々小さいところが凄くイイ(笑)。たとえばムダに金を持つようになると悩みがなくなってさ、"地球に平和を!"とかおっきなことばかり唄ってつまんなくなる人がいっぱいいるじゃん?(笑)
三浦:はははは。俺の場合、どうしても小さい歌詞になっちゃうんですよ。凄く狭い世界でウジウジと暮らしてるんでしょうね。
増子:でもそれがリアルな表現に繋がるし、唄っててリキ入るところじゃない? 地球がどうだの世界がどうなのって、まるで絵空事みたいな歌詞をバカデカい声量で唄ったって何にも響いてこないからね。あと、アルバムが出るごとにまるで方向性が違ったりするような音楽は、俺には必要ないんだよ。音楽的にはずっと地続きで、アルバムを追うごとに驚きや喜びが増すようなのが好きなんだよね。夜ストはまさにそれ。無理してビックリ箱みたいなものを作らなくても、ずっと聴き続けられる音楽だと思うから。だって、今度のアルバムに入ってる曲も、今までのライヴのどこに挟まってもおかしくないでしょ? ずっと夜ストのまんまなわけだから。それは素晴らしいことだよ。
──飽きずに美味しく食べられる金太郎飴を作り続けるのは、実はとても大変なことですからね。
増子:そう、ホントに難しいよ。俺から言えば、夜ストは安心のブランドだね。鮨屋じゃないけど、「何を頼んでも美味いよ!」って言いたいもん。
三浦:俺としては、ただイイ曲を作って、イイ演奏をやりたいだけなんですよ。まァ、何がイイのかは個人の嗜好によりますけどね。
──そう言えば、夜ストには「Drunk Or Die」、怒髪天には「ビール・オア・ダイ」という曲がそれぞれありますよね。
増子:俺はずっとMDで聴いてたから「Drunk Or Die」の曲名を知らなくて、ずっと「ドコドイ」だと思ってたんだよね(笑)。「ドコドイ」ってスゲェ画期的な掛け声だなァ! と思ってさ(笑)。英語にウトいにも程があるよね。でも、後で正式なタイトルを知った時、見たり感じたりするものはやっぱり近いんだなァ...って思ったね。
三浦:俺もそれは思いましたよ。「ビール・オア・ダイ」を聴いて、おんなじだなと思って。
──三浦さんは怒髪天の音楽にどんな印象を抱いていますか。
三浦:俺はかねがね、増子さんは誠実な人だと思っていて...。
増子:いきなり人物像に迫る感じだね(笑)。
三浦:(笑)いや、ホントに誠実な人柄通りの音楽なんだなと思ったんですよ。どこまでも本気なんだなァ...って。
増子:演じてる部分は全然ないし、"こう振る舞えばみんなが喜ぶだろうな"っていう計算も一切ないからね。逆に"これやったらドン引きだろうな"っていうのは進んでやってるけどさ(笑)。
三浦:怒髪天は以前、CDをまとめて頂いて聴かせてもらったんですよ。歌詞はもちろんもの凄く良くて、いろんなタイプの曲で攻めるんだなァ...と思いましたね。
増子:まァ、曲作りやアレンジは俺がやってるんじゃないけどね。ウチのギター(上原子友康)に音楽的な才能があるだけだから(笑)。
三浦:ああ、すいません(笑)。でも、そういう多彩な音楽性にまずビックリしたんですよ。
増子:逆に俺が夜ストに憧れる部分はさ、アルバム1枚のトーンがちゃんと統一されてるじゃない? 俺達は"オムニバスかいッ!?"って言うくらい音の振り幅があるから、そこが結構悩み所ではあるんだよ。ホントは同じ方向に揃えたいけど、どう揃えればイイのか判らないっていうさ。
三浦:皆さん技術があるから、いろんなことがガッチリできちゃうんでしょうね。
増子:いや、無理矢理やってるけどね(笑)。"この曲だったら際限まで振り切ったほうが面白いかな?"とかいろいろ考えながらやってるけど、半分は冗談みたいなもんだからさ(笑)。
元ネタを真似ても絶対に勝てない
──怒髪天も、初期の頃は夜ストと同じくブルースに根差した音楽性でしたよね。
増子:そうだね。ウチのベース(清水泰而)は普段余り音楽を聴かないんだけど、夜ストだけはホント大好きなんだよ。夜ストに限ってはサンプル盤をくれくれって大変だから(笑)。他のバンドの音源には余りそういうことを言わないのにさ。俺が思うに、ウイスキーを呷りながらブコウスキーを気取るようなバンドっていっぱいいるけど、大概はダサイよね。そういう世界観に影響を受けたなら、それを本当の意味で消化して、もっと違う自分なりの表現をしなくちゃいけない。2008年の今、この日本で生きている男のフィルターを通してその世界観を描くべきだよ。そういうのを夜ストはちゃんとできてる。海外のブルースで唄われる舞台は見知らぬ国の街角かもしれないけど、そこで見える景色や抱く感情は、たとえば歌舞伎町の片隅でも同じように表現できなければ歌にする意味がないと思うんだよね。
──どれだけ頑張ってもトム・ウェイツにはなれないですからね。
増子:そういうこと。酔っ払いのろくでなしみたいな世界に憧れて真似するヤツはいっぱいいるけど、元ネタを真似したって絶対に勝てっこないから。
三浦:勝てないですねェ...。ちょっとだけああいうふうになりたいですけど(笑)。
増子:ならないほうがイイと思うよ。トム・ウェイツも今や勝新みたいだからさ(笑)。確かにそういう外人のオッサンの酔いどれ風情は格好イイと思うけど、浅草にいる酔っ払いのオッサンに憧れるヤツはなかなかいないじゃない?(笑) でも、それは絶対に同じだからね。
三浦:まるで同じですよね。どっちも側に行くと、もの凄く臭いし(笑)。
増子:最悪だよね(笑)。でも、そういうのが夜ストの音楽にはちゃんとミックスされてるからイイんだよ。吉祥寺の路地裏でゲロを吐いてるようなオッサンの佇まいが滲み出てるからね。
──生活に根差した音楽を身上としているのは、夜ストも怒髪天も同じですよね。
増子:俺はそういう歌しか唄えないから。キレイな歌を唄おうとも思わないし、人にどうこう言うつもりもない。「人生の応援歌みたいですね」ってよく言われるけど、誰かに対して「頑張れ!」なんて唄ったことは一度もないからね。
三浦:誰かのためじゃなく、全部自分のためですよね。
増子:うん。だって、自分で自分を応援していかないとやってらんないでしょ?(笑)
三浦:増子さんだったら応援してくれる人はいっぱいいるでしょうけどね。
増子:いやいや。俺達の歌を聴いて、お前はお前で自分自身を奮い立たせればイイじゃない? っていうのが俺の基本的なスタンスだからね。
──増子さん、夜ストの新作『トラブルボーイズ』を聴いて如何でしたか。
増子:もちろん凄く良かったよ。ライヴでやってた曲が多いよね?
三浦:そうです。全部ライヴでやってた曲ですね。
増子:今は過渡期って言うか、次の段階に上がるステップが見えるアルバムだと思う。バンドがこの先どうなっていくかがさらに楽しみになる内容だね。前回のアルバム(『SOUL ON FIRE』)は割とロック寄りになったと思うんだけど、今回はサウンドも歌詞もかなり整理されたように感じる。より間口が広くなったって言うかさ。
三浦:自分ではそこまで意識してないんですけどね。曲自体は徐々に作って、ライヴで固めていったものばかりなんです。自分では日本語の歌詞が増えたと思いますね。サビも何かイイ日本語が見付かるとイイなァ...とか思いながら作ったんですよ。やっぱり、サビを英語で唄うのは自分が燃えないんですよね。力が入りづらいし、どうしてもウソっぽくなっちゃうって言うか。自分の言葉で唄わないと、ケツの座りが悪いんです。
増子:日本語なら一発で意味が伝わるからね。その日本語も今回は上手くハマってるし、文句ナシに格好イイよ。「夜ストはどのアルバムから聴けばイイの?」って誰かに訊かれても、ちゃんと最新盤を薦められるから。新しいアルバムからまず聴いたほうがイイっていうのは、バンドとしては一番イイことだよね。
限度わきまえず摂取したアルコール
──「泥の川」は、怒髪天が唄ってもサマになる曲だと個人的に思ったんですけど。
増子:「泥の川」は俺も好き。夜ストのトリビュート・アルバムが出る時は、呼んでくれればカヴァーするよ(笑)。あと、「水晶の夜」ね。これは凄くイイ! 俺達も最近はロシアっぽいモノにちょっと寄ってきてるから(笑)、やっぱり見てるところは余り変わらないんだなァ...って思った。
三浦:ロシアっぽいですか!?(笑)
増子:労働哀歌って言うかさ。バイキングが唄ってるようなイメージもどことなくあるね(笑)。どの曲も俺には"ド"ストライクだし、通して聴いてまたすぐに聴きたくなるアルバムだと思うよ。
三浦:ありがとうございます。
──「VIBRATE LOVE」や「RED RIPE TOMATOES」のように情欲を掻き立てるブルースもイイですよね。
三浦:あれは俺の夢ですね(笑)。いつの日かこんなことがあればイイなァ...っていう願望ですよ。
増子:そういう願望こそが夢への原動力だからね(笑)。
三浦:いつかエラくなったらエロいこともできるんじゃないか!? っていう。
増子:ところがそんなこともないからね(笑)。よく黒人のブルースに「デス・レター・ブルース」とか「蓄音機ブルース」とか、ちょっとマヌケなものに喩えた曲があるじゃない? 「RED RIPE TOMATOES」もまさにそんな曲だよね。言い得て妙って言うかさ。
三浦:元ネタが実はあるんですけどね。とあるジャグ・バンドのレパートリーに同じタイトルの曲があるんですよ。その歌もきっとエロい内容なんだろうなァ...って想像してて。
──「バスタブブルース」はさすがに元ネタはないですよね?(笑)
三浦:これは完全にオリジナルです(笑)。出だしの"バスタブブルース!"っていうシャウトは、ドクター・フィールグッドがカヴァーしたジョン・リー・フッカーの曲を意識してますけど。
増子:この曲も最高だよね。"昨夜限度わきまえず摂取したアルコール"っていう歌詞がイイ。"摂取した"って、ちょっと医学的な言い回しがさ(笑)。
三浦:最初は"呑みすぎた"だったんですけど、ライヴをやっていくうちに変わったんですよ。
増子:洋楽の日本盤に付いてる訳詞みたいだよね。こういう余り口語的じゃない訳がよくあるじゃない?
三浦:ちっちゃい"つ"がイイんですかね? ちょっと跳ねる感じがして(笑)。でも、訳詞の影響は意外と大きいかもしれませんね。俺、トム・ウェイツの日本語訳が凄く好きなんですよ。『SMALL CHANGE』とかの訳詞は特に。
増子:イイよね。訳詞は面白いからなァ。微妙にニュアンスが違ってたりしてさ。映画の字幕もそうだよね。向こうのギャグは完璧に和訳できないと思うし。
──アコースティックを基調とした「木曜日ならベイビー」も、何とも言えぬ味わい深さがあって思わず聴き惚れてしまいますね。
三浦:この歌詞のまんまですよ。仕事をさぼりたいんです(笑)。今日も一応現場に行ってきたんですけど、「今夜は忙しいから」って昼の2時に上がってきましたから。そんなに早く上がらなくてもイイのに(笑)。
増子:俺もバイトしてた頃はさぼってばかりで、よく怒られたもんね。ライヴの当日はもちろん、その前の日と次の日も含めてしっかり中3日休んでたから(笑)。大阪や名古屋へライヴに行く時なんて、平気で1週間は休んでたしね。
──「トラブルボーイズ」は大好きなロックンロール・バンドが自分の街にやって来る昂揚感を描いた歌ですが、モデルとなるバンドはいたんですか。
三浦:これは北陸の街でプライベーツと一緒にライヴをやった時に、お客さんがプライベーツのライヴで凄く喜んでるのを見て思い浮かんだ歌詞なんですよ。彼らの騒ぐ姿を見て"こういうの最高だなァ..."と思って。で、面白くなって俺も彼らに混じってバカ騒ぎしたんですけど(笑)。
増子:俺の友達も、まさにこの歌詞に出てくるような連中ばかりだったからね。この歌を聴いて、思い出す顔がいくつもあるよ。最前列に来ちゃ大暴れだもん(笑)。
三浦:ただ、自分がライヴやってる時に目の前で大暴れされると気が散るんですよね(笑)。
増子:ホントにね、頼むから後ろで見ててくれよって思うんだけど(笑)。
三浦:実家のある秋田でライヴをやった時、最前列でウチの弟が女の子の肩に手を回しながら見てたことがあったんですよ(笑)。途中で演奏を中断して、弟に説教してやりましたけどね(笑)。
増子:それね、判るわ。俺もライジング・サンに出た時、一番最初にダイビングしてきたのがウチの妹だったことがあるから(笑)。その時はもう恥ずかしくて仕方なかったよ(笑)。
ディスクユニオンのエサ箱は宝の山
──「トラブルボーイズ」の歌詞の通り、おふたりともライヴハウスでは数々のトラブルを巻き起こしてきたと思いますが...。
増子:起こしたし、起こされたよね。三浦君もいっぱいあるんじゃないの?
三浦:うーん、呑んじゃうと覚えてないことが多いんですよね。
増子:呑んでライヴをやると絶対にトラブルが起こるね。俺達も昔はライヴ前に呑んでた時期があって、ライヴやってる時は自分達じゃ最高のつもりなんだけど、何でこんなに客席と温度差があるんだ!? って思ってたよ(笑)。何しろ当時はリハが終わったら即居酒屋行きだったもんね。で、出番ギリギリまで呑んで勢いを付けてから"行くぞッ!"みたいなね。そんなことやってたら、ちゃんとしたライヴなんてできるわけないじゃん(笑)。でもさ、三浦君のブログを見てると、地方に行った時でも呑んで楽しそうだよね。次の日大丈夫かな? って思うほど呑んでそうだけど。
三浦:最近、気を付けてはいるんですけどね。一応、深夜の2時には帰ろうとしてるんですよ。10時にチェックアウトだとしたら、8時間寝られればイイやと思って。
──確かに、三浦さんのブログを読むと楽しい酒なんだなと思いますよね。ライヴの後に打ち上がって、吉祥寺の駅前でギターを弾いてる人からギターを奪ってブルースを奏でてみたり(笑)。
三浦:あの時は大変だったんですよ。対バンした人のボーヤさんの荷物を何故か持って帰っちゃって(笑)。
増子:間違って?
三浦:いや、店の人が「お宅のマネージャーさんのじゃないの?」って言うから、"そうかな?"と思いながら持って帰っちゃったんです。ちょうどバイトの仲間がチャリで来てたからそいつが荷物を持ってくれてたんですけど、結局そいつが自分の家まで持って帰っちゃって。
増子:そのバイトの友達も、翌朝は"何だ、この荷物!?"って感じだよね(笑)。あの三浦君のブログ、凄く面白いんだよな。好きな音楽のことや仕事のことなんかが書いてあって、読んでるとバンドをやるってステキなことだなって素直に思える。あと何しろ、凄まじい頻度でディスクユニオンに通ってるよね(笑)。
三浦:ユニオンにはよく行きますね。一昨日、現場から帰って国立の駅に着いたらちょうどゲリラ雷雨に遭って、傘もないからユニオンで雨宿りをしたんです。そしたら店先に100円コーナーがグワーッとあって、12枚で1,200円の買い物をしたばかりなんですよ(笑)。
増子:いつも"100円のLPコーナーで素晴らしくイイ買い物をした"って書いてるよね(笑)。
──あと、真っ昼間からビールを呑んでいる記述がとにかく美味そうに思えるんですよね。
三浦:ああ、字面で見るとそうなんでしょうね、きっと。
増子:カレーとかシチューとか、よく料理も作ってるよね。ああいうのもイイんだよな。美味そう。あと、新しい弦を張ったからまたイイ曲が出来そうだとか、俺はギターを弾けないから憧れるよね。
──あれ、増子さん、もうギターの練習はやめちゃったんですか?
増子:練習しようとは思ってるんだけどね、なかなかハード・ケースから出てくれないんだよ(笑)。ムスタングを人質ならぬモノ質に取って、ギター・スタンドまで買ったのにね。でも、三浦君はホントにギター巧いよね。
三浦:いやァ...。
増子:友康も「ギターを弾きながら唄ってるとは思えない」って言ってたし。あのアタックも日本人離れしてると思う。向こうのブルース・マンって、まるで打楽器みたいにギターを叩くじゃない? 音階だけじゃなく、リズムもギターで取るって言うか。あれに近いよね。音色も独特だしさ。
──やっぱり、ギターの音色は事前に細かく決め込んでからレコーディングに臨むんですか。
三浦:今回も一応いろいろと考えましたけど、アンプにちょっと失敗しちゃって。失敗って言うか、スピーカーを1個だけ10インチのものに付け替えたんですよ、前のが良くなかったから。でも、10インチのつもりが8インチだったんですよね(笑)。レコーディングが全部終わった後にそれに気づいて、勘弁してよッ! っていう(笑)。でも、それで思いのほか音が歪んでラウドな感じになったのかな? とも思うんですけど。まァ、それなりにいじったので聴けないこともないかなと。
増子:いや、音も凄く良かったよ。あとさ、いわゆるラヴ・ソング的なものを唄えるっていうのはロマンチックで非常にイイよね。優しくてちょっと情けないところもあるし、しかも酒で勢いが付いてるっていうさ。なかなかこういうニュアンスは出せないからね。
エロなブルースも含めて全部ラヴ・ソング
──「連れていってよ」も「水晶の夜」も「木曜日ならベイビー」も、三浦さんの解説によると"ラヴ・ソング"なんですよね。
三浦:そうですね。エロなブルースも含めて、全部ラヴ・ソングっちゃラヴ・ソングなのかなと。
──惚れた腫れたの直接的なラヴ・ソングではなく、もっと広い意味でのラヴ・ソングと言うか。
三浦:まァ、この歳になると今さら惚れた腫れたはないですよね。その反動がハードなエロ・ブルースへと繋がるのかもしれませんけど(笑)。
──三浦さんのヴォーカリストとしての特性を増子さんはどう見ていますか。
増子:唄ってる時の声のひっくり返り方が絶妙だと思う。あれは素晴らしいよ。聴いたら一発で夜ストだって判るしね。
三浦:ホントは(忌野)清志郎さんみたいになりたいんですけどね。
増子:ああ、根っこはきっと一緒なんだろうね。RCサクセションっぽい部分はたくさんあると思うし。俺もRCは大好きなんだけど。
──確かに「RED RIPE TOMATOES」での性的なダブル・ミーニングは、RCの「雨上がりの夜空に」やサンハウスの「レモンティー」を彷彿とさせますね。
三浦:影響は受けてると思いますよ。そういうエロ関係は完全に(笑)。
増子:でも、夜ストの場合、それが下品じゃないんだよね。もの凄く下世話な表現をするようなヤツと違って、三浦君はロマンチックなんだと思うし、音楽に対するロマンがあるよね。1曲1曲、まるで短編映画を見てるようだもん。俺、ツアーの移動中は夜ストばっかり聴いてるんだけど、車窓から見える風景とメチャクチャ合うんだよ。
──アルバム最後の「B.M.R.B(ブラインドミウラストレンジャー's リズム&ブルース)」という曲には、三浦さんのソロ弾き語りで使われる名称がタイトルに織り込まれていますね。このタイトル・シリーズも恒例化した感がありますけど。
三浦:そうですね。もう1曲くらい欲しいと思って作った曲なんですよ。ライヴをやってる気分の歌で、自分のためだけに他の2人にもやってもらった感じですね。自分から自分への応援歌って言うか。
増子:これがまたイイ曲なんだよね。このラフさが非常にイイし、こういうさり気ないタッチの曲でアルバムが終わるのが粋だよね。
三浦:アルバムの曲順はベースのヤツ(ヨーホー)がいつも考えてくれるんですよ。ライヴの曲順も彼に任せたほうが楽しいんですよね。自分で考えると、何故か余り良くなくて。
増子:俺達もみんなの意見を採り入れながらライヴの曲順を決めてるけど、俺が考えると鉄板ばっかりになるね(笑)。必ず自分が盛り上がる曲ばかり並べるから、みんな「疲れる」って(笑)。
三浦:ウチの場合、俺がやりたい曲を加味した上でベースが考えるからバランスがイイんでしょうね。ドラムのヤツ(テツオ)は「何でもイイよ」っていう感じですけど。
増子:どこのバンドも同じなんだね。ウチのドラム(坂詰克彦)は「何でもイイ」どころか「何の話ですか?」だもん(笑)。たまにライヴの曲順を考えさせると、信じられない曲を最初に持ってくるからね。客を殺す気か!? っていうさ(笑)。でも、夜ストはメンバーが仲イイよね?
三浦:まァ、やっぱり波はありますけどね。
増子:凄くバンドっぽいよ。ちゃんと繋がりがあって信頼し合ってるしさ。そうじゃなきゃバンドは続かないもんな。
──怒髪天もメンバー間の仲は凄くイイじゃないですか。
増子:まァね。普段はだらしないけどライヴになると頼りになるなとか、曲作りはアイツとじゃなきゃダメだなとか、そういうのがあって結び付きが強くなるからさ。
──三浦さんの中では、バンドとソロの棲み分けをどう位置付けているんですか。
三浦:ソロはカヴァー中心なんで、好きなレコードを家でパパッとコピーして、それを人前でやらせてもらってる感じですね。楽しいですよ。それでバイトくらいの小遣いを貰えるのも有り難いし。
増子:呑み代と交通費が出れば充分だよね。三浦君のソロもまたイイんだよなァ、凄く味わい深くてさ。
三浦:他人の曲だから、燃えることはないですけどね。イイ曲ってことで興奮はするんですけど、そこで何かを伝えるっていうのは全然ないですね。完全にコピーだし、ただ楽しんでやってるだけなので。
"ドーナツショップのゴミの山"に激しく共感
──増子さんは...ソロのやりようがありませんよね(笑)。
増子:俺は楽器も弾けないし、アカペラで唄う度胸もないからさ(笑)。まァ、DJやってみたり、トーク・イヴェントに出ることはあるけど、酒呑んでイイ加減なことを喋ってるだけだからね(笑)。いわゆるミュージシャン的な資質が俺にはほとんどないし、だからこそ三浦君に対して凄く憧れるんだよ。あんなふうにギターが弾けて、ああいうイイ声で唄えてさ。ギブソンと歌だけあれば何だってできるでしょ? 俺にできるのは、その場で適当なことを喋るくらいだもん(笑)。あと思うのはさ、三浦君は曲作るの早いよね? かなりの量産型だと思うんだけど。
三浦:そうですね。もっと早くなりたいくらいなんですよ。曲はいつも作ってるんですけど、途中で頓挫することも多くて。まァ、それは良くない曲ってことなんでしょうけど。
増子:何かに録っておくとイイんじゃない? 俺達もよくあるけど、録った当時は"どうかな?"と思える曲でも、2年くらい経ってから聴くと"これ、凄まじくイイんじゃない?"っていうのがあるから。録った時はまだ自分達の中で禁じ手にしていた部分とかがあって、ちょっと早かったって言うかさ。
──三浦さんの曲作りは、やはり深夜に呑みながらが多いんですか。
三浦:いや、呑む前ですね。なるべく休みの午前中に作ろうとしてるんですよ。
増子:俺も歌詞を書くのはなるべく午前中にしてる。そのほうが前向きで明るい歌ができるしね。夜中に作ると死にたくなるような歌になるからさ(笑)。
三浦:そう、翌朝凄いメモが残ってたりしますよね(笑)。
増子:"これ、遺書かよ!?"くらいのがね(笑)。
──ブログを拝見すると、三浦さんはしょっちゅう曲を書いている印象がありますけど。
三浦:意識的にそうしてるわけじゃないんですけど、ふと頭にメロディが浮かんで、そのコードを指で探してる感じなんですよ。忘れちゃうと忘れちゃったままなんですけどね。夜中に曲を作ることもたまにあるんですけど、家人に「うるさい!」って怒られちゃうんで(笑)。
増子:そうやって生活と密着してるところがイイんだよな。心底グッと来る音楽って、やっぱりそういう所からしか生まれないと思うんだよね。音楽で何かしらを訴えかけることの意味が、今は凄く取り違えられてる気がするんだよ。大層なことばかりを唄うのが歌じゃないし、お前はそんなにエライのかよ!? って思うようなことを唄ってる若いバンドも多いよね。「目を覚ませ!」って唄われても、ビックリするだけだよ。別に寝てねェし、ずっと起きてますけど? っていうさ(笑)。
──三浦さんによる「水晶の夜」の解説には、"権力、暴力、ファシズムへの怒りはいつもある"という珍しく気骨のある発言がありましたが、歌詞にはそういった直接的な表現は出てきませんよね。
三浦:そうですね。権力、暴力、ファシズムという自由を脅かすモノから逃げるって感じです。単純に怖いですから(笑)。
増子:(「連れていってよ」の歌詞を見ながら)あとアレだね、"ドーナツショップのゴミの山から 爺さんが宝を探してる"っていう歌詞もイイんだよな。凄くよく判るよ。俺も昔は余りに金がなくて、よくドーナツ屋のゴミを拾って食ってたからね(笑)。煙草の灰を混ぜられたりしてさァ...(笑)。
三浦:昔は他のファーストフード店のゴミも平気で食べられたんですけど、いつ頃からか処分するものにはコーヒーを入れて踏むようになったんですよね。ダ○キ○ドーナツが最後の砦で、最後は金のないヤツがみんなそこに群がるようになって(笑)。
増子:だって、普通に食えるからね。西荻からミ○タードーナツがなくなった時は、涙目になったもんなァ(笑)。
三浦:肉が入ってるドーナツだと凄く嬉しいんですよね。...って、何か得意気に話してますけど(笑)。
男は死ぬまで"あきれたぼういず"
──札幌時代、増子さんがケ○タッキーのお世話になっていた話は聞いてましたけど、まさかドーナツ屋までとは(笑)。
増子:フライドチキンは、骨が折れると捨てちゃうんだよね。だから、そこで働く友達に骨の折れたのを別の袋にして隠してもらってた(笑)。どの袋に入ってるか判らないから、5袋くらいを掴んでデカい袋に入れてさ。もう完全にサンタクロース状態(笑)。すすきのにサンタ現る! だよ(笑)。だからこの「連れていってよ」の歌詞は、そういうゴミ拾いをやったヤツにしか判らない悲哀がある(笑)。
──他ならぬ三浦さん自身がそういうことを散々やらかしていた、と(笑)。
三浦:やりましたよ。神○屋キッチンにも随分と助けられましたね。鶏肉が挟んであるパンがあって、鶏肉だけ持って帰って冷凍しましたから(笑)。
増子:俺なんて、パンの耳を冷凍したことがあったよ(笑)。特に梅雨の時期はカビちゃうからさ。あれでだいぶ助かったもんなァ...。
──でも、そんな苦い経験をちゃんと歌に生かすわけだから、タフと言うかタダでは起きないと言うか...。
増子:まさにね。「連れていってよ」のその1行は、やったことあるヤツじゃないと絶対に書けないからね。ホントは爺さんじゃなくて自分自身の話なんだけど(笑)。
三浦:昔、仕事で井の頭公園の便所を掃除をした時、身障者用のトイレを開けたらダ○キ○ドーナツの袋が置いてあって、"ああ、ここで生活してるんだろうな"と思って。それがずっと頭の中に残ってたんですよね。
増子:ストーリー・テラーとしての才覚は俺の何倍もあると思うよ。小説も書けそうだし、映画も撮れそうだもんね。俺は歌詞を書く時もその時々の感情に左右されることが多いし、風景を描写する前にいきなり心情を吐露するところから入ったりするんだよ。なかなか物語が進まなかったり、進む前に終わっちゃうこともあるんだよね。怒ってるだけで終わったりとかさ(笑)。それが夜ストの場合は1曲1曲に起承転結がちゃんとある。だから大好きなんだよ。よくこれだけイイ曲が作れるなとも思うし。
──やっぱり、歌詞は何度も推敲されるんですか。
三浦:だんだんですね。唄ってみて変わることが多いです。唄いやすい言葉に変わっていくと言うか。最初はメチャクチャに書いた詞でも、だんだん韻の合った言葉が出てきたりしますね。
増子:俺も録る寸前まで歌詞は変えるよ。"は"にするか"が"にするかで延々と悩むし、ほっとくといつまでも直しちゃうから、もう録っちゃうことにしてる。夜ストのラヴ・ソングの世界観ってさ、ちょっとツイストの「あんたのバラード」に相通ずるものがあるよね。"酔いどれ男と泣き虫女"、どっちも全然ダメじゃん! っていうさ(笑)。だって、"あんたと暮らした二年の日々を 今さら返せとは言わないわ"だよ!? せめて言ってから曲を終わらせろよ! って(笑)。
三浦:はははは。どっかで影響を受けてるんですかね? ジュリー(沢田研二)とかも擦り込まれてるんでしょうね。
増子:うん、ジュリーは絶対に擦り込まれてると思うよ。
──ジュリーの世界観は、夜ストにも怒髪天にも間違いなく投影されているでしょうね。
増子:俺達以上に夜ストのほうが断然投影されてるね。色っぽさが格段にあるからさ。
──ところで、両者のライヴ共演は今までにありましたっけ?
三浦:CLUB Queでありましたよね。
増子:去年の今頃、"ディスカバリージャパン"で24/7やFave Ravesなんかと一緒にやったね。今度は絶対に2マンでやりたいと思ってるけど。やっぱり夜ストのライヴはイイもん。特にオッサンは釣れるねェ(笑)。
三浦:そんなに大漁ですか!?
増子:まさにオッサンの入れ食いだよ(笑)。
──"トラブルボーイズ"ならぬ"トラブルオジサンズ"ですか(笑)。
三浦:とっくにボーイズではない人達が...(笑)。
増子:少年隊がとっくに少年じゃないのに近いね(笑)。まァ、男はいつまで経ってもボーイズだから。まさに"あきれたぼういず"だよ(笑)。