ベースは全体を俯瞰する楽器だからプロデューサー向きかもしれない
ROSIE:せっかくの機会なので、井上さんがベーシストとして一番影響を受けた音楽ジャンルとベーシストを教えてください。
井上:さっきも話したグランド・ファンクのアルバムに『We're an American Band』という一番売れた作品があって、それはトッド・ラングレンがプロデュースしている。あと、レーナード・スキナードの代表曲である「Sweet Home Alabama」はアル・クーパーがプロデュースしている。当時はライナーノーツを隅から隅まで熟読していたので、そういう情報を得ていた。パンクの時代になって一番好きだったのがダムドで、彼らの『地獄に堕ちた野郎ども』(『Damned Damned Damned』)というファースト・アルバムはニック・ロウがプロデュースしている。その後にエルヴィス・コステロをプロデュースするのもニック・ロウでね。何が言いたいかと言うと、トッド・ラングレンもアル・クーパーもニック・ロウも、のちにソロ・アルバムを出しているわけ。それぞれあんなに激しいバンドをプロデュースしているのに、ソロになるとみな心象風景を唄うような内省的な作風になるんだよね。だけどそのスタンスが僕には格好良く映ったし、自分が目指すべきはそういう音楽家だなと思った。それにニック・ロウはベーシストだし、T・レックスやデヴィッド・ボウイのプロデュースで知られるトニー・ヴィスコンティもベーシストなんだよ。ピンク・フロイドのエンジニアとして有名なアラン・パーソンズもベーシスト。クラシックの指揮者もコントラバスの出身者が多いらしい。ベースは全体を俯瞰する立場の楽器でもあるから、プロデューサーに向いているのかもしれない。それは僕なりの解釈なんだけど。
ROSIE:なるほど。
井上:だからプロデューサー的資質のあるベーシストが好きなんだよね。あと、曲も作れて唄えるベーシスト。ポール・マッカートニーやスティングもそうだけど。
──逆に、ROSIEさんが一番影響を受けた音楽ジャンルとベーシストは?
ROSIE:それはもう、ルースターズと井上さんです(即答)。
井上:面と向かって言われると恥ずかしいけど、光栄です(笑)。
──ROSIEさんはどうですか。プロデューサー的資質を自覚したりは?
ROSIE:さっきベーシストの性格みたいな話が出たときに一個思ったのは、暴動クラブの中でバンドを一番客観的に見れてるのは私かもしれないです。いろんな面で。
井上:細やかなところまで多面的に捉えられている感じはするよね。
──初期ルースターズでバンドを一番客観視できていたのは井上さんだったんですか。
井上:どうかな。僕が一番年下というのもあったし、自分がイニシアティブを取るバンドではなかったので俯瞰できる立場ではあったと思う。ベースという楽器の特性もあったし、その意味では一番冷静だったのかもしれない。
──メンバーの入れ替わりや音楽性の目まぐるしい変化を受け入れて前進し続けるだけでも至難の業だったのではないかと思うのですが。
井上:僕が在籍していた頃までは大江がリーダーとして牽引するバンドだったし、作詞・作曲する大江が唄い、バンドのコンセプトまで大江が決めるのがデフォルトだった。大江が病気になってからはどうにかやりくりしてバンドを存続するようになったわけだけど、そうなると僕にはバンドに対する思いや関心が薄れるようになったし、実際にその辺りで脱退している。
──脱退後のルースターズはどう見ていたんですか。
井上:アルバイトしながら次のバンドの構想を練っていましたけど、ちょうどルースターズが上り調子の頃だったんです。大江が不調になる一方でライブをやるたびに動員が増えていたし、新宿ロフトで何日も連続でライブをやったり、ホールでライブができるようになったり、勢いが続いていた。だからちょっと悔しい思いもあったけど、そうやってバンドを続けていくのは凄いと感じた。バンドのあらゆる事柄をこなしていたフロントマンがいなくなった後も続いていくバンドなんて、そういないでしょう?
ROSIE:ホントに凄いことですよね。
井上:あれは花田みたいに責任感のある性格じゃないと無理だったと思うね。
ROSIE:私は花田さんがボーカルになって以降のルースターズももちろん好きです。でもやっぱり、最初の4人の頃の作品を無意識のうちによく聴いている気がします。光栄なことにルースターズの配信解禁を記念したプレイリストに参加させてもらったんですけど、そこで15曲までしか選べないのとプレッシャーで気がヘンになりそうでした(笑)。ルースターズは全部が最高なので。
── 一番聴いているアルバムは?
ROSIE:全部めちゃくちゃ聴いてるんですけど、おそらく『INSANE』だと思います。
井上:『INSANE』はフルアルバムと言うよりは、ちょっと曲数が少ないよね。
ROSIE:B面に2曲(「CASE OF INSANITY」「IN DEEP GRIEF」)しか入ってないですね。
井上:『INSANE』の頃は大江の体調がちょっと怪しくなってきたけど、それでもまだ元気ではあった。その頃からエコー&ザ・バニーメンとか、主にイギリスのニュー・ウェイヴやポストパンクから触発されることが多くなってきたね。凄く速いテンポの曲も少なくなってきたし。
──ルースターズのサブスク解禁ついて、井上さんはどう受け止めているんですか。
井上:大江が前からコロムビアにお願いしていたことで、いろいろとクリアになって良かったと思います。