ルースターズはどれだけ音楽性が変わっても全部が格好いい
──井上さんはルースターズの中で最年少、ROSIEさんも暴動クラブの中で最年少という共通項がありますよね。
井上:他のメンバーはいくつくらい?
ROSIE:1個上です。学年は同じだけど、私が早生まれで一番下なんです。
井上:じゃあほぼ同い年だね。ROSIEの世代は関係ないだろうけど、僕が育った九州では厳しい上下関係があったし、年齢によるヒエラルキーが確たるものとしてあった。生まれ年が同じでも学年が一つ上ってだけで大きな格差があったから。ROSIEは最年少かつ紅一点だけど、バンドの中で女性一人は大変? ボーカルが女性の場合は周囲が特別視するけど、ROSIEはベーシストだから勝手が違うのかなと思って。
ROSIE:バンドを始めた頃はいろいろ大変でしたね。悲しい思いをたくさんして、帰り道に何度も泣いたりとか(笑)。
井上:悲しい思い?
ROSIE:他のメンバーに責められるとかではないんですけど、バンドの中で孤独を感じたりして。最初のほうは三対一になることもあったし。そこは何とか自力で対処しましたけど。
井上:逞しい(笑)。以前、下北沢の喫茶店で暴動クラブのメンバーとばったり会ったとき、男子メンバー3人が先に店を出て、ROSIEが支払いしていたのを見かけたんだよね。そんなふうに、バンドの中で紅一点だとマネージャー的なこともするのかな? と思って。
ROSIE:ああ、でも最初のほうはバンドのお金は私が全部管理していましたね。物販の在庫管理を含めて。…私からも質問していいですか?
井上:もちろん。
ROSIE:ベースを始めた頃はどんな練習をしていましたか?
井上:初めの頃は教則本みたいなものを買ってきて、それを読み込んで真面目にその通り演奏していたと思う。初級レベルの譜面なら何となく読めたし、十六分音符がたくさん出てくるわけじゃないから(笑)。でもベースは一人で練習してもつまらないよね? ギターみたいに生音が聴こえるわけじゃないし、アンプに繋げないとどんな音かわからないし。リズムとメロディの隙間を動いていくのがベースだし、合奏して初めて成り立つ楽器なんだよね。だからこそバンドを追い求めるのかもしれない。ROSIEはどんなことに触発されてバンドを組むことにしたの? 暴動クラブが初めてのバンド?
ROSIE:高校の軽音部で一応バンドらしきものはやっていましたけど、本格的なバンドは暴動クラブがほぼ初めてです。課題は多々ありますけど、バンドはやっぱり楽しいです。
井上:ろくろっていうのはどんなバンド?
ROSIE:ヘンなバンドです(笑)。面白いことをやってます。
井上:ろくろでは曲を作ったりしているの?
ROSIE:曲は基本、ボーカルが作ってます。
井上:ソロでギターの弾き語りもやってるよね? サブスクに上がっている曲(『どうにかしたいよ』)を聴いたよ。
ROSIE:恥ずかしい(笑)。井上さんはいつから曲を作っていますか。ルースターズ時代は「BABY SITTER」以外に作っていましたか?
井上:さっきも話したけど、ルースターズに入る前は自分がリーダーでギターを弾くバンドをやっていて、その頃から曲はたくさん作ってた。歌詞も書いてたし。
──「BABY SITTER」は大江さんに促されて書き上げたんですか。
井上:いや、「こんな曲ができたけどどうかな?」とメンバーに聴かせてみた。クレジットは僕が作詞・作曲になっているけど、著作権上の作詞は大江なんです。最初は僕が詞を付けて渡したんだけど、自分で唄うにはしっくりこなかったみたいで。大江の歌詞は男尊女卑も甚だしい、凄く乱暴な内容なんだけど(笑)。その作詞が僕のクレジットになってしまったので、当時は「井上富雄は女性に酷い扱いをする奴だ」みたいに思われちゃった(笑)。
──メインのソングライターが他にいる中での曲作りは、プレッシャーがあるものですか。
ROSIE:私はそんなにないですね。
井上:大江が「みんなも曲を作ってよ」と言ってくる感じはなかったけど、デビューしてアルバムを1枚、2枚出せば曲も自ずと足りなくなってくるんです。僕がルースターズに在籍していた3年ほどの期間は、バンドを取り巻く状況が目まぐるしく変わっていった。とにかく忙しかったし、音楽スタイルもどんどん変化していった。その中で発表した『DIS.』は大江の発病後の作品で、大江一人が全曲書き下ろすのは難しい状況だった。それで僕が「夜に濡れたい」を作曲して、柴山(俊之)さんに作詞をお願いすることも出てきた。僕が曲を提供したのは、そんなふうに必要に迫られたケースでしたね。
──『DIS.』に至る頃のルースターズはだいぶニュー・ウェイヴ色が強まっていましたが、そうした初期からの音楽的変遷をROSIEさんはどう受け止めていますか。
ROSIE:変わらず好きです。どれだけ変わっても全部が格好いい。初期と中期では音楽性が全然違うけど格好いい。そう感じるのが自分でもびっくりなんです。