暴動クラブがカバーした「C.M.C.」をどう聴いたか
──弱冠19歳のバンドマンからそうした熱烈な支持を受けているのは、たゆまぬ進化を遂げたルースターズの音楽性に普遍性があることの何よりの証左に思えますね。
井上:有難いことですよね。これまでもルースターズはトリビュート盤が出たり再評価されることが何度かあったけど、そこまでメジャーな存在ではなかったことが逆に良かったんじゃないかと僕は思う。たとえばBOØWYくらい売れたバンドなら、今さら再評価される必要もなくみんなよく知っているんだろうし。ルースターズには適度なマニアックさがあると言うか、「この曲知ってる?」みたいに自慢できる感じとか立ち位置が今日の再評価に繋がっている気がする。
ROSIE:知る人ぞ知る、みたいな感じがあるのかもしれませんね。
──暴動クラブのファースト・アルバム『暴動クラブ』にはルースターズの代表曲の一つである「C.M.C.」のカバーが収録されていますが、井上さんは聴いていかがでしたか。
井上:びっくりしました。なぜに「C.M.C.」だったんだろう? と思って。あれは誰の案だったの?
ROSIE:うちのプロデューサーが「C.M.C.」がいいんじゃないかって。メンバーもみんな「C.M.C.」がいいってことで。歌詞もそうですし、曲の持つ破壊力が凄まじいですし。ルースターズの曲の普遍性の高さを象徴するような曲でもあるので。
──“磯ガニ”というロックとは程遠い歌詞が出てくるし、元のタイトルは「夏休み」だし、いろんな意味で破壊力がありますよね(笑)。
ROSIE:確かに(笑)。私たちの「C.M.C.」は原曲に忠実にやってみたんですけど、ベースはどうでしたか?
井上:わりと原曲っぽいよね。
ROSIE:頑張りました(笑)。
井上:難しくはないと思うけど、テンポが早いからね。
ROSIE:そうですね。「C.M.C.」のベースはダウンピッキングですか?
井上:当時はそうだったと思うけど、今はできないね。
ROSIE:私、ダウンピッキングができなくて…。
井上:いいよ、できなくて(笑)。初期のルースターズはブルースをカバーしたり、シャッフルっぽい曲が多かったりしたけど、同時期にロッカーズやモッズといった同郷のバンドがいたわけですよ。特にロッカーズはテンポが速くて、彼らのファースト・アルバムの帯のタスキに「このスピードについてこれるか!」というキャッチ・コピーがあったくらいでね。そのロッカーズの高速ダウンピッキングに負けていられないぞと対抗して、意識的にビート・バンドらしくプレイしていたところはあったと思う。
──同時期に新宿ロフトに出ていたバンドで、存在を意識していたベース・プレイヤーはいましたか。
井上:どうだっただろう……いなかったんじゃないかな。その後、何十年も経ってから、ルースターズが好きでしたという人に「ベースを下に持って、両足を広げてどっしり構えて弾いてましたよね?」とか言われることがあったけど、それはモッズとかBOØWYのベースと勘違いしているんじゃないかって(笑)。僕はどちらかと言えば飛び跳ねたり暴れていたほうなので。きっとビート・バンドのベーシストに対してはそんなふうに、寡黙にダウンピッキングしているイメージがあるんだろうね。
──『La Vie en ROSIE 〜ROSIEのレコード日記』というコラムによると、ROSIEさんは大学でフランス文学を勉強されているそうですね。井上さんも米英文学よりフランス文学がお好きと伺いましたが。
井上:そうなんです。ROSIEはセルジュ・ゲンズブールやジェーン・バーキンのことをSNSで書いていたり、コラムでシルヴィ・ヴァルタンのことを取り上げていたでしょう。僕もフランスの音楽や映画が好きなので、ベース以外にも共通項があるんだなと思って。
ROSIE:私もフレンチ・ポップが好きで、最近また自分の中でフレンチ・ポップのブームが到来しているんです。ゲンズブール、バーキン、フランス・ギャル、シルヴィ・ヴァルタン、フランソワーズ・アルディとかをずっと聴いています。
井上:ミッシェル・ポルナレフとかも?
ROSIE:ああ、レコード持ってます。
井上:よく知ってるね。僕が小学生の頃にフレンチ・ポップが凄く流行っていたんだよ。あと、別にクラシックに詳しいわけではないんだけど、この曲いいなと思って調べてみるとドビュッシーやラヴェル、サティといったフランスの作曲家の曲だったりする。たまたまなのかもしれないけど、そういう好みの傾向があるんだよね。
ROSIE:私もクラシックはそんなに詳しくないですけど、いいなと思った曲がサティだったことに気づいたことはあります。
井上:趣味が合うんだね。そんな話をしてるとまるでお見合いみたいだけど(笑)。
ROSIE:井上さんが今一番好きな音楽はどんなものですか。
井上:好んで聴くのはドリーム・ポップというジャンル。浮遊感のある、ギターにリバーブやディレイを効かせたほわっとした音楽。昔で言うとジーザス&メリーチェインみたいなバンドだね。最近好きなのは、ニュージーランドのマイルド・オレンジっていうバンド。ああいうのを聴いてると気持ちいいなあと感じる。米英の音楽はそういうちょっとB級な感じのものを好んで聴いてる。あとはシューゲイザーとかかな。ブラジル音楽とか言葉が全くわからないのも面白いね。
ROSIE:新しい音楽をどうやって探していますか?
井上:今はサブスクで聴くことが多いので、そこで何か気に入って聴くとお勧めの音楽が出てくるじゃない? そこから辿って未知の音楽に出会うことが多い。こんなバンドがあるんだ…と知らない音楽ばっかりだから楽しいよね。仕事のためにサブスクで音楽を聴くことも多いけど、そうなるとそれに類する音楽がお勧めされて「今は聴きたくないんだけどな…」と感じることもたまにある(笑)。