今後の活動予定、エクストリームなロックの「アンビエント」性
──それで、今後の活動の予定についても伺ってよろしいでしょうか。アルバムやEPなど、まとまった作品は作られていますか。
Atsuo:うちは、コラボとかスプリットとかをやっているかな。そろそろアルバムの制作に入ろうかなというところ。アナログのプレスもだいぶ早くなったし、かなり動きやすくなったかな。
NARASAKI:DEEPERSは、4曲入りマキシシングルをずっと作っているので、それを年内には出したいなと思います。
Takeshi:動物シリーズ。
NARASAKI:動物シリーズ。というかあれは全部ポストペットのキャラクターで、いちおう終了したと思ってたら新キャラに羊がいて。だからそれでやるか、みたいな。
Takeshi:楽しみです。
──ありがとうございます。それに関連するかもしれないこととして、最近好きで聴かれている作品などはありますか。
NARASAKI:アンビエントが多いかなあ。Siriが選んでくれたやつとか(笑)。
──お話を伺っていると、アンビエントという言葉がたびたび出てきますが、やっぱり以前から重要なキーワードなんでしょうか。
NARASAKI:なんだろう。気持ちいいじゃないですか。デスメタルと同じですね。気持ちいいっていう。
Atsuo:僕らの時代では、「ハマりもの」って言いましたよね。90年代では。トランスとか。ハマれる、浸れるやつのことを。Borisのパワーアンビエントと言われる類の曲調も、僕らの中で「ハマれる」感じのものなんです。
NARASAKI:あ、あれってパワーアンビエントという括りなんだ。
Atsuo:当時はそう言ってましたね。今はドローンメタルとか言われます。というふうに、アンビエントというキーワードで共通するものはありますね。
──ちなみに、デスメタルのアルバムで1枚選ぶとしたらどのあたりになりますか。
NARASAKI:デスメタルというと! …うーん、Morbid Angelの1st(『Altars of Madness』1989年)かな。
──素晴らしいですね。
NARASAKI:ありがとうございます(笑)。
──自分も、あれは永遠の名盤だと思っているので。
NARASAKI:うん。声がね、あれだけ凄いカッコいいんですよ。
──デヴィッド・ヴィンセントの声は初期のほうが好きですか。
NARASAKI:そう。やっぱり1stが好き。Morbid Angel以外だと、Earacheのコンピとか。あれ何ていうタイトルでしたっけ。
Takeshi:『Grindcrusher』(1991年)。
──Earache経由でデスメタルにもインダストリアルにも繋がっていけますね。
NARASAKI:インダストリアルは別口かな。Godfleshは聴いてましたよ。1stは。Jesuはタイミングが合わなかった感じでしたが。
Takeshi:俺はPitchshifter派だったんですよ。
NARASAKI:なるほど。それで、やっぱり衝撃だったのはTerrorizerかな。1stはこれぞ名盤という感じで。よく聴いたな。それとは別に、最近のメタルならVildhjartaがすごい良いですね。
──なるほど!(Borisのお二人に向けて説明)Meshuggah影響下のジェント=djentというジャンルの代表格で、それを暗く複雑な方向に突き詰めたthallというスタイルを確立したバンドなのですが、唯一無二の凄みがあって非常に良いんです。
NARASAKI:最近のVildhjartaはすごく良い。昨年末に出た新曲も素晴らしかったです。
Atsuo・Takeshi:(笑)。
──いやあ、ジェント方面の話が出てくるとは思ってなかったです。
NARASAKI:ジェントすごい好き。Vildhjartaは最新のを聴いてほしいですね。本当に、何やってんの?! って感じで。ジェント的なことをずっと複雑にやってるんだけど、後ろでアンビエントなギターがほわーんって鳴ってる。超立体的というか、譜面見ながらやってるとしか思えないような音楽ですね。
──なるほど、こういうバンド経由でDEEPERSに興味を持つというルートもあり得そうですね。個人的にはすごく納得感がありました。お話を聞けて良かったです。例えばBorisとジェントはかなり遠いところにありますが、DEEPERSを介したら繋げてしまえるんだなと思ったり。
Atsuo:うん。ナッキーさんは全然自覚がないけど、DEEPERSもメタルじゃないですか。メタルの括りでDEEPERSを語れる時代になってきたとも言える。
NARASAKI:とりあえず次のボーカルが決まるまで近所の子どもに歌ってもらってる、みたいなのが30年くらい続いてる感じだけど(笑)。
Atsuo:戸川純がメタルバンドを組んだら、というコンセプト。
──この間の対談で戸川さんのお名前が出たことで、解釈の大きな糸口が得られた気がしました。
Atsuo:でしょ? あれは俺しか知らない切り口だったんだよ(笑)。
NARASAKI:そう。ほんとにそう。
Atsuo:日本の音楽の歴史をめちゃめちゃ変えた人だと思います。DEEPERSがバッキングやるのも観たいですね。
──戸川純 with Vampilliaも素晴らしかったですし、DEEPERSとも合いそう。ぜひ観たいです。
NARASAKI:Vampilliaもすごく良いよね。VMOも。VMOは新譜(『DEATH RAVE』2024年)も凄かった。The Berzerker(オーストラリア出身のインダストリアル・グラインドコア)が出てきた時のこと思い出したりもしました。
──それにしても、NARASAKIさんがエクストリームメタルをずっと聴き続けているというのが個人的には嬉しい驚きでした。他のインタビューではそういう話が出てくる印象はあまりなかったので。
NARASAKI:箇所箇所では聴いてきましたね。
Atsuo:アンビエントと言いながらね(笑)。
NARASAKI:でも、アンビエントは近いよね。
──ブラックメタルはミニマル音楽でもあるので、アンビエントと同じ感覚で聴いている人も多いと思います。
NARASAKI:Burzumなんかは本当にそんな感じするな。寝る時にすごく音量小さくして聴いたりしてる。なんか、スーーッってなって、サーーッてなるというか(笑)。
Atsuo:音量だけが問題だったりもしますよね。Merzbowとかも、すごい小さい音で聴くとアンビエントみたいになったりもするし。
NARASAKI:うんうん。それから、すごい小さい音で聴いてたら、My Bloody ValentineかNapalm Deathかどっちかわからなくなっちゃったこともあったり(笑)。実際似てるんだよね。Burzumの打ち込みでやってるやつなんかも、小さい音だとシューゲイザー感が出たりして。サーーッて感じ。ちゃんと眠くなる(笑)。
──話がだいぶ広がってしまいましたが(笑)、Borisのお二人はどうでしょう。最近聴かれている音楽などは。
Atsuo:俺はだいたいBorisを聴いてるから(笑)。作業が多いんで。
NARASAKI:そうなるよね。自分の曲聴いてるよね。
Takeshi:車を運転している時は、90年代のテクノを聴いたりしてる。Luke Slaterとか。夜中の高速道路に合う感じ。それで時折、デスメタルとかブラックメタルを聴いたり。高速を走っている時だとエンジン音もうるさいから、必然的にデカい音でかけるので、その轟音が逆にアンビエントみたいな感じになるんだよね。
──なるほど確かに。そうか、アンビエント性というキーワードでDEEPERSとBorisを繋げることもできるんだな、と今日思いましたね。
NARASAKI:Primitive Manなんかもめちゃくちゃアンビエントで、車の中で爆音でかけると本当に気持ちいいですね。
Takeshi:あと、僕にとってはノイズコアもアンビエントというか。この間、スワンキーズのドキュメンタリー映画を観に行ってきたんですけど、その1週間前くらいに監督さんとたまたまお話する機会があって。当時の九州シーンを只中で見ていた人なんで、九州パンクの「あの音」が生まれた瞬間も知ってるんですよね。で「俺、昔GAIやCONFUSEのコピーしてました」って言ったら、「CONFUSEのギターの音は国産ファズとイコライザーで作ってたんですよ」って教えてもらって。まあそれは余談だけど、とにかくあの粒子が細かいシャーーって音は、耳が痛いとかうるさいとかいう感覚の向こう側というか、もう完全にアンビエントですよ。
NARASAKI:へー! 結局、(音の)コシはあったんですかね。
Takeshi:あ、コシの話はしなかったです(笑)。
NARASAKI:一番重要なとこじゃないですか(笑)。コシがあるかないかで戦ってるのに(笑)。
──コシっていうのは、それこそうどんのコシみたいな意味のアレですか。
Takeshi:そうそう。シャーーの中に芯があるのかないのかということで。俺がある派。
NARASAKI:俺が全然ない派。音作りができなかった派ですね(笑)。俺が一番最初にメタルゾーンをジャズコーラスでやった音に近いです。18歳の俺は音作りができなかった。メタルゾーンを最高だと思ってたから。
Atsuo:エンジニアの人にも、もっと音の芯がないと人はノレないんだよと言われたりとか。それで、そんなの関係ねぇよ! って(笑)。エンジニアとはとにかく対立する。
NARASAKI:俺はその当時、メタルゾーンの音が本当に好きで。でも、人から言われるんですよね。何弾いてるか全然わかんないって。抜けっていう意味がわからなかった。
──出音と録り音が違うというのもありますよね。
Atsuo:体感が録音できないから。だから、芯を残せって言われるんですよね。
NARASAKI:下手なんだよ!(笑)
一同:(笑)
Atsuo:でも、実際そうやって崩したり滲ませないと弾けない。なんでも滲ませちゃう。はっきりコシなんか出したら演奏なんかできないんですよね。
──そういう違いは、本当にプレイヤーやバンドの持ち味に繋がってますよね。
Atsuo:そうなんだよね。
NARASAKI:思い出したんだけど、DEF.MASTERをやっていた時、片方のギターがDOOMの藤田さんで、すっごいしっかりした音を出すのね。それで、俺はメタルゾーンでシャーーッていってる。だけど、俺も自分ではちゃんとやってると思ってた。それで、ライブが終わった時に、観てた人に「何弾いてるか全然わからない」と言われて。そういう、鼻で笑ってるような顔を見た時に、すごい傷ついたのね。「お前が何をわかるんだ」みたいな(笑)。でも、今はほんと、そうですね。みたいに思ってます。
Atsuo:そういう美意識なので、しょうがないですよね。
NARASAKI:いやあ、ほんとにわかってなかった。気持ちが先に行っちゃってたね。
Atsuo:それでも、そういう音からコシだけ抽出してくれとも思っちゃうよね(笑)。
NARASAKI:ライン渡してやるからそこから好きにしてくれ、みたいな。すげえ勝手なこと言ってる(笑)。まあ、俺はサウンドプロデューサーという肩書きも持ってますから、かなり不利なこと言ってる気もしますね(笑)。
──ただ、そういう活動をしてこられた方が、ももクロやBABYMETAL、特撮や大槻ケンヂと絶望少女達(※2008年発表の『かくれんぼか 鬼ごっこよ』はアニソン/アイドルソングとスラッジ〜デスドゥームを融合した傑作で、ももクロなどが属するEVIL LINEレーベルの礎にもなった)を通して日本の音楽に大きな影響を及ぼしてきたわけで。今回うかがった様々なエッセンスが、地下水脈的にシーン全体に浸透してきているんだから凄いです。
NARASAKI:ありがとうございます。これは私事になっちゃうんですけど、今度、ブラストビート・グラインド・アイドルをやるので。そちらの方面もよろしくお願いします。活動はこれからですけど。
──今日は本当に興味深いお話をたくさん伺えて幸いでした。DEEPERSもBorisも今後の展開をとても楽しみにしています。
一同:ありがとうございました。