“hello there” tour 2023への反響
──先ほどポストブラックメタルというキーワードが出ましたが、例えば「Quicksilver」の中間部(2:52〜4:08、速いところも遅くなるところも)は初期Ulverにとても近い音になっていると思うんですね。そういったことはあまり意識していなかったでしょうか。
Takeshi:エモクラストだよね。スペインのEkkaiaやKhmer、あのへんをよく聴いていた時期で。「Quicksilver」の曲調も、ジャパコアっちゃジャパコアじゃないですか。Tragedyとかももともと好きだし。「泣き」の感じがね。それで、ベースレス編成のアレンジでああいう感じになったんだと思います。
──今回は、サウンド的にはポストブラックメタル的なものを意識されましたか。
Takeshi:ブラックメタルも好きでずっと聴いてるからね。だから、それは自然と出てくるものだと思います。
──なるほど。『hello there』は各曲の音楽スタイルがうまい具合に描き分けられていて、アルバム全体としてみると、ある時代のシーンの広がりが見事に網羅されているように感じられるんですよね。パズルのピースがはまるように。今回リアレンジするにあたって、曲ごとのテーマみたいなものはあったんでしょうか。
Atsuo:コンセプト的なものはそこまで詰めていなかったですね。曲に導かれるまま、現代のやり方で仕上げたらああなった感じです。
──DEEPERS側の曲でいうと、「Killing Another」がデスメタルファン的にはとても興味深いというか、今のシーンの感じと同期していて凄いと感じました。今回のアレンジでは具体的にはどういったジャンルやバンドを意識していたのでしょうか。
NARASAKI:そうですね……、あえて言うならPrimitive Manかな。プラス、そういう気持ち悪いエフェクトとか。Primitive Manが気持ち悪くなったら? みたいな。
Atsuo:Primitive Manとか聴くんですね!
NARASAKI:大好き大好き。
──今回の「Killing Another」を聴いていると、フィンランドやスウェーデンのデスドゥームを連想させられる箇所が多いのですが、今のお話を聞いて、スラッジとかパワーヴァイオレンスのほうから来たものなのかなと思いました。
NARASAKI:もともと、DEEPERSがデビューした時の一番最初の「Killing an arab」は、完全なデスメタルアレンジで。それに対し、今回はドゥーミーにやってみた感じですね。
Takeshi:リフの刻み方が変化してますよね。
NARASAKI:もう、刻みたくないです。健康上の理由で(苦笑)。
──ただ、ライブで続けて拝見すると、Borisがハードコア寄りなのに対し、DEEPERSは今でもハードロック/ヘヴィメタル的に端正な質感があると感じます。
NARASAKI:うちらにはやっぱり、残虐さが足りないんですよ(笑)。
Atsuo:タイトですよね。ドラムのセッティングからして違う。カンノさんのセットで叩いてみても、やっぱり全然違います。
NARASAKI:速い曲用ですよね。
Atsuo:そう。シャープに音が出る。
──『hello there』は、そういう質感の違いも示されつつとてもうまくまとまっているのも素晴らしいと思います。ところで、このアルバムやツアーに対する反響はどうでしたか。
Atsuo:ツアーの反応がめっちゃ良かったですね。お互いのファンがお互いを楽しんでくれてる感じだったし。明日の叙景も含め、すごく良いツアーでした。
──東京のアンコールでの全員集合も良かったですね。そこでの共演曲を「Killing Another」に選ばれた理由はどんなものだったのでしょうか。
Atsuo:全曲やるというのが前提のツアーでしたよね。それで、「Killing Another」をやっていなかったので、ここでやろうということになった気がする。
NARASAKI:最後にみんなでバンザイしたかったというのはあったね。
Atsuo:名古屋の打ち上げで、東京はアンコールで合体しようという話になって。それで、全員ステージに上げたいという話だったんだけど、数が多いので、うちと明日の叙景からは選抜メンバーになりました。カンノさんも「Atsuoがドラム叩くなら良いよ」みたいなことを言い出して。東京の前日に個人練習に入って「これは叩けないや」となって(笑)。それで、ナッキーさんに連絡して、「最初のゆっくりなところだけ僕が叩いて、後はカンノさんにしてください」というふうに決まりました(笑)。
──共演するにあたって、お互いのバンドにこの曲を演奏してほしいというリクエストは出されましたか。
Atsuo:11月のツアーでは特にリクエストはなく、『hello there』を踏まえつつそれぞれのセットリストを組む感じでした。2月の追加公演については話をしましたね。
──2月の追加公演には掟ポルシェさんも参加されていましたが、これはどういった経緯で実現したのでしょうか。
Atsuo:お互い友達だから(笑)。
──DEEPERSとは「親父のランジェリー」で共演されていましたね。音楽的な文脈も含めとても格好良いパフォーマンスでしたが、この曲の参照元みたいなものはありますか。
NARASAKI:あの曲に関してはね、リリース当時からずっとダンマリを貫いてるので。ただ、オリジナルもDEEPERSが演奏してるんですよ。それで、やるには一番良いタイミングだなと思ってセトリに入れました。
──掟さんはDJでの選曲も良かったですね。80年代の日本のハードコアを軸にスラッシュメタルやゴシックロックなどへクロスオーバーする感じで。
Takeshi:楽屋で聴いてて、ナッキーさんが「今かかってるのThe Clayだよね」って。
NARASAKI:臨終懺悔(NARASAKIが在籍していたハードコアバンド)もかけててさあ。本当にちっちゃくなってたね。気持ちが(笑)。
一同:(笑)
NARASAKI:これから俺、人前に出るのになあって。うう〜マジかあ! という感じでしたね。で、「親父のランジェリー」に関しては、あれはCarcassということで。掟さんの大好きなCarcass。