COTDとBorisの「クロスオーバー」性
──(笑)ただ、そのCarcassもトランスレコード周辺に通ずる味わいがあるという点で今回の対バンに繋がる部分もある気がしますし、DEEPERS が出演したVIOLENT ATTITUDE 2024(3月20日開催)も同様だと思います。個人的には、DEEPERSがこのラインナップに入るのは意外な気もしましたが、全体の並びを見るとすごくバランスが良くて納得感もありました。VIOLENT ATTITUDEにはどういった経緯で出演することになったのでしょうか。
NARASAKI:Pazzさんからオファーいただきました。実は、各バンドに1人は知り合いがいるんですよね。SIGHとNEPENTHES以外は顔見知りでした。DOOMと前に共演したのはすごく昔ですね。Hi-STANDARDも出てた気がする。
Takeshi:HG FACTのイベントですね。
NARASAKI:そうそう。詳しいね! 俺より詳しい。
Takeshi:HGはDEF.MASTER(※DOOMの藤田タカシとの関わりも深い)もリリースしてたし。
──こういう音楽性の異なるバンドが近いところにいるのが日本のシーンの面白さだと思います。
Atsuo:VIOLENT ATTITUDEは、主催のDOOMからして音楽性がキメラだからね。キメラばかりが集まっているというか。
NARASAKI:それで、SHELLSHOCKもJURASSIC JADEもUNITEDも、二十歳くらいからずっとライブを観てますからね。先輩の胸を借りて、みたいな感じもありました。
──そういう同時代のバンドを意識して作品を作られてきたようなことはありましたか。DEEPERSもBorisも。それとも、他がどうだから自分はこうしよう、というのはあまりない感じでしょうか。『hello there』も、意識しているかはともかくとして、そういうドキュメントとしての文脈表現力も優れた作品だと思います。ある時期の日本のシーンに対する、すごく格好良い批評にもなっているというか。
Atsuo:日本人としてどうしても背負わざるを得なくなるようなことはあるけど、愛国心みたいなものは全然ない。今まで影響を受けてきたものから自分たちなりのものが生まれて、そうやって作り続けることが批評にもなるという感じですね。
──はい。エモ的な話で言うと、BUMP OF CHIKENや下北沢方面のロックがやってきたエモと、今回の『hello there』で表現されているようなエモとでは、近いんだけどそのまま繋がるわけではないですよね。いわゆる邦楽ロックでは、前者は主な軸の一つとして注目されてきたけれども、後者も重要なのにそちらはあまり注目されていない。『hello there』はそこに光を当ててくれた作品でもあると思います。
Atsuo:広い意味でのエモだよね。
Takeshi:そう。全然違うんだよねエモの定義が。僕の中では。
──言葉の意味も人によって違いますからね。
Takeshi:そうそう。メタルコアも同じで。
Atsuo:もう30年とかやっているから、いま流行っている音楽がどうだとかいうのは全然気にしてないし。ライフワークというか、極端なこと言えば農家さんみたいな感じですね。
Takeshi:ほんとそう。環境の変化にも対応して。
Atsuo:よりオーガニックな方向に行ってるかもね。品種改良じゃなくて。添加物もなるべく無くしたり、それで手売りしたりとか。僕らはそういう感じですね。
──Borisの作品で言うと、エモ的なこととはまた別に、2022年の『Heavy Rocks』では、インタビューで1968年以前の古いロックを遡ったという話をされていました。その一方で、実際に出力されたサウンドとしては、トランスレコード周辺から黎明期ヴィジュアル系に至る流れで評価できる要素が多かったりもします。
Atsuo:そうですね。
──こういう流れは、今までの日本のメタル関連の言説ではあまりフォーカスされてこなかったけれども重要な血脈です。そうしたことを、実際に素晴らしい作品を作っているミュージシャンが提示してくださったのが、文字で語る側からしても非常にありがたかったです。
Atsuo:このあいだ(2024年3月に)清春さんとオーストラリアをまわったのも、そういう流れを続けていくためというのもありましたね。GASTUNKやDEAD ENDからの日本のロックの流れが、僕らが清春さんと一緒にやることによって残っていくと思うし。
──そういったことが、今回の『hello there』や関連ツアーからも見出せるんじゃないかと思います。
Atsuo:そこはやっぱり、どちらのバンドも受けてきた文化的背景が近いというのもあるよね。
NARASAKI:俺はね、やっぱり90年代初頭の意識というか、D.R.I.みたいなクロスオーバーっていうところにすごく影響を受けている気がします。クロスオーバーをやってるんだなというか。そういう音にときめいてたね。S.O.Dが出てきた時に「メタルとハードコアが合体した!」みたいな。XのYOSHIKIが(後に言うところの)ヴィジュアル系とハードコアが半々になっている音楽をやっている、両方やっているというのも。
──今のお話で、VIOLENT ATTITUDEやトランスレコード周辺みたいなことが見事に繋がった感じがありました。
NARASAKI:今でもそういう、曲のイントロから変なことが起こってるみたいなやつに惹かれたり。そういうのがやりたいんだろうね。DEEPERSも、ニューウェーブとメタルとハードコアを一緒に聴いていたからこうなった、というだけな感じもする。ニューウェーブの冷徹な感じとか。スラッシュの走り続ける感じも、熱いというよりも工場的なものを感じるんだよね。ジャーマンメタルとかが好きなんで。ツタツタというよりは、ヒタヒタした感じ。
──ちなみに、そのジャーマンメタルというのは具体的にどのあたりのバンドでしょうか。
NARASAKI:Tankardとか、あのあたりですね。
Takeshi:昔、Assassinが好きって言ってましたね。
NARASAKI:そうそう。そういう感じかな。
──なるほど! すごく納得いきました。ジャーマンメタルというと一般的にはHelloweenみたいなメロディック・パワーメタルの系譜を指しますが、そうではなくてスラッシュメタルのほうですね。
NARASAKI:そういうのは俺的には軟弱でダメなんだよね〜。好きな方ごめんなさい。「なにメロディとかやってんの」みたいに思ってしまう(笑)。
──確かに(笑)。このフェス(筆者が着用していたNWN!/Hospital FestのTシャツを指して)に来ていたお客さんがよく着ていたのがSarcófagoのシャツで。ブラジルの、崩壊スラッシュとも言われるバンドなのですが、起伏のない曲調をブラストビートも絡めて走り続ける音像はインダストリアルと同じ感覚で聴けるものなんです。そして、それがノルウェー以降のブラックメタルにも大きな影響を与えているんですね。この感じはTankardなどにも通ずるものだと思います。
NARASAKI:うん。はいペッタン、次、はいペッタン、次みたいな。生産的、工場的な感じがする(笑)。
Takeshi:そのブラストビートも、本当に餅つきみたいな感じなんですよ。それで崩壊してる。
Atsuo:ジャーマンメタルというよりも、クラウトメタルと言ったほうがいいのかも。
──そうですね。プリミティヴな類のブラックメタルも、BPMが速いようで展開のスパンがゆっくりしているので、インダストリアルやアンビエントと同じような感覚で浸れるようなところがあります。
NARASAKI:俺、デスメタルも滅茶苦茶アンビエント感覚で聴いてますよ。
──わかります。という感じで話が広がってしまいましたが、DOOMもBauhausやKilling Jokeのようなニューウェーブの“自虐”“マイナス志向”に影響を受けていると言いますし(『ヘドバン Vol.5』掲載インタビュー)、VIOLENT ATTITUDEのラインナップはそういうところでも繋がる部分があるんだなと納得しました。
NARASAKI:うん。DEEPERSも、そうやって意外にナチュラルなことをやってきた結果こうなったというのはあるかもしれないですね。