早死にするよりしぶとくギターを弾いているほうが性に合う
──古くはブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン。近年ではカート・コバーンやエイミー・ワインハウスがいずれも27歳で他界しているのを“27クラブ”と呼ばれ、本作のテーマの一つにもなっています。伸一さんは27歳当時にそのようなことを意識していましたか。
藤沼:若くして死にたいなんて考えたこともなかったな。俺は昔からキース・リチャーズが凄い好きだったし、ヨボヨボのジジイになってもギターを掻き鳴らしていたいと思ってた。早死にしたい美学ももちろんわかるし、良い悪いも思わないけど、俺の場合はクソジジイになってもしぶとくギターを弾き続けているほうが性に合うってだけ。キース・リチャーズは79でまだ現役で、泉谷しげるは74でまだギャンギャン騒いでるでしょ?(笑) そっちのほうが面白いと思うもんね、俺はね。
──つくづくバンドとはナマモノというか、しぶとく長く音楽を続けたい伸一さんと、大別すれば破滅志向だったマリさんという両極端のギタリストが共存したからこその面白さが亜無亜危異にはあったと『GOLDFISH』を観て改めて感じました。
藤沼:マリは若い頃から早死にする奴らの美学が好きだった。だから、ハルの部屋にデヴィッド・ボウイのポスターが貼ってあったでしょ?
──はい。「ロックンロールの自殺者」(Rock 'N' Roll Suicide)というレパートリーのあるボウイのポスターが貼ってあったのは暗示的でしたね。
藤沼:本物の写真は使えないから、似たような絵を描いてもらったんだけどね。そこにハルがいつもオモチャの銃を打って遊んでるっていう。
──ハルの部屋の言えば、ハルの遺骨の前でガンズのメンバーが派手にケンカするシーンが不謹慎だけど笑ってしまいますね。ああいう場面も劇映画の良さの表れのように感じます。
藤沼:ですよね。この映画はテーマが暗いのかもしれないけど、俺は絶対ポップなものにしたいと思っていて。カラーリングも赤やオレンジといった鮮やかな色を入れたかった。
──ニコがコインランドリーの前で絵を描くのに夢中になるシーンがありますが、そこでも色の鮮やかさを強調していましたね。
藤沼:ランドリーマシンの中でオレンジや黄色の衣服がぐるぐると回ってるけど、あれはマリへのオマージュで、マリがメインで使っていたリンゴ型ギター(HSアンダーソン・カスタムヒューストン)の色を意識したんだよ。
──ちなみに亜無亜危異のメンバーは『GOLDFISH』を鑑賞したんですか。
藤沼:コバンは所用で来れなかったけど、茂と寺岡は去年の試写会で観てくれた。二人とも褒めてくれたよ。
──そう言えばカメオ出演というか、伸一さん、茂さん、寺岡さんも出演していましたね。
藤沼:売れないバンドマンの役でね。あれが俺たちの未来だなってことで。客が3人みたいな(笑)。あの服装は自前なんだけど、「凄くダサい服を着てこいよ」ってLINEしたんだよ。そしたらバッチリダサい服を着てきて(笑)。
──衣装と言えば、ハルが着ていた豹柄の服はマリさんが実際に着ていたものだそうですね。
藤沼:うん、あれはマリの本物。マリと仲良かった人に借りて、若いハルを演じた山岸と北村さんに同じ服を着てもらった。
──こうして一作を完成させて、2作目を早くつくりたいという構想はありますか。
藤沼:映画監督としてはまさにここからがスタートだからね。また撮るならやっぱり次も人間ドラマがいいかな。俺はミヒャエル・ハネケとかラース・フォン・トリアーみたいに物議を醸す作品を発表し続ける監督が好きなので、何の説明もなくぶん投げるような作品をつくってみたい。
──最近は説明過多の作品が多いし、伏線がちゃんと回収されないと文句を言う人たちも多いですよね。
藤沼:多いね。でも今回も説明を多くしないとダメだとスタッフには言われたんです。昨今は観る側の読解力が全般的に下がっているみたいで、アニメの世界でもセリフでちゃんと説明しないと伝わらないことが多いと。
──映画は虚構の世界とは言え、セリフでわざわざ説明するなんて白々しく感じてしまいますが。
藤沼:俺たちの世代はそうだよね。たとえば夫婦の仲が悪いのを散らかった部屋や目減りしたウイスキーの瓶、すれ違っても何の会話もないとかの描写だけで充分伝えられると思うけど、今は「何だよお前」とかセリフで仲の悪いことを表現しなくちゃいけないらしい。若い世代が映画を早送りする本も読んだけど、なるほどとは思うよね。同意できない部分もあるけどさ。
──撮影に入る前から映画の専門書を読み込んだりしたんですか。
藤沼:凄い量の本を読んだよ。映画術や演出、撮影の技法を学ぶために、『タランティーノ流監督術』とかいろいろとね。あと、絵コンテ用のネット講座を受けてみたり。知らないことは勉強しなくちゃいけないし、俺は学ぶのが好きなんだよ。そういう学びが、たとえば泥酔したハルが通りすがりの人たちに殴りかかるシーンに活きたりする。あれは臨場感を出すために絶対に長回しのワンカメで撮りたくて、北村さんにはカメラに映ってないあいだに嘔吐物に似せたフルーツジュースを飲んでもらったりした。『仁義なき戦い』もカメラはほぼ手ブレだし、血糊が画面に付いても全然OKでしょ? あれくらいの自由さが俺は好きでね。だから今回、スマホやトイカメラで撮った映像をあえて入れてみたりもした。普通は撮影部に嫌われるんだけどね。…どう? 監督っぽいでしょ?(笑) 最近は自分のことを“ギターも弾ける映画監督”と言ってるし、(スティーヴン・)スピルバーグに負ける気がしない。俺みたいに弾いてみやがれ! と思うし(笑)。
──それじゃ闘う土俵がギターになっちゃいますよ(笑)。
藤沼:そうか(笑)。まあ、皆さんのお力添えで何とか公開に漕ぎ着けられて良かった。6月に新宿ロフトでやるマリの七回忌のライブ共々よろしくお願いします。
藤沼伸一 撮影:松沢雅彦
スチール写真提供:太秦