リアルなことを歌ったものが普遍性に繋がる
──スゴイ! エンリケさんはもともとどんな音楽を? パンクは聴いてました?
エンリケ:最初に好きになったのはKISSで、Pink Floydを知ってプログレを好きになって、中3の頃にSex Pistolsがロンドンパンクって出てきて。『Music Life』とかの音楽雑誌にはPink Floyd、KISS、Queen、Sex Pistols、The Police…、全部一緒に載っていて混沌として面白かった。ピストルズは最初は軽いなぁって思ったんですよ。ただやっぱりどうしても気になるのは、シド・ヴィシャスが自分の腕の傷口を見せてる写真とかね。普通のティーンエイジャーが買う音楽雑誌に“マゾヒストのシド・ヴィシャス”なんてグラビアが載ってる。マゾヒストなんて言葉、こっちはわかってない。未知の世界だよね。で、フィルムコンサートで初めて動くピストルズを見て、血まみれでベース弾いてるシドを見る。
島:でもエンリケはKISS好きだったんでしょ。血ぃ流してるじゃん(笑)。
エンリケ:アレは血糊(笑)。で、The Clashも知って面白いなって思いつつ、一回そこから離脱しちゃった。やっぱプログレが好きだったからね。でもThe Stranglersはずっと好きだった。
島:ああ、べーシストとしては当然、ね。
エンリケ:そうそう。あのザクザクしたベース。パンクバンドで純粋に音も好きになったのはThe Strsnglersだな。あとベーシストとしては、矢沢永吉とポール・マッカートニー。
──あ、矢沢永吉はベースか!
島:そうだよ。永ちゃんは素晴らしいベーシストだよ。ポップセンスがあって。
エンリケ:音を聴けば永ちゃんのベースってわかるしね。
──とにかく2人はカオスな80年代を過ごし(笑)。
エンリケ:若い頃って、みんなそうかもしれないけど、凄いピュアでやりたいことをやろう、新しいことをやろうって思ってるでしょ。だからその後、へヴィメタルに突っ走った人、パンクに向かった人、ジャンルは違っても決して遠くないって気持ちが今も自分にはあって。
島:ああ、確かに。
エンリケ:音楽に対するピュアさは80年代に培われて変わってないっていう。
Photo by Miya Chikako
──今作の1曲目の「Down On The Road」はまさに『JUST A BEAT SHOW』の景色が浮かんできました。もうコレは『JUST A BEAT SHOW』の歌だ! って。
島:ああ、そうかも。そういうふうに聴こえたら嬉しいね。この曲はCROSS(島キクジロウ& NO NUKES RIGHTS)に発注して。作曲はCROSS。
──懐かしいって振り返ってるわけではなく、今の心情も伝わるし。
島:そうだね。若い頃って夢は全て叶うものだと思ってやってるけど、歳とったらそんなはずねえよって知っちゃうじゃん。でもさ、夢は叶わなくてもいいんだよ。そこに向かう途中が輝いてることのほうが重要。それが大事なんだ。だからこそ、まだ夢を追い続けてもいいんだってね。そうじゃないと輝けないでしょ。
──ああ、うんうん。今作、どの曲も今の厳しい現実と向き合ってるのにポジティブなんですよね。それは年齢やキャリアならではのタフさなのかなと。
島:そうかもしれないよね。
エンリケ:ペーソスがあるんですよね。たとえば「Rights and Freedom,HumanityⅡ」の、“ホントは聞いちゃいけないけど あなたワクチン 何回目?”とか。たぶんみんなが思ってたりすることで、でも聞くのに躊躇する。もう歌詞の通りなんだけど、そこに滲むペーソスというかね。
──ちょっとした皮肉というか。
エンリケ:だからこそ笑っちゃうでしょ。
島:この曲は「Rights and Freedom,HumanityⅡ」で、元歌があるんだけど歌詞を変えたのね。今って1カ月経つと古くなることがあるからね。リアリティを保てなくなって、歌いづらくなるものもある。だから歌詞も変えて。
──そういう瞬発力や時代性は重要だと思うけど、歌い継がれていくという普遍性についてはどう思う?
島:俺の感覚では、最初から普遍的なものを意識するより、具体的でリアルなことを歌ったものが普遍性に繋がると思うんだよね。太宰治の小説がそう。志賀直哉と太宰治の差はさ、志賀直哉は私小説で終わっちゃう。でも太宰治は何十年経っても、“そうなんだよな、痛いとこ突いてくるな”って切実に思える。どっちも具体的なストーリーを書いてるんだけど、視点の差なのか。太宰治だって普遍性なんて求めてなかったと思う。だけどいつまでも響く。
──確かに。そもそも普遍的なものを作ろうって思うのがおかしいわけで。
島:そうそう。それは後々の評価だからね。
──ですよね。最初から普遍なわけがない。
島:そうだよね。だからパンクが聴き続けられるのもそういうとこでさ。そのリアリティ、その切実さ。そういのがあるからでしょ。そういうのが時代を超えて求められる。