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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】吉村秀樹×名越由貴夫 - bloodthirsty butchers『kocorono 完全盤』完成記念特別対談「憂色に包まれた12ヶ月の物語、失われた一篇の歌が加わり遂に完結──」

【復刻インタビュー】吉村秀樹×名越由貴夫 / bloodthirsty butchers『kocorono 完全盤』完成記念特別対談
憂色に包まれた12ヶ月の物語、失われた一篇の歌が加わり遂に完結──

2021.11.12

常軌を逸した「7月」のベース・ライン

──未だにライブで「7月」が披露される時のオーディエンスの反応たるや凄まじいものがあるし、ブッチャーズの数ある名作のなかでもこの『kocorono』だけがファンから特別な感情を持って迎えられているのはなぜなんでしょうか。

吉村:音とのタッグもあるし、精神性もあるしね。一番印象にあるのが「7月」のギター・ソロを上に入れる時でさ、スタジオに遊びに来る人たちに対して正直来ないでくれって思ってたね(笑)。こっちはどうしたらいいんだろう? ってずっと悩んでるんだから。その人たちに「“極東最前線”に行きたいなぁ…」とか言われて、「ああ、みんなで行ったら?」って答えてさ。しめしめ、これで「7月」に集中できるぞと思ってね(笑)。あのギター・ソロだけは弾いてるところを誰にも見せずに、名越君とタッグを組んでやりたかったんだよ。音像でもの凄い悩んでたからね。

名越:「7月」は曲自体がアルバムの肝だったし、あの曲だけ1日に1回は録ってみることにしたんだよね。最終的にいいなっていうテイクは2つくらい残ってたかもしれないけど、毎日トライはしてたんだよ。『kocorono』を一緒に作ることになって最初に聴かせてもらったのも「7月」のデモだったしね。

吉村:どう足掻いても射守矢のあのベース・ラインにはかなわなかったね。絶対におかしいんだよ。「この人、常人じゃないな」っていうベース・ラインで、それに対して俺たちは何をすればいいんだ!? ってずっと悩んでた。頭がバラバラになるようなホントに凄いベースだったんだよ。プログレでもないよなぁ…って言うか。

名越:ある種、天才的なコード感だったよね。

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──やはり、「7月」のリマスターも相当手こずったんですか。

名越:うん、「2月」同様に。もしかしたら「2月」以上に大変だったかもしれない。最初に「7月」の出来に納得してから「2月」に取り掛かったのかな。一番立ち止まったのは「7月」と「2月」だった。

吉村:俺はよくアナログのマスター・テープが残ってたなと思ってさ。

名越:プロトゥールスとかデジタルで録ったものでちょっと中高域の抜けを良くしようとすると、そこが凄く耳に付いてうるさいんだよね。でも、元がアナログだと下も意外としっかり残っていて、アナログの底力を実感したよね。まぁ、簡単に分離してくれないところはあるんだけどさ。

吉村:余裕と迷いみたいなものが凄くあるんだよね、音のなかに。

──それってブッチャーズというバンドそのものな感じがしますけど(笑)。ところで、名越さんがマスターテープのそばに積み木みたいなものを置いて、その位置を絶えず動かしていましたけど、あれは何なのですか。

名越:いわゆる制振材っていう振動を抑えるためのものだね。オーディオおたくの人たちがよく使うんだけど、回転してるものは振動に左右されて音がブレたりするわけだよ。

吉村:レコード・プレーヤーの下に置くインシュレーターみたいなものだよね。

名越:そうだね。大抵は機器の下に置くんだけど、上に置いても多少効果があるので。

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──積み木の上下に白いプレートみたいなものがあって、それを付けたり外したりもしていましたね。

名越:個数を変えたりね。あれを売ってるガレージ・メーカーのおじいさんはあの形と重さに辿り着くまで何度も試したらしいんだけど、あの上下の白い部分はアルミの酸化物をセラミック加工していて、セラミック包丁とかと同じ素材を使っているんだよ。制振材っていうのは振動を抑えすぎるのも良くないらしくて、それにはアルミの酸化物がほどほどでいいみたいなんだよね。その間に木を挟むと、音も固すぎずに中域も出るってお爺さんが教えてくれてね。その木も黒檀がいいって言うからそれにして(笑)。

──実際、効果はてきめんだったんですか。

名越:うん、あったね。

吉村:家で自分の指をCDプレーヤーに当てながら音を聴いてみなよ。それでも全然違うから。とにかく、音が変わった瞬間のあの抜け感ったらないよね。

名越:パッと聴いてそれで良ければ制振材を試さなくてもいいと思ったんだけど、オープンリールを回してる時点で「もしかしたら…」と思って下に薄いのを敷いたら「あれ!?」ってくらい音が変わったからね。

──あと、「12月」が一段と迫力と凶暴性を増したように個人的には感じたんですが。

名越:特にそこだけ強調したつもりはなくて、ちょっとしたサジ加減でそういうのが際立つんだよね。どの曲も常に頭のなかにあったのは、「より生演奏に近くなるように」っていうことだったんだよ。

吉村:レベルとかそういう問題じゃなくて、「12月」のリマスターは凄くいいよね。倍音も凄くヘンな位置に散りばめられてるし、それがふんわりした俺の大のお気に入りな感じになってる。あの倍音は心が躍るね。

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kocorono【完全盤】

BELLWOOD RECORDS KICS-90587
¥2,934(税込)
2010年3月10日発売

【収録曲】
01. 2月/february
02. 3月/march
03. 4月/april
04. 5月/may
05. 6月/june
06. 7月/july
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