「絶景かな」は自分なりの「この素晴らしき世界」
──映画のゼロ号試写でPANTAさんが関係者に挨拶した際、「絶景かな」にはサッチモことルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」(「What a Wonderful World」)に通ずるテーマを持たせたと話していたのが印象に残ったのですが。
PANTA:その昔、若い兵士たちを前にサッチモが「この素晴らしき世界」を唄うことがあってね。「緑の木々が見える、赤いバラの花々も僕と君のために咲いている。なんて素晴らしい世界なんだ」って。そんな意気揚々と唄ったサッチモに、友人が「彼らがこれからどこへ行くか知ってるか?ベトナムだぞ」と言う。「半分以上は母国へ帰ってこれないんだぞ。そんな兵士たちの前で『この素晴らしき世界』を唄ったのか?」と。それでサッチモはものすごく苦悩するわけだよ。そんなエピソードを聞いて、自分が60歳になった時に「この素晴らしき世界」を唄える価値のある人間になれていたらいいなと思っていた。今回、この映画のために「絶景かな」を書き下ろして、はたと気づいたんだよ。なんだ、これは自分なりの「この素晴らしき世界」じゃないか、って。
──コロナ禍を背景にしたまっさらな新曲でエンドロールを飾る、最新形の頭脳警察を見せながらドキュメンタリーの幕を降ろすというのが実に粋ですよね。
PANTA:さっきも話したけど、瀬々監督の映画の最後では「これがオレ達の世界、ごかましきれない世界」とTOSHIと二人で絶叫したわけだよ。それから10年以上を経て、今度は「絶景かな」という自分なりの「この素晴らしき世界」でこのメンバーと一緒に締め括れるのが自分ではいいなと思ってね。それも竜次と岳は頭脳警察が再結成した1990年から91年にかけて生まれた世代で、そこに大きな意味があるんだよ。
TOSHI:じゃあ俺は、あとはコロナに罹って死ぬだけだな(笑)。
PANTA:そうなったら雲の上から「絶景かな」って言えばいいよ(笑)。
──このインタビューが公開されるのは頭脳警察初の無観客・配信ライブを敢行された後だと思いますが、配信についてはどうお考えですか。
PANTA:俺自身は配信に対して積極的に賛成でもないんだけど、今や日本で一番ベテランの域にいる俺たちみたいなバンドが配信をやってみるのもいいなと思って。多分この先、従来のライブが盛んになってきたら配信は廃れてくると思うんだよ。だから頭脳警察の配信ライブは最初にして最後になるかもしれない。まあ、頭脳警察のことだから配信まで禁止されることがあるかもしれないけど(笑)。
TOSHI:パソコンの画面が真っ黒になったりしてね(笑)。
PANTA:AIとの共存が今後どうなるのかをいつも考えてはいるけど、これからのライブの在り方を考えていく以上にこれからの音楽がどうなっていくのか、どう考えたらいいのかが常に頭の中にあるね。この状況下でみんな悩んでいるし、いろいろと考えていると思うけど。みんなはどう考えてる?
おおくぼ:僕は「七十二候」というピアノソロによるプロジェクトでいち早く配信リリースを始めました。音楽の聴き方はいろいろあるし、ライブにこだわらなくても別の方法を探る選択肢もあると思うんですけど、僕自身はライブを観て育ってきたし、何よりライブが好きなのでライブをやりたい気持ちがありますね。配信は配信で良いと思っていて、ツアーでなかなか行けない場所はもちろん、世界中の人たちに観てもらえる利点がありますよね。
PANTA:それはオーケンも言ってた。配信することで地方の人たちが喜んでくれるって。だけどいろいろと考えるよね。それまで王侯貴族や教会のために曲を書き、BGMでしかなかった時代を経てベートーベンが音楽を自分のライブとして演奏し、エジソンがレコードを発明するとレコードを売ることがビジネスになってきた。その時代が100年以上続いたおかげで俺たちは音楽を享受することができた。レコードがなければ音楽と接することはできなかったからね。それが今やCDすら売れない時代、配信やサブスクリプションの時代になったけれども、この先のことは誰もわからないよね。何をやっても正解、何をやっても不正解の時代なんだと思う。
──だからこそ頭脳警察がこの時代にどういう動きを見せるのかが楽しみなんですよ。
PANTA:どうなるだろうね。だって、今や人間よりも上手く演奏するAI、いい曲を書くAIなんていっぱいいるわけで。新しいボーカロイドなんて人間の声を超えているもんね。
──そのうちAI美空ひばりのようにAI頭脳警察が出てきますかね?
PANTA:うーん。となると、俺はお払い箱ってことか(笑)。だけどそういう時代になってくるかもね。
樋口:AIのTOSHIさんが現れたり…?
TOSHI:ああ、それはちょっと楽しいね。
PANTA:TOSHIのアバターまで面倒見きれないよ(笑)。まあそれはともかく、今は誰しもがトライ&エラーの時期だよね。だけどこのメンバーの頭脳警察としてやりたいことはまだあるし、まずは今回のドキュメンタリー映画を観てほしいね。瀬々監督の映画とはまた違った内容に仕上がったし、竜次や岳と同じ若い世代にもぜひ観てほしい。それが後で大きな力になってくると思うから。では最後に、監督から一言どうぞ。
末永:上映中止は何とか避けられそうなので、あとは鑑賞券の不買運動が起きないことを祈るばかりです。
PANTA:映画はスウィート路線じゃないから大丈夫だよ(笑)。