年を跨ぎ、今年の2月2日に行なわれたPANTAとTOSHIの古希の祝い生誕祭を以って完結した頭脳警察の結成50周年プロジェクト。その直後に新型コロナウイルスの世界的感染拡大により、あらゆるカルチャー、エンターテイメントは表現を制限され、今なお未曾有の危機に直面している。そのさなかに末永賢監督によるドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』が紆余曲折を経て完成、7月18日(土)より新宿K's cinemaほかで全国順次公開される。半世紀の節目を迎えて充実した活動を展開した2019年の動向に焦点を当てながら頭脳警察の軌跡と豊潤な音楽性を大スクリーンでテンポ良く魅せる本作は、既存のファンはもとより予備知識のないビギナーでも充分楽しめる娯楽作だ。
この時期に公開される以上は決して避けて通れぬコロナ禍における世界を頭脳警察は映画の最後に流れる「絶景かな」という新曲に投影しているが、それは常に時代の映し鏡の如き歌を唄い続けてきた頭脳警察ならではの、未知の脅威と抗いながら生きていく高らかなアンセムのように聴こえる。「歌は世につれ世は歌につれ」というが、世が歌につれることなど決してない中で世につれぬ歌だけを世に突き付けてきた頭脳警察だからこそ、彼らの歌は閉塞した時代の道標に思えてならない。
自粛生活が続き、3カ月振りに再会したというメンバー全員(PANTA、TOSHI、澤竜次、宮田岳、樋口素之助、おおくぼけい)に今回のドキュメンタリー映画について、アフターコロナ時代の音楽の在り方について聞いた。(interview:椎名宗之)
コロナ禍を逃れた結成50周年プロジェクト
──まず、昨年(2019年)の怒涛の結成50周年イヤーを振り返ってみていかがですか。
PANTA:とりあえずよくやれたと思うよ、コロナ禍の今となってみれば。これでコロナウイルスの感染拡大がもっと早ければ50周年のイベントは全滅だっただろうね、水族館劇場から何から。現に今年の水族館劇場の公演(『乾船渠八號DRY DOCK NO.8』)は花園神社の境内に特設舞台を組んだにもかかわらず、公演を一切やれずに壊したんだから。
TOSHI:確かに危ないところだったけど、水族館劇場の舞台でライブもやれたし、新しいアルバム(『乱破』)も作れたし、50周年はいろいろやれて楽しかったよ。
PANTA:一昨年の秋にLOFT9 Shibuyaでトークとライブをやったのが新生頭脳警察の初お披露目だったっけ?
樋口:いや、あれは2回目ですね。
澤:その前にLa.mamaでやったライブがお披露目でしたね。それ以降、地方へライブしに行ったり、もう本当に楽しくて。打ち上げで毎回めちゃくちゃ熱く語ったりして。
──映画にも幼稚園以来のコンビである竜次さんと岳さんが宴席で語らうシーンがありましたね。
PANTA:あれは何回観ても笑えるよ。それまでの良いシーンが全部喰われちゃうんだから(笑)。
──岳さんが酔った竜次さんに一言、「暑苦しいんだよ」と言うシーンですね(笑)。そんな岳さんは50周年イヤー、いかがでした?
宮田:出してる音そのまんまで突っ走った感じですね。それをやるべきとも思ったし。
──おおくぼさんは?
おおくぼ:僕は去年の4月から合流したんですけど、9月にアルバムを出して、今年の2月くらいにやっと新しいバンドらしくなったと思ったんですよ。50周年を迎えてようやくスタートを切れるというところでコロナが感染拡大したので残念ですね。
──おおくぼさんのスタジオでPANTAさんがアレンジを指示するシーンがありますが、あれ完全に三密でしたね(笑)。
PANTA:おおくぼけいの作業部屋が映像に出てくる、全国で上映されるなんて初めてじゃない?
おおくぼ:初めてですね。人に見せたことがなかったので。
──あのシーンを見ると、「乱破者」のアレンジがいかに練りに練られたのかが窺えます。
PANTA:まあ、もう少し音楽的用語を使った教養のある会話だったら良かったんだけど。「そこをガツーンと」とか「ガーッと」とかだったから(笑)。
樋口:そんなやり取りでよくアルバムが一枚出来ましたね(笑)。
──それにしても、映画が無事完成して公開に至るようで何よりです。僕が1年間MCをやらせていただいた『PANTA暴走対談LOFT編』にも毎回撮影クルーが同行していて、あれだけ膨大な映像を撮りながら本当にまとまるのかと心配でしたが(笑)。
PANTA:ホントにね。そうだよ、『暴走対談』だってコロナがあったらアウトだったもんね。
──はい。頭脳警察の映画と言えば、2009年に公開された瀬々敬久監督の『ドキュメンタリー頭脳警察』という決定版があったわけですが、今回の映画化の話を受けた時にそれと内容が被る心配はなかったんですか。
TOSHI:今度の映画に関しては、いつオファーを受けたのかもわからないので(笑)。気がついたら撮られていたんですよ。
PANTA:TOSHIの髪型の変遷が見て取れるよね。「あ、毛があるじゃん!」とか思ったりして(笑)。まあそれはともかく、今回の映画は瀬々監督の315分に及ぶ超大作とは方向性が違うから内容が被る心配は特になかったね。ただ、瀬々監督の映画の最後では西部講堂で「これがオレ達の世界」と唄い(「オリオン頌歌第2章」)、今回の映画の最後ではコロナ禍の中で「絶景かな」を唄って終わるのが自分ではすごく意味深だと思う。両作品につながっているものがあるように感じる。
TOSHI:つなげるなよ。PANTAが勝手に解釈するとろくなことがないから(笑)。
PANTA:これでコロナのせいで映画が上映中止になろうものなら、アルバムの発売中止と回収処分が続いた頭脳警察の逸話がまた増えちゃうよ(笑)。