ライブとスタジオ音源を意図的に差別化
──矢満田さんと熊田さんは西牧さんの書くラブソングの歌詞を率直なところどう捉えているんですか。
矢満田:ああ、失恋しちゃったんだなぁ…とか状況が分かりますね(笑)。そんなに分かりやすい歌詞じゃないと言うか、遠回しな表現や比喩があるのに何となく状況が分かるのはいいなと思うし、私自身は好きですね。ハッピーな歌詞を書いてきたら素直におめでとうって言いたいし(笑)。
熊田:私も男の子らしい歌詞でいいなと思うし、男の子ってこう感じるのかぁ…って思います。ノンフィクションみたいで気取ってない感じもいいし、いま彼女とはこういう感じなんだなというのが手に取るように分かりますね。
──メンバーにも筒抜けなわけですね(笑)。
西牧:嘘はあまりつけないので。
──10代最後の恋を唄った「少年と海」なんて、恋の古傷を自分からえぐりまくってますもんね(笑)。
熊田:人の経験なのになぜか自分にも重なる歌詞なんですよ。だからすごく共感できる。
──西牧さんは恋愛体質なんですかね?
矢満田:恋愛をしてなきゃダメってタイプではないよね。
西牧:うん。今回はたまたまずっと片思いをしていた人がいたっていうだけで。
矢満田:すごく一途なんだと思う。軽く好きになるんじゃなくて、のめり込んで愛してしまうタイプなんじゃないかな。
──「少年と海」と「ブルーブルーブルー」を打ち返す波の音でつなげるのは粋な演出ですね。
西牧:それも浜田省吾さんからの影響です(笑)。浜田省吾さんの曲にSEとして波の音を入れたのが何曲かあって好きだったので、今回は当然のように入れました。
──何かが始まる期待に胸が躍るようなメロディの「ブルーブルーブルー」は明朗快活でアルバムの締めに相応しいし、最後にまた波の音で終わる構成がニクいですね。
西牧:その波の音の後にもお楽しみがあるので、最後の最後までちゃんと聴いてほしいですね。
──全体的にとてもよく練られた構成だと思うし、アルバム一枚を通して一篇の物語として完結していますよね。
西牧:そうしたかったし、全体に流れを持たせたかったんです。今は配信全盛の時代だけど僕らはCDとして聴いてもらいたいので、7曲がすべてつながっているアルバムにしたかったんです。前作(『CENTER OF THE YOUTH』)も7曲の流れを気に留めて作りましたし。
熊田:自分で考えてきたフレーズがいくつかある中で、「少年と海」のギター・ソロはぜひ聴いてほしいです。右から左へ音を振ってもらっているところは、私としてはカモメをイメージしながら弾いてみたんです。あと、みんなと出会った時にやってたバンドの曲のフレーズを加えたりして、自分の中で過去と現在をつなげてみたところもあるんです。
矢満田:そういう和花さんらしいギターが入ってるのもそうだし、「少年と海」は新しいことを詰め込めた曲なんです。CASANOVA FISHとしては初めてあそこまで綺麗なコーラスを入れてみたりもしたので。ライブとはまた違った音源ならではの良さがあると思います。
──たしかに荒くれた轟音爆音を容赦なく叩きつけるいつものライブに比べると、音源は全体的にだいぶおとなしく聴こえますね。
西牧:それは意図したことで、あえてライブとは違う音作りにしたんです。ライブはライブの面白さがある一方、音源はすごく綺麗な音にしたかったんですよ。
熊田:音源から入った人がライブに来た時に衝撃を覚えるのもいいんじゃないかと思って(笑)。
西牧:今後はもっとバラードを増やして、バラード・バンドと勘違いさせた後にライブで衝撃を与えたいですね(笑)。
──前作も今作もミニ・アルバムという体ですが、フル・アルバムを作るのはまだ早いと考えているんですか。
西牧:作らせてくれるなら作りたいですけどね。
──いつかフル・アルバムを作る時も再録より新曲を入れたい?
西牧:そうですね。漠然とフルを作るならと考えることがあるんですけど、新しいストーリー、新しい曲を作りたい気持ちが強いです。長野県民が海へ行った経験はもう使えないし(笑)、今後はもっとフィクション作りが上手くなりたいです。