結成からまだ僅か3年、西牧嵩大(g, vo)、矢満田奎那(b)、熊田和花(g)、勝田史也(ds)という平均年齢20.5歳のメンバーから成るCASANOVA FISHの魅力はとても一言では言い尽くせない。向こう見ずに暴れ回り、感情を鷲掴みにするエネルギーと爆発力に満ちたライブは耳をつんざく轟音こそが正義と言わんばかりの大音量、大咆哮、大熱演でただただ圧倒されるばかりだが、『FLASHBACK IN MY DREAM』と題された初の全国流通盤では際限まで緻密かつ繊細な音作りが施され、一体感のあるアンサンブルが織り成す情緒豊かな表現力、普遍性の高い楽曲のクオリティに思わず舌を巻く。突然変異の如く現れたこの期待のルーキーの出自を探るべく、メンバー全員に話を聞いた。(interview:椎名宗之)
音の隙間を爆音で埋めていた3ピース時代
──今はどれくらいの頻度で東京でライブをやっているんですか。
西牧:女子2人は東京に住んでて、僕らは長野に住んでるんですけど、東京は月に2、3本とか。ライブ自体は月に8本から10本くらいですかね。ギターの和花が今年の2月に入るまでは3人でバンドをやっていて、当時は僕も就職していたので土日しかライブをやれなかったんですよ。それでも6本くらいはやってましたけど。でも今は全員がフリーターになって、平日でもライブをやれるようになったんです。
──退路を断ってバンドに打ち込むことにしたと?
西牧:もはや背水の陣ですね(笑)。
──西牧さんと勝田さんが今も長野在住なのは、何かこだわりがあってのことなんですか。
西牧:まぁ、そこに生まれ育ったので(笑)。東京に移り住んだほうがもっとライブがしやすいのは分かってるんですけど、僕の肌には合わないし、東京に住むのは自分にとってハードルが高いことなんです。
──東京に住んでしまうと楽曲の作風が変わってしまう?
西牧:どうなんですかね。もし東京に生まれ育っていたら、今回の『FLASHBACK IN MY DREAM』はできなかったアルバムかもしれない。こういうストーリーはきっと生まれなかったと思います。
──CASANOVA FISHのオリジナル・メンバーは西牧さんだけなんですよね。
西牧:結成時のメンバーは僕しかいなくて、半年で自分以外のメンバーがやめたタイミングで史也さんと奎那と当時のギターが入ったんですけど、そのギターも3カ月くらいでやめて、それから2年くらい3人でやってました。和花とは1年以上前に出会ってはいたんだけど、すぐには入らなくて。
熊田:当時、私は別のバンドをやっていたので。CASANOVA FISHと出会ってちょっとしてからそのバンドが解散して、バンドをちゃんとやれていなかったんですけど、ふとしたタイミングで嵩大さんからCASANOVA FISHを一緒にやらないかと電話がかかってきて。
西牧:とあるライブハウスの店長に「キミはギターがヘタだからギターを入れたほうがいいよ」と言われたので電話しました(笑)。
──結成当初からメロディアスな楽曲を轟音で弾き倒すスタイルのバンドだったんですか。
西牧:いま僕はストラトキャスター、和花はジャズマスターを使ってるんですけど、結成当初は僕がレスポールを使っていたので曲調も雰囲気も全然違うバンドだったんです。初期メンバーが揃ってやめた段階で今のスタイルにガラッと変えました。
──ガラッと変えた時にストラトを使うようになったと。
西牧:その時はジャガーでした。カート・コバーンが好きだったので。カートはハムのジャガーだったけど、僕はシングルコイルのジャガーにして。ただ間違えて買っただけなんですけど(笑)。もっと言えば、テレキャスを買うつもりがジャガーを買ってしまって(笑)。
西牧:今は当時の延長線上にはあると思うんですけど、やっぱり当時とはちょっと違うことをやってるように思いますね。ギターは自分一人で満足に弾けなかったし、結成当初も4人だったからギターが2本ある音楽をやりたかったし。3ピースのバンドももちろん格好いいと思うけど、自分のルーツ的な部分ではないんです。結局、ビートルズとかナンバーガールとか、4ピースのバンドが好きなんですよ。
──4ピースになったことで、西牧さんが歌に専念できるようにもなったのでは?
西牧:それよりも演奏が以前に増して楽しくなりましたね。できることが増えたので。
矢満田:たしかに演奏はすごく楽しくなりました。3人の時は音がスッカスカだなぁ…って感覚だったし。
勝田:そんなこと思ってたの!?(笑)
矢満田:スッカスカを異常に大きな音で埋め合わせるみたいな。そんな感覚がたまにあった。
西牧:今は逆に、音数が増えてちゃんと演奏をしなきゃいけなくなったんですよね。3人の時は雑な演奏でも良かったけど、今はごまかしが効かなくなった。自分が弾かなくていいところもあるけど、弾く時はちゃんと弾かなくちゃいけない。そんな感じでごまかしが効かないぶん、演奏の楽しさを知ったところはありますけどね。
──熊田さんがソロを弾く時は、西牧さんがしっかりとリズムを刻まなきゃいけないとか。
西牧:ギター・ソロの時はだいたいぶら下がってるんですよ。
──熊田さんの演奏に?
西牧:いや、ステージの上に吊ってある棒みたいなものに。
──ああ、物理的にぶら下がるんですか(笑)。
西牧:はい。一度、頭から落ちて死にかけたことがありました(笑)。