再録よりも新曲を書き下ろすことを選んだ
──今回発表される『FLASHBACK IN MY DREAM』は初の全国流通盤ということで、これまでの代表曲を再録する発想はなかったんですか。
西牧:最初はそう思ったんです。だけど周りのバンドが全国流通盤を出す時、よく自主制作盤のベストみたいになるじゃないですか。そういうのが個人的な意見として面白くないなと思って。それでレコーディングの1カ月前になって新曲を入れることに決めたんです。「深夜徘徊少年少女」、「今夜は私も眠れない」、「夢で逢えたら」、「少年と海」の4曲を。
──レーベル元はライブで盛り上がる定番曲を入れたいだろうし、反対されませんでした?
西牧:「大丈夫なの?」とは言われました。
熊田:私も同じことを言いました(笑)。
西牧:ライブで盛り上がる曲と同じくらいパワーのある曲をこのタイミングで作れなければ、この先だって作れないと思って。結果的に定番曲と同じくらい武器になる曲ができて良かったです。
勝田:多少不安ではありましたけど、彼の作る曲はどれもいいので。
矢満田:ただ急に新曲をやりたいと言うので、けっこう話し合いもしましたね。今までやってきて初めてちゃんと全員でアレンジを詰めたし。それまでは弾き語りで持ってきたのと同じコードを弾いてたんですけど、今回は全員がかなり細かいところまで曲作りに参加できたんです。だから結果的に4人とも満足できたアルバムになりました。
西牧:レコーディングの前夜までずっとアレンジを詰めましたからね。
──デモの段階からガラッと変わった曲もあるんですか。
矢満田:「夢で逢えたら」は全然違ったよね。
西牧:うん。イントロのフレーズが最初は全然違ったし。CASANOVA FISHは銀杏BOYZとナンバーガールが好きそうなバンドだと周りから思われがちだったと思うんですよ。もちろん好きではあるんだけど、僕のルーツはそこじゃなくて浜田省吾さんなんです。新たに書き下ろした4曲は浜田省吾さんみたいな曲にしたかったと言うとおこがましいですが、一度自分のルーツに返ってみたかった。それこそが店頭に並んでほしい自分の音源だったので。
──その4曲が浜田省吾さんらしいというのがいまいちピンと来ませんけど(笑)。
西牧:僕なりにポイントがあるんです。コード進行やサウンド的にも今までとは違うし。
熊田:たしかに前の音源と聴き比べたら差があるとは思います。
西牧:今回の音源を作ったことで、バンドとしてはすごく前へ進めたと思いますね。
──以前にも「海まで」という曲があったり、今回のアルバムにも「少年と海」や「ブルーブルーブルー」という海をテーマにした曲がありますが、ここまで海に固執するのはなぜなんでしょう。
西牧:この話をすると長くなりますよ?(笑) 簡潔に言いますと、自分にとって海へ行くことは大変なイベントなんです。長野には海がないし、行くなら上越や神奈川のほうまで行くしかないんですよ。以前、とある女の子と一緒に車で江の島へ行ったことがあって、それが僕の中ではとても大きな出来事で、今回のアルバムに入れた7曲はその出来事に端を発したものなんです。だから自分の中ではコンセプト・アルバムでもあるんですよ。いろんな思い出が夢の中でフラッシュバックするっていう。
──アルバム・ジャケットには浜辺に長野の特産であるリンゴがドーンと写っていますが、これもコンセプトの一環なんですね。
西牧:はい。長野県民が海へ行った物語なので。
熊田:そのリンゴも長野のブランド〈ふじ〉で、品種までちゃんとこだわってるんです(笑)。
──「深夜徘徊少年少女」のMVも朝陽が昇る夜明けの海岸で撮影されていましたね。
西牧:あれは江の島ではなく、三浦市の剱埼灯台の近くで撮りました。
──MVを制作するくらいだから「深夜徘徊少年少女」は本作でも一押しの曲なわけですよね。〈抱きしめて 抱きしめてほしいのさ〉というサビのメロディとコーラスが流麗で、一度聴いたら忘れられない曲ですし。
西牧:何と言うか、自分にとってもあって良かったと思える曲です。
矢満田:最初に聴いた時、全員が「これだ!」と思ったよね。
熊田:加入前からCASANOVA FISHの曲はすごく好きで、対バンした時にもらった音源以外の曲もすぐに唄えてすごくキャッチーだなと思っていたんです。歌詞も面白いし、メロディも覚えやすいし。「深夜徘徊少年少女」もCASANOVA FISHの持ち味がよく出た曲だと思います。
──歌詞を読むと現在進行形の順調な恋を唄ったようにも思えますが。
西牧:上手くは行ってないですよ。〈抱きしめたい〉ではなく〈抱きしめてほしい〉と唄う曲なので。実を言うと、新曲を書くぞと言っておきながらずっと曲ができなくて、「深夜徘徊少年少女」は4曲の中で最初にできた曲なんです。それからすぐに他の曲も書けたんですけど。
熊田:歌詞の通り、〈トンネルを抜け〉られたね(笑)。
西牧:曲作りのスランプは抜け出せたけど、失恋のトンネルはまだ抜け出せてないかも(笑)。