吉村秀樹のギターとツバメスタジオのビッグマフを使った「糸電話」
──「丘の上そびえる団地達」や「砂利の駐車場」といったフレーズには具体的なイメージがあったんですか。
加倉:団地が唯一、具体的に自分が思い浮かべていたものなんです。
小松:ブックレットにあるミサトちゃんが撮ってきた写真のなかにも団地があるもんね。
加倉:まさに「郷」の歌詞があるページですね。札幌の団地の写真なんですけど。
小松:団地妻に憧れていたとか、そういうこと?(笑)
加倉:違います。話の流れを変えないでください(笑)。
──ミサトさんは実際に団地に住んでいたことがあるんですか。
加倉:幼少期に留萌の団地に住んでいたことがあるんです。小松さんも留萌出身で、時期が被っていたのかわからないんですけど、実際に坂道を登った丘の上の団地に住んでいました。そのことを思い浮かべて歌詞を書いたんです。
──「センボウノゴウ」のモデルになった留萌の千望台の周辺にもロシアっぽい建物の団地があるし、不思議な接点が感じられて面白いですね。いずれにせよ、この「郷」はライブでも切り札となる楽曲として成長したのでは?
小松:自分たちにとっても大切な曲だし、ライブの1曲目でも最後にやっても締まる曲なんですよね。だからスプリットとはまた違った形で自分たちのアルバムに収録できて良かったです。
──不穏な感情が暴発するような「クラッシュド」は、アルバム後半のフックとも言えるインストゥルメンタルですね。
小松:ライブでも実際、いいフックになっていますからね。ミサトちゃんは最初にフレーズを持ってきた時からインストにしようと思ってたの?
加倉:その辺はあまり意識してなかったんですけど、もし声を入れるなら叫びかな? とは思っていました。歌を入れるか、インストになるかはいつも深くは考えていないんですけど、自然と歌が増えてきた気がします。かくら美慧としてソロをやらせてもらったり、二宮(友和)さんとミサトとトンカツをやらせてもらったことも関係していると思うんですけど。
──アルバムの最後を飾る「糸電話」は、SOSITEには珍しいラブソングですよね。
加倉:そうですね。SOSITEでこういう曲を書いたのは初めてだと思います。
──「かたく繋がった糸」=赤い糸を信じる少女の淡い恋心が静逸なトーンで唄われていて。
加倉:純粋なと言うか、青いと言うか…。
小松:最初はテンポが全然違ったと思うんだけど、僕としてはとにかくゆっくり静かな感じにしたくて、そういう雰囲気作りを心がけましたね。さっきも言ったように、この曲では僕がチャラーンとギターを弾いているんですよ。あと、吉村さんから譲り受けたフェンダーの青いギターを重ねたんです。ライブで「7月/july」とかで使っていたやつですね。ミサトちゃんはアームを使ったことがないし、ダビングで入れてみようと思って。初めて弾いたわりにはモワーンとしたいい音が出ましたね。
──話を伺っていると、今回のアルバムは随所で今までにないトライをしていることがわかりますね。
加倉:たしかに自分たち自身でも今までのアルバムとは違う手応えを感じています。9曲揃って1冊の本みたいと言うか、アルバム全体でひとつの物語になっているように思えますし。
小松:1曲ごとのアレンジを納得のいくところまで詰めるのは今までと変わらないんだけど、アルバム全体のイメージや雰囲気を統一することには今回だいぶこだわりましたね。そのためのディスカッションをミサトちゃんといろいろしたけど、自分としてはそのこだわりを突き通せた気がします。
── 一作ごとに着実に進化しているのが窺えますよね。小松さんが加入した時はここまで面白いバンドになると感じていましたか。
小松:どうだろう。10年前はさすがにそこまでは読めなかったんじゃないですかね。
加倉:小松さんに入ってもらった時は、この先どうなるかまでは考えてなかったですね。1曲、1曲、曲を作っていって、それがまとまったらアルバムにしたいと考えていたくらいで。ただ今回は今までよりも余裕を持てたと言うか、作品全体や自分たちがやろうとしていることを俯瞰しながらアルバムを作れたと思います。歌も演奏も両方いいものを録れた自負もありますし。私がこのアルバムのなかでグッとくるポイントは、「糸電話」の最後のビッグマフの音なんです。個人的にはあそこですごくテンションが上がるので、ぜひ聴いていただきたいです。
小松:今回のアルバムはぜひ一人でヘッドフォンで聴いてほしいですね。誰にも邪魔されずにじっくり聴くのをお勧めします。何か暗い映画を見ながら聴くのも面白いかもしれません。
──結局、暗さから逃れられないんですね(笑)。
小松:僕もミサトちゃんも根が暗いし、どうしても暗いバンドが好きなので(笑)。
──ミサトさんは今、SOSITEとソロの両輪あるのが理想的なバランスになっていますか。
加倉:ソロとバンドの双方に良い影響を及ぼしていますね。さっきも話したように、ミサトとトンカツとしてアルバムを作ったことでSOSITEでも歌に重きを置いた曲が増えたようにも思えますし。
──小松さんは数あるバンドに参加しているなかで、このSOSITEをどう位置づけているんですか。
小松:僕が入った頃はインスト主体で変わったことをやれる面白さがあったんですけど、僕自身はやっぱり歌モノにグッとくるところが多いんですよ。歌が鳴っているバンドをやるのが自分の根っこにあると思うし、ミサトちゃんの書く歌にもグッとくるし、今のSOSITEは自然とそういう流れになってきたんじゃないですかね。まぁ、先のことはわかりませんけど。僕がドラムを一切叩かずにいきなりシンセを弾き出すかもしれないし(笑)。
*本稿は2019年3月11日(月)にROCK CAFE LOFT is your roomで開催された「Rooftop presents『LOFTalk』〜SOSITE 3rdアルバム『LUNCH OF THE DEAD』先行試聴&公開インタビュー〜」を採録したものです。