ギター&ボーカルの加倉ミサトとドラムの小松正宏(bloodthirsty butchers, FOE, Crypt City, アレルギー)によるオルタナティヴロック・デュオ、SOSITEが約5年ぶりに発表する3rdフル・アルバム『LUNCH OF THE DEAD』は、従来の音楽性と特色を引き継ぎつつも着実に進化と深化を遂げたことをまざまざと見せつけた傑作だ。うつろいやすく繊細な心象風景や何気ない日常の風刺描写を唄う明鏡止水の歌声はより清洌に、静と動のダイナミズムを巧みに操る有機的なアンサンブルはより鉄壁に。最小の編成で最大のクリエイティヴを発揮する彼らが引き算の美学に基づき、あえてギアを最大まで入れずとも最上のオルタナティヴ・ミュージックを創造できることを証明した作品と言えるだろう。ROCK CAFE LOFTの公開インタビューで彼らが語った本作の制作秘話をここに採録、この至高の逸品について検証してみたい。(interview:椎名宗之)
見た目のポップさとは真逆の方向に行きたかった
──気がつけば前作『Syronicus』の発表から5年も経過していたんですね。
小松:zArAmeとのスプリット7インチ、射守矢雄と平松学とのスプリット7インチをあいだに出してはいたんですけど、ちゃんとしたアルバムのレコーディングは気づいたら4年もやってなかったんですよね。
加倉:そろそろアルバムを作りたいなとは思っていたんです。予定を先に決めないと一生作らないんじゃないかという焦りがあったので(笑)、まずはスケジュールを決めてしまったんです。
小松:僕は曲ができてから各方面に話を振ったほうがいいんじゃないかと思ったんだけど、ミサトちゃんは自分を崖っぷちに追い込むタイプなんですよ。曲がまだ揃っていないのにスケジュールを決めてしまって、マジかよ!? と思って(笑)。でもミサトちゃんのいいところは、締め切りまでにちゃんと曲を作れることなんです。コンスタントに曲ができるのはバンドにとって大事なことですからね。それはSOSITEの強みだと思います。
加倉:ギリギリまで曲はできないんですけど、本当に直前になって重い腰を上げる感じですね。
──最後のベタ踏みが半端ないと(笑)。ミサトさんのインスタグラムによると、去年の10月からレコーディングをしていたみたいですが。
加倉:ミックスの音をもっとこうしたいとか、やり取りにけっこう時間がかかっちゃったんですよね。
小松:ミックスもそうだし、ジャケットやアー写にまつわることとか、僕とミサトちゃんでやり取りすることがすごくあったんです。それに加えてレーベルとのやり取りもいっぱいあったし、まぁいろいろと大変でしたね。ミックスもアートワークも僕がいいと思ってもミサトちゃんが納得いかなかったり、ミサトちゃんの意見に対して「いや、それはないよ」とか僕も平気で言っちゃうので(笑)。こだわる部分が各々違うんですよ。たとえばミックスに関してはトータルで雰囲気が出ていれば僕はOKで、自分のドラムの音とか個々の細いことはあまり気にしないんです。だけどミサトちゃんはかなり細かいことまで気にしちゃう。
加倉:たしかに意見が食い違うことは多いですね(笑)。今回は歌がどっかり乗った曲が多いので、自分の歌やギターのエフェクトのかけ方にはかなりこだわらせていただきました。
小松:こう見えて僕も相当長くバンドをやっているし、こう録ればこう仕上がるみたいなことはだいたい想像がつくんです。ミサトちゃんはいい意味でまだ若いし、けがれがないから、そういう仕組みをよく理解していないんですよ。ドラムやボーカルは生音だから後で録り直したり差し替えたりするのが難しいんだけど、ミサトちゃんは録り方のことをあまりよくわかっていないから、後でいじれるものだと思っていたり。まぁ、健全なディスカッションだと思ってますけど(笑)。
──今回の『LUNCH OF THE DEAD』を一聴してまず感じるのは、前作と比べて音の感触がまるで違うことですね。北国の凍てついた冬空を想起させるような、あいだに一枚、透明な膜があるようなくぐもった音をしていて。ミサトさんが撮影したというアルバム・ジャケットの冬の樹々の写真を音像化したような印象を受けたのですが。
加倉:音とジャケットの関連性はあまり深く考えてなかったんですけど、ジャケットとブックレットの写真は私が札幌に帰省した時に撮ったものなんです。今回は故郷を思って作った曲もあるので、その部分ではもしかしたらリンクするところがあるのかもしれません。
小松:音に関して言うと、前作はBorisのAtsuo君と中村宗一郎さんに録音とミックスを担当してもらったんですが、今回はツバメスタジオの君島結さんにトータルサウンドコーディネートをお願いしたんです。その違いが大きいんじゃないですかね。前作はAtsuo君と中村さんが、ミサトちゃんが放っているイメージに近い音作りにしてくれたと思うんですけど、今回は暗かったり怖かったりする感じの音にしたかったんですよ。今回の収録曲で一番最初にできたのが射守矢さんたちとのスプリットに入れた「郷」(ごう)という曲で、それも基本は歌モノなんだけど、あまりポップにはしたくなかったんです。曲自体がポップでもギターの音がすごく歪んでいるとか、たとえるならダイナソーJr.みたいに音を汚してみたいっていう気持ちがあったので。見た目のポップさとか可愛らしさとは真逆の方向に行きたいと、僕は最初からずっと言っていましたね。
加倉:私はそこまで考えていませんでした(笑)。
小松:でもミサトちゃんも基本的に暗い曲が好きですからね。