“ヤングコーン”を名乗ることになった理由
──ストレイ・キャッツのカバーでも知られる「THAT MELLOW SAXOPHONE」はソウルマン・サム・エヴァンスさんがボーカルで参加していますが、これは伸太郎さんとカズ・カザノフさんの日米テナー対決も楽しめるし、武骨さと猥雑さが極まった名演で、本作でも屈指の出来ですね。
甲田:そう言ってもらえると嬉しいですね。カズ・カザノフはテキサスで活躍しているテナー・サックス奏者で、アルバート・コリンズやジュウェル・ブラウンのバックを務めてきた凄腕なんです。彼ももちろん〈イーストサイド・キングス・フェスティバル〉に出演していて、僕らの音が止んでいる時に向こうのほうから爆音のテナー・サックスが聴こえてきて、あれは間違いなくカズが出している音だなと思いました。その時はまだ彼と対面していなかったんですけどね。スタジオにカズが来た時、最初はちょっと気難しい人かなと思ったんですけど、一緒に音を出してからはお互いを理解し合えて、すごく仲良くなりました。彼はナイス・ガイですよ。
甲田:レコーディングの数日前、何かのパーティーでサムが唄っているのを観て、「このおっさん、すげぇな!」と思って。とにかくものすごい存在感だったんです。ステージが終わった後にサムと話す機会があって、その時に「今度おまえらのスタジオに行くからよろしくな」と言われたんですよ。「『THAT MELLOW SAXOPHONE』を唄うのは俺だ」って。そんなこと初耳で、びっくりしましたね。彼とのセッションもすごく楽しかったです。
──「THAT MELLOW SAXOPHONE」が日米テナー対決なら「COCKROACH RUN」は日米ギター対決で、Shujiさんとジョニー・モエラーさんのバトルが大きな聴き所ですね。
甲田:ジョニーはモエラー・ブラザーズというテキサスで人気のある3ピース・バンドのギター&ボーカルで、テキサスへ行く前から共演することが決まっていて、「COCKROACH RUN」は向こうからのリクエスト曲だったんです。レコーディングの初日からずっと一緒にやっていたニック・コノリーというキーボード奏者がいて、彼がこの曲をやる時に「頭からかまそうぜ!」と言って、その言葉で僕は一気にスイッチが入ったんです。おかげでかなり燃えました。ジョニーのギターも素晴らしいし、いつかモエラー・ブラザーズとブラサキでツアーを一緒に回れたら面白いだろうなと思いました。
──ブラサキのセルフカバーを収録したのは、結成20周年記念アルバムであることを意識した部分もありますか。
甲田:そうですね。キラキラした部分を再録しようと思って。とにかくやる曲が多くてなかなか新曲を入れられなかったんですけど、僕は今回のために3曲書き上げて、他の曲とのバランスを考えて「BLUE CORN」を入れたんです。あと、トロンボーンのCohは「LATE SUMMER IN AUSTIN」を、ギターのShujiは「SOMETIME AGAIN」をそれぞれ書いてきて。新曲のアレンジに関しては向こうに行ってから固めました。
──「BLUE CORN」は渡航前の伸太郎さんがテキサスをイメージして書かれたそうですね。
甲田:まだ見ぬテキサスという地を思って書きました。テキサスに所縁のある映画を見たり、大陸感のある小説を読んだりしてイメージを絞り出しましたね。
──ちょっとメランコリックな雰囲気があるのは、ライ・クーダーが音楽を担当した『パリ、テキサス』の影響もありますか。
甲田:『パリ、テキサス』は一番最初に観ました。あの映画の冒頭の荒野をさまよう孤独感、漠然とした大陸感、荒野の岩肌のイメージはだいぶ影響を受けたと思います。
──古くからのファンにとって「走れヤングコーン」は嬉しい再録だと思いますが、伸太郎さんはそもそもどんな経緯で“ヤングコーン”を名乗ることになったんですか。
甲田:当時、僕とCohがラーメンにハマっていて、あるとき食べたラーメンの具になぜかヤングコーンが入っていたんです。それがものすごい異物感で、しばらくジッと見ても慣れなかったんですよ。その翌日にメンバーに「昨日食べたラーメンにどういうわけかヤングコーンがのっててさぁ…」と話して、それがすべての始まりですね。たしか名古屋のライブだったと思うんですけど、「テナー・サックスの甲田“ヤングコーン”伸太郎です!」と挨拶したらそこそこウケたんですよ。自分としては2、3カ月くらい経ったら外すつもりだったのに、それを察したメンバーがヤングコーンとかコーンの付く曲をたくさんつくってくるようになって外せなくなってしまって(笑)。最初の1、2年は嫌でしょうがなかったけど、今はすっかり愛着がありますね。テキサスでもヤングコーンが力を発揮して、覚えやすい名前だからなのか、客が「ヤングコーン! ヤングコーン!」と連呼するんですよ。未熟なうちに摘み取ったトウモロコシという決して格好いい言葉じゃないのに、ここまで来るともう絶対に外せませんね(笑)。