やることは日本でもテキサスでも一緒
──自分たちと年齢の近いシンガーとのフィーリングやフィット感は、ジュウェル・ブラウンさんのような大御所とは違いましたか。
甲田:やっぱりジュウェルには気を遣う部分がありましたからね。ジュウェルにしてもビッグ・ジェイにしてもレジェンドなので敬意を表していましたし、彼らがこうだと言えばそれは絶対だったので、そこは合わせるしかありませんでした。それに比べて今回セッションした5人は日本でリハスタに入るような感覚でお互いに意見を言い合えたし、こちらも気持ち良く演奏ができましたね。
──思惑通りに良いテイクが録れた曲はどのあたりでしょう?
甲田:ディアンナとやった「I'VE GOT A FEELING」と「I GOT SUMPIN' FOR YOU」、〈ソウル・サポーターズ〉とやった「I'LL BE THERE」、ジェイ・マラーノとやった「WALKING THE DOG」、7インチのカップリングにもなった「THE GRAPE VINE」あたりはこっちの思惑通りにやれましたね。ノリの良いリズム&ブルース・ナンバーは〈ソウル・サポーターズ〉の歌がハマったと思います。
──逆に、予想外に上手くいった曲を挙げると?
甲田:「I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU」もそうですし、「FEELING ALRIGHT」は特にそんな感じでした。
──「FEELING ALRIGHT」は意外な選曲でしたね。トラフィックの曲をブラサキがやるとは夢にも思いませんでしたが、これが実に素晴らしいテイクで。
甲田:あの曲が候補に挙がった時、僕らはまったく乗り気じゃなかったんですよ。ところが実際にやってみたらすごく良かった。〈イーストサイド・キングス・フェスティバル〉で披露した時もすごい盛り上がりましたからね。最初はどう落とし込めば良いのかまったく想像がつかなくて、やるのはどうかなと思ったんですが、人の言うことは聞いてみるものだなと思いました(笑)。
──同じロック系の曲で言えば、ジャニス・ジョプリンの「ONE GOOD MAN」はやってみていかがでしたか。
甲田:あれはもともとライブでやるための曲で、収録する予定がなかったんですよ。
──ジャニスがテキサス出身だからやることになったとか?
甲田:クリスタルの持ち曲だったんです。オリジナルは典型的なブルースだからやりませんか? と言われて、向こうでアレンジして、早速ライブでやることになりました。
──臨機応変にその場で音合わせができてしまうのが単純にすごいと思うのですが。
甲田:やれちゃうものなんですよね。音だけでしか会話ができないし、言葉が通じなくても音を出せばわかり合えますし。リハーサルで完成させていく曲もありますけど、「ONE GOOD MAN」は現地のラジオ局のスタジオ・ライブをやって完成した気がしますね。そのライブを観たエディが「『ONE GOOD MAN』を録らないか?」と提案してきたので一応録音してみたんですが、収録する予定はなかったんです。最終的に何を収録するかの段階で、「いや、これは入れるでしょ?」みたいな感じになりまして。
──現地のシンガーたちとセッションして学べたのはどんなことですか。
甲田:ライブもレコーディングも、そこに至るリハーサルまでも含めて、いつもと一緒だなと思いました。ブラサキが普段からすごく特殊な録り方をしているからかもしれませんが、やることは日本でもテキサスでも一緒なんだなと。だから向こうでも気がラクになったし、ニュートラルでいられれば言葉の壁を超えてセッションできるんだなと強く思いましたね。レコーディングに関しては強烈な仕切りを見せたエディの存在が大きいですけどね。
──『IN TEXAS』のほうは新曲やセルフカバー、時代を超えた名曲のカバーを収録した単独名義の作品で、『I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU』よりもリラックスして聴ける印象を受けましたが。
甲田:レコーディングの後半でやった曲が多いので、だいぶ環境に慣れてきたのもあるかもしれませんね。ルイ・ジョーダンの「RUN JOE」のように引き続き〈ソウル・サポーターズ〉に参加してもらった曲もあるんですが、やっぱりあの2人はいいですね。リズム&ブルースのツボをよく理解しているし、実は曲ごとに2人で相談して一生懸命考えて、かなり緻密に唄い分けをしているんです。エディが「これは〈ソウル・サポーターズ〉に任せよう」とよく話していて、それはとても納得できました。ちなみに言うと、「RUN JOE」はブラサキ側からのアイディアで、『I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU』のほうに入れるつもりだったんですが、アルバムにちょっとハマらないとエディが判断して『IN TEXAS』に入れることになったんです。