今年、結成20周年を迎えた日本屈指のジャンプ・バンド、"ブラサキ"ことBLOODEST SAXOPHONE〈ブラッデスト・サキソフォン〉。近年はジュウェル・ブラウンとの共演で『FUJI ROCK FESTIVAL '15』への出演、9月に亡くなったレジェンド・ホンカー、ビッグ・ジェイ・マクニーリーとの日本公演およびレコーディングを実現させ、海外フェスへの出演、さらに香港へ進出して年に2、3回開催の公演すべてをソールドアウトさせるなど、快進撃を続けている。
そんな彼らが、結成20周年を記念したテキサス・オースティン録音盤『I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU』と『IN TEXAS』を2カ月連続でリリースした。前者は次世代のブルースの女王と名高いクリスタル・トーマスを始めテキサスで活躍する5人の女性ボーカリスト、現地ミュージシャンたちとつくり上げたブルース&ソウル・アルバム。後者は待望の新曲、セルフカバー、名曲カバーの数々を精選したブラサキの単独名義作品。いずれも戦後まもなくジャンプ・ブルースが定着したテキサスの地で、言葉の壁を超えて音だけでフィーリングを共有し合うブラサキと現地のミュージシャンたちが丁丁発止と渡り合う様を克明に記録した傑作であり、ビッグ・ジェイ・マクニーリーのライブ招聘に端を発したブラサキのルーツ・ミュージックを辿る旅がいよいよ面白いことになってきたのが如実に窺える。この一連の〈テキサス・オースティン〉プロジェクトについて、ブラサキの顔役、テナー・サックスの甲田"ヤングコーン"伸太郎を直撃した。(interview:椎名宗之)
6日間で2作品分の30曲弱を録音
──今回の〈テキサス・オースティン〉プロジェクトはどんな経緯で始まったんですか。
甲田:その前年(2016年)の末に香港公演があって、滞在先のホテルでボーッとしていたら、A&Rの川戸(良徳)君から連絡をもらったんですよ。「来年(2017年)の9月にテキサスを目指しましょう」って。彼が言うには、その年の9月に〈イーストサイド・キングス・フェスティバル〉という野外フェスが向こうであると。ブラサキがテキサスに乗り込んでそのフェスに出演しつつ、年齢の近い現地のシンガーたちと一緒にレコーディングする企画が持ち上がったと。ジュウェル・ブラウンと共演した『ROLLER COASTER BOOGIE』やビッグ・ジェイ・マクニーリーとタッグを組んだ『BLOW BLOW ALL NIGHT LONG』を一緒につくったMr.Daddy-Oレコードが発案した企画で、面白そうだからぜひやろうということになりました。
──5人の〈テキサス・ブルース・レディース〉たちの人選はどのように決めていったんですか。
甲田:Mr.Daddy-Oレコードの日暮泰文さんと高地明さん、A&Rの川戸君、今回のプロデューサーであるダイアルトーン・レコードのエディ・スタウトらと話し合いを重ねていくなかで決めていきました。クリスタル・トーマスの名前は最初から挙がっていましたね。
──結果的に6日間で2作品分の30曲弱を録音したそうですが、渡航前に準備をするだけでも相当な時間と労力が必要だったのでは?
甲田:完全に制作サイドの無茶振りですね(笑)。その先に結成20周年というのもあったし、制作費もかかるし、どうせ行くなら録れるだけ録ってしまおうということになったんです。選曲やアレンジなど、日本でできる限りの準備はもちろんしたんですが、向こうへ行って一から練り上げた曲もあったし、完全につくり込んであった曲でもエディが首を縦に振らないケースもあったんです。そこからまた崩してやり直して…の連続でした。
──オースティンでの怒涛の日々は『I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU』と『IN TEXAS』それぞれのライナーノーツに詳しく記されていますが、リハーサル、ライブ、レコーディングとかなりの過密スケジュールだったんですね。
甲田:大きく分けると前半がライブ、後半がレコーディングでした。とにかく頑張っていたら終わらない作業量だったので、徹底的に楽しむことにしましたね。録りながらアドリブ的要素を常に求められるし、頭の中を空っぽにしておかないと良いものが出てこないので、とことん楽しもうと。1日の終わりに酒を呑んでリフレッシュもしたし、翌日は爽やかな気持ちで郊外にあるスタジオに行ってレコーディングに集中する感じでした。
──現地でのライブは最初から非常に盛り上がったそうですね。
甲田:最初のライブは〈アントンズ〉という老舗のライブハウスで、そこではクリスタル・トーマスと共演したり、ジュウェル・ブラウンとの再演が実現した後にブラサキが単独でやらせてもらったんです。初めてのライブをやりやすいようにエディがそういう段取りにしてくれたんですね。その単独ライブをただ普通にやっても絶対にウケないと思ったので、ステージを飛び降りて、後ろのほうで構えている客に全員「こっちへ来い!」って吹きながら煽ったんですよ。最初から聴く姿勢のない客がいたので、力づくで巻き込んで。結果的にすごく盛り上がりましたけどね。
──ブラサキは〈イーストサイド・キングス・フェスティバル〉のメインステージでハウスバンドを務めたとか。
甲田:〈アントンズ〉の翌日ですね。〈イーストサイド・キングス・フェスティバル〉はエディ主催のフェスで、僕らの演奏に〈テキサス・ブルース・レディース〉の面々が入れ替わり立ち替わり唄う趣向だったんです。前日のライブが効いたのか、「日本からバンドが来てるらしいぞ」みたいな噂が立って客もよく集まって、すごくやりやすかったですね。
──現地でのライブがレコーディングに向けた公開リハーサルにもなった感がありますね。
甲田:結果的にそうなりましたね。ライブ感のあるレコーディングができるようになったので。ただ、ライブでやったのはレコーディングする曲じゃないのがほとんどだったんです。だからライブとレコーディングを合わせると、テキサスで演奏したのは全部で60曲くらいあったと思います。ボーカリストたちの持ち曲と僕らが提案した曲を混ぜると、それくらいありました。ライブでやる曲のリストがエディから来たのは渡航の数日前で、日本ではもうスタジオに入れないから向こうでリハのスケジュールを組んでくれとエディに頼んだんですよ。それで旅の前半は、昼にリハーサル、夜にライブという行程になったんです。
──宿泊先はリハーサルができる宿だったそうですね。
甲田:1900年に建てられたという旧家に民泊しました。そこのリビングを使ってリハーサルをしたんですが、昼間は音を鳴らし放題だったのがありがたかったです。夜になって暗くなると「ちょっと抑えてくれ」と言われるんですけど、それまではドラムでも何でも鳴らし放題でした。