Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー戌井昭人(Rooftop2018年5月号)

戌井昭人『想い出の音楽番外地』連載3周年記念インタビュー&イベントレポート

2018.05.01

 野間文芸新人賞受賞作家にして、唯一無二のパフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」主宰の戌井昭人氏が本誌にて連載するコラム『想い出の音楽番外地』が、この度、初掲載から3周年を迎えた。この長寿連載を記念して、去る4月18日、LOFT9 Shibuyaで開催された、『戌井昭人の出張名曲喫茶』のイベントレポートと、ご本人の想い出の音楽についてインタビューを敢行![INTERVIEW:マツマル(LOFT9 Shibuya)]

青春時代の「想い出の音楽」

―今回は『想い出の音楽番外地』連載3周年ということで、戌井さんと音楽の関係性について掘り下げていきたいと思います。戌井さんご自身が主宰をされている「鉄割アルバトロスケット」ではクセの強いギター演奏をされている印象がありますが、青春時代にギターを初めて手に持った頃の戌井さんにとって憧れの存在は誰になるのでしょうか。

戌井:当時は尾崎豊とか長渕剛とか聴いてましたけど。ライブに通ってたようなところだとエレファントカシマシですかね。当時はボーカルの宮本さんがギラギラしてて、笑ってるお客さんがいたら「笑ってんじゃねえ!」って怒鳴りながら、スピーカーを蹴り倒してたような時代でしたから、憧れるっていうよりかは、「すげえな~」って存在でしたけど。

―今じゃ考えられないですよね。それはいつ頃の話ですか?

戌井:僕が高校2年とかそれぐらいの頃ですかね。あと、当時は今みたいにネットで動画が見られなかったので、移転する前の新宿ロフトの近くにあったエアーズで、海外のバンドのビデオを眺めたりしていました。

―その辺りの時期で言う「想い出の音楽」はありますか?

戌井:うーん、連載でも取り上げたところだと、Theピーズ(※連載第26回)ですかね。あとはキース・ジャレットをキース・リチャーズと間違えて買っちゃった(※連載第13回)のも想い出に残ってます(笑)。「青春時代に聴いてた音楽」っていう感じのだと、RCサクセションとかになってきますけど。背伸びしたところだと、トム・ウェイツあたりでしょうか。

 

実用性>想い出の『キャットナッパー』

―コラムを読んでいると、「旅行した時に聴いていた曲」を取り上げる回が何度かありますよね。「旅と音楽」で想い出に残る出来事はありますか?

戌井:モロッコに行った時、「グナワ」っていう音楽集団に出くわしたんですけど、言葉は通じないのになぜか仲良くなって(笑)、気が付いたら知らない人の結婚式に参席していたことがありました。

―コラム内で「旅の情景と音楽が重なる瞬間」に触れていることがありますけど、戌井さんの生活は音楽と密接な関係ですよね。

戌井:たまたま自分が選んだ音楽と、その時の情景や感情が一致したと感じる瞬間はゾクゾクしますよね。

―小説などの執筆の合間に音楽を聴いたりしますか?

戌井:いや、あまり聴かないですね。執筆するときはラジオを流していることが多いかな。

―戌井さんがちょっと休憩したい時に『キャットナッパー』というアルバムを聴いていい感じで昼寝をしていると知って(※連載第34回)、本誌の編集長が本気で買おうか迷ってましたよ(笑)。

戌井:あれは鉄割にも出てくれている舞踏家の向雲太郎さんが、舞台の本番前とかに横になって聴いているCDなんですけど、調べていくと最終的にあやしい研究所にたどり着くので、購入するとなるとハードルが高いかもしれないですね(笑)。

 

連載はまだまだ続く!?

―コラムの題材ですが、いわゆる「王道」はわざと避けているような印象を受けます。

戌井:意図してるわけでもないんですが、そうかもしれないですね……。王道だと、ポール・マッカートニーを取り上げてますけど、これも「Check my machine」という歌詞が「チェック、まぶしい」と聞こえて、曲調的にフィッシュマンズの歌と勘違いした、というものですし(笑)。(※連載第32回)

―言われてみればフィッシュマンズに聴こえてきますよね(笑)。必ず新譜が出たらチェックしているアーティストはいますか?

戌井:あんまりいないですけど、連載でも取り上げたところだと、フェミ・クティですかね。あとは最近だとNINJASっていうバンドがすごく気になってます。

―情報は主にどんな媒体で仕入れることが多いのでしょうか。

戌井:ラジオとか、ジャニスの半額券で借りまくったりしてましたけど、最近だとApple Musicでどんどん辿っていけるので、そこから見つけるパターンが多いですかね。以前はレコードも買ってはいたんですけど、Apple Musicが本当に便利です。

―早いもので連載開始から三年経つのですが、お話を聞く限り、ネタ切れの心配はなさそうで安心しました。

戌井:正直、『キャットナッパー』を出した時は、我ながら「ネタ切れと思われそうだな」っていう自覚はあったんですけどね(笑)。

―ちょっと思いました(笑)。でも青春の音楽として挙げてくださったRCサクセションとかもまだ未掲載ですもんね。

戌井:そうですね、RCもだけど、ほとんど下ネタみたいな青春時代の恥ずかしい思い出だとか、話していたらいろいろと思いだしたんで、もうちょっとお付き合いいただければと思います。

 

<イベントレポート>

 

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楽屋で酒盛り! 既に出来上がった状態で開演

 定刻の19:30にイベントがスタート。MCの豊崎由美さんの紹介ののち、音楽評論家の湯浅学さん、音楽家の中原昌也さん、渋さ知らズの渡部真一さん、戌井さんと錚々たる顔ぶれが登壇。すでに楽屋で焼酎のボトルを一本空けていたため、既に各人ほろ酔いといった印象。

 MCの豊崎さんの「初めて好きになったアーティストは誰か」という質問には、湯浅さんが「植木等」、渡部さんが「RCサクセション」中原さんが「金井克子」、戌井さんが「八代亜紀」と、返答。

 その後、引っ越し作業があるため、前半のみ出演となった湯浅さんが持参した、初めて買ったレコード、『帰ってきたヨッパライ』をみんなで傾聴。(ちなみに当イベントの主役である戌井さんが初めて買ったレコードは「ポルシェの音を集めたやつ」とのこと)

 渋さ知らズがケルンの音楽祭に呼ばれた際、マトモな契約書が交わされておらず、危うく路頭に迷いそうになった話や、ルー・リードがゲームセンターでパックマンをプレイ中にファンに話しかけられてブチ切れたエピソードなど、本筋からは些か脱線気味の音楽談義が盛り上がる中、湯浅さんが持ってきたもう一枚の想い出のレコード、鈴木やすしの『ジェニ・ジェニ』を聴きながら前半のトークパートが終了となった。

 幕間、謎の一人インストゥルメンタルバンド・夜霧のギター村上陽一さん(鉄割の常連役者でもある)による「シンナーを吸いすぎたジャンゴ・ラインハルト」のようなライブを挟み後半のトークパートへ。

 

ヨッパライたちの饗宴は続く

 既に前半だけで焼酎のボトルを2本も空けた出演者一同が再び登壇。今度はそれぞれがウィスキーのロックを片手に乾杯で後半がスタートした。いい感じに酔いながらも、豊崎さんがMCらしくそれぞれの想い出の音楽をなんとか訊き出そうと試行錯誤するが、テーマからは脱線の連続、音楽好きの酔っ払い達による居酒屋トークはさらにエスカレート。

実は初期の渋さ知らズに渡部さんだけでなく戌井さんもメンバーとしてオファーされていた……という驚きのエピソードが飛び出したりもする中、当コラムでも取り上げられたアーティスト、池間由布子さんによる飛び入りアコースティックライブが開催されるなど、イベントはもはや収束不可能な状況に。

 終演予定時刻の直前になっても「想い出の音楽」が出てこない中原さんに、「さすがにそろそろ教えてくださいよ!」と、詰め寄る豊崎さんに対して、「じゃあ想い出の小説は何か訊かれて、すぐ出てきますか!?」と逆ギレする中原さん。さすがの豊崎さんも、「たしかにそうですね……」と言葉を失う中、戌井さんの最近のお気に入りだというNINJASの『DEVIL』が大音量で流れ、渡部さんの、「音楽最高!!」という掛け声とともに、イベントは半ば強引に終演となったのだった。

結果的に中原さんの想い出の音楽はハッキリとしないままだったので、次回『想い出の音楽番外地』5周年記念イベントまで持ち越し……かもしれない。

 

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左から豊崎由美、湯浅学、渡部真一、中原昌也(敬称略)

 

 

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夜霧・村上陽一によるライブ

 

 

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池間由布子による飛び入りライブ

 

戌井昭人(いぬいあきと)1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。

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